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中将は不思議に思って、
「どうしてそんなに悲しまれるのか」と聞けば、女は
「ただ何となくもの悲しく思えるのです」
「どうもおかしいな。もう、こういう仲になったのだから何事も隠さないでください。ただごとではないように思われるが、いったいどういう事があるのか」と、強いて聞けば
「隠そうとは思いませんが、お話しするのがあまりにつらい事なので」と泣く泣く申します。
「言ってください。もしや私が死ぬような事でもあるのですか」
「本当に、隠すべきことではありません。わたくしは都の名ある家の娘でしたが、両親が亡くなり、ひとりで暮らしておりました。
この家の主人は乞食の裕福になった者ですが、これがたくらんで、わたくしをかどわかし、ここで養っておいて、時々身なりを整えさせて清水寺に参詣させます。
行き会った男がわたくしを見てあなたのように思いを掛けますと、ここにおびき寄せて、眠った頃に天井より矛(ほこ)をおろします。わたくしがそれを男の胸に当てると刺し殺し、掘の外では待たせておいた供の者も殺して、衣装(高価でした)や馬を奪うのです。
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こんな事がすでに二度になりました。
これからもこんな事が続くのでしょう。
それで、今度はわたくしが殿に代わって矛に刺されて死のうと思います。
急いでお逃げください。お供の方は皆殺されましたでしょう。
でも、もうお会いできないと思うと、それが悲しゅうございます」
女はそう言って泣き伏すのでした。
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