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中将はこれを聞いて呆然となってしまいましたが、それでも気を取り直して
「まったく恐ろしい事だ。私の身代わりになろうというのは有り難いが、あなたを見捨ててひとりで逃げるとは悲しいことだ。一緒に逃げよう」と言えば、女は
「何度もそう思いましたが、矛が下りたままでは、怪しんで急いで下りてくるでしょう。ふたりともいなければ追っ手が掛かって、ふたりともに殺されましょう。
それよりは殿ひとりでも生き残って、わたくしのために功徳を積んでください。この後も、どうして繰り返しこんな罪を作れましょう」
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なんとかそこから這いだしてください。
もう、その時になったようです。矛が下りたら胸に当てて刺されて死にましょう」
と言ううちに奥の方で人声がしますから、恐ろしいこと限りありません。
中将は泣く泣く起きて、着物一枚ばかりを引っかけて、教えられた逃げ道を経て水門を這いだしました。
出たまではよかったのですが、その先の道がわからず、やみくもに走ってゆくと、後ろから人が追ってくるようです。
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