Web 絵草紙
「修行者、人の家に行き女主を祓へして死にたる語」 2/4

「その祈祷をすればどういう御利益がありますか」と女が聞くと
「身を清めてその祭をすれば、身にやまい無く、自然と財産が増え、神のたたりも無く、夫婦円満、願い事はすべてかないます」
「その祭にはどんな用意がいりましょうか」
「御幣を作る紙、白米が少し、時節の果物や油などがあれば、ほかに特別なものはいりません」ということですから、
「それは容易なことですね。それなら、その祭をして頂けますでしょうか」
と、女が言えば、僧は快く承諾して家にとどまり、女に食物や身の回りに気を配って清浄に保つようにさせました。
僧は三日の間に祭の用意を調え、
「この祭は他人に見られないように、山中でひそかに行います」
と、女とふたり用具を持ち、深い山の中にはいり、旗を立て、米、果物などをそなえて祭文を読み、祭を終えました。
「夫の留守の間にすばらしい御祈祷をしてもらった」
喜んで家に帰ろうとする女を、あらためて僧が見れば若くて美しい女ですから、たちまち愛欲の心がおこり他の事はすべて忘れてしまいました。