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「もし、それを習いたいとお思いでしたら、今は大事なお使いの途中ですから、それを終えて、改めて来られるのがいいでしょう」
ということですから、道範(みちのり)は約束を交わして都に上り黄金を納めると、休暇を貰って郡司の家に戻りました。
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都からまた贈り物を持参したので、喜んだ郡司は、
「知っている限りは教えましょう。ただ、これは簡単には習得できません。七日の間精進潔斎してから始めます。早速、明日から始めてください」
というので、七日の間冷水を浴びて身を清め、八日目の未明、郡司は供の者も連れず、道範と二人、深い山にはいりました。
大きな谷川の岸に行き着くと、『仏教を信じない』など様々の罪深い誓いを立てました。
「私は川上に行きます。あなたはここにいて、上から流れてくる物があれば、鬼であれ神であれ飛び込んでそれに抱きつきなさい」
郡司は言い残して上流に去って行きました。
そのうちに上流から空が曇り、閃光が走り雷鳴が轟くと風雨が激しく起こり、沢の水かさが増してきます。
やがて、一抱えはあろうという巨大な蛇が流れに乗って現れました。
目は金色に輝き、のどから下は赤く、背は青緑色に光っています。
『何でも流れてくる物に抱きつけ』ということでしたが、道範はあまりの恐ろしさに思わず草むらに逃げ込んで隠れてしまいました。
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