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明け方には出掛ける用事があるので見舞ったら帰ろうと思っていましたが、様子を見ると病のせいか心細そうでいつもより身に沁みていとおしく思えるので、そのまま床を共にしたのでした。
夜もすがら語り明かして、明け方の別れは後ろ髪を引かれるようにつらかったのですが、振り切るように屋敷を出ました。
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帰る途中も高経は気がかりでなりませんでしたが、帰ると「気がかりなので、用事が済み次第もどります」との手紙を届けさせ、返事を今か今かと待っておりました。
やがて使いの者が返事を持って戻ったので、急いで開いてみれば「鳥辺山」とあるきりで、ほかに何も書いてありません。
高経はとても悲しく思って、手紙をふところに入れ、肌であたためるようにして用事の場所に向かいました。
道すがら何度も取り出して見るのでしたが、それは見事な筆跡なのでした。
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