Web 絵草紙
「清水の南辺に住む乞食、女を以て人を謀り入れて殺せる語」 4/5

中将はこれを聞いて呆然となってしまいましたが、それでも気を取り直して
「まったく恐ろしい事だ。私の身代わりになろうというのは有り難いが、あなたを見捨ててひとりで逃げるとは悲しいことだ。一緒に逃げよう」と言えば、女は
「何度もそう思いましたが、矛が下りたままでは、怪しんで急いで下りてくるでしょう。ふたりともいなければ追っ手が掛かって、ふたりともに殺されましょう。
それよりは殿ひとりでも生き残って、わたくしのために功徳を積んでください。この後も、どうして繰り返しこんな罪を作れましょう」

なんとかそこから這いだしてください。
もう、その時になったようです。矛が下りたら胸に当てて刺されて死にましょう」
と言ううちに奥の方で人声がしますから、恐ろしいこと限りありません。
中将は泣く泣く起きて、着物一枚ばかりを引っかけて、教えられた逃げ道を経て水門を這いだしました。

出たまではよかったのですが、その先の道がわからず、やみくもに走ってゆくと、後ろから人が追ってくるようです。

「あなたが身代わりに死んでくれようというのに、功徳を積んでその恩に報いずにいられようか。……しかし、どうやって逃げたものかな」

「堀の橋は渡られてのち引き外してしまったでしょうから、あそこの開き戸から出てむこうの堀の狭い所を越えれば塀に狭い水門があります。