Web 絵草紙
「陽成院の御代に滝口、金の使に行きたる語」 3/5

しばらく行くうちに馬で追いかけてくる者があります。
追いついたのを見れば、昨夜の饗宴で見掛けた郡司の郎等です。
「朝のお食事を用意しましたが、既にご出立になられたとか。このような物までお忘れになるとは余程お急ぎのご様子。主人の言いつけにより拾い集めてお持ちしました」

捧げ持った白い紙包みを道範(みちのり)が開いてみると、松茸のような物が九つ並んでいるのです。
使いの者が駆け戻って行った後、家来共を集めて皆で見ているうちに、それは一度に消えてしまいました。
「そう言えば、こんな事があった」と互いに言い合い股間をさぐると、それは皆もと通りに付いているのでした。
 
陸奥(みちのく)からの帰り道、またこの郡司の家に立ち寄り、馬や絹などたくさんの物を与えましたから郡司は大喜びで、
「これはまた、どのような訳で頂けるのでしょう」
道範は郡司のそばに寄り、
「大変恥ずかしい事だが…」と、あの夜の事件を話し、
「どうも不思議でならないので、お尋ねしたい」
贈り物に気をよくした郡司は今は隠さずに、
「私の若い頃の話ですが、この国の更に奥の郡(こおり)に司(つかさ)の老人がおりました。その妻が若く美しいので忍んで逢いに行った事がありましたが、その晩あなたと同じ事が起きたのです。それで、その郡司に頼み込んで術を習得しました。」