……それから、リュミアやディアルトが、ティリーシャと一緒にシードが教えてくれた校舎裏へと行ってみると、そこには確かに人の姿があった。
ミーシャに仕事を任せてシードもついてきているのだが、シードは自分の言っている事が間違っていなかった事に一人で胸をなでおろしていた。
「何をやっているんですか?」
数人で人の輪を作り、何かを取り囲んでいたその人影を見てディアルトが声をかけると、その人影かちピョコリと顔を覗かせたリオン・ラグーンが、
「リパルお姉さんがハトを飛ばすんだ」
と、大雑把に状況を教えてくれた。
その側によって見ると、リオンと一緒に遊んでいたティリスやシュークレアたちに囲まれて、つい最近までアルケニアに行っていた魔導学院の生徒、ウァルハーリパル・エスタが、鼻歌を歌いながらアルケ二アから連れ帰ったハトの足に何かを結び付けている最中だった。
「ぽっぽっぽー。はとぽっぽー♪」
「もしかすると、伝書鳩ですか?」
ウァルハーリパルが何をやろうとしていたのかを一目見て察したティリーシャが声をかけると、ウァルハーリパルはこくんと頷いた。
「ふおるなすてぃあだいさばくにむかっている、しえなひるとさんたちにおてがみをとどけるんです」
「シエナヒルトっていうと、随分以前にリディアが会いにに行っていた、アルケニアで動いている英霊たちの纏め役みたいな人のことよね?」
「そうです、そのしえなひるとさんときょうりょくしてまものとたたかうために、こうやってれんらくをとり
あっているんです」
実際にハトを飛ばしても、フォルナスティア砂漠にいるシエナヒルトたちに直接届くわけではない。滅んでしまったセレスティアの魔導学院などの中継地点にハトを飛ばし、そこで連絡のやり取りをしようというのである。
「その人たちも、いつか私たちと一緒にダークレイスと戦ってくれるのでしょうか?」
「きっと、たたかってくれるとおもいます」
ディアルトとウァルハーリパルがそんな話をしている間、リオンとティリスはクロムが作ってくれた和の印(ヘルディスケープネ)が記されたお守りをハトの首につけて、そのままハトを大空へと舞い上がらせた。
「セレスティア、遠いけどがんはってね!」
「気をつけてね〜っ!!」
リオンやティリスが飛んでいくハトに向かって無邪気な声をかける中、シュークレアも小さくなっていくハトを無心に見つめ続けていた。
「へえ……。こうやって情報の伝達をする方法もあるんだね。初めて見たよ」
エルメスの場合は、ハトではなく使い魔を使う。
そのためか、シュークレアには伝書鳩という方法が酷く原始的で、情けない伝達手段に思えた。
ハトも人間も、みんな協力し合って行動共にしているんだよ」
そんなシュークレアの思いを知ってか知らぬか、黙っているシュークレアに対してリオンが言った。
「ふうん……。協力かぁ。みんな力が弱いから、一人じゃなにもできないんだもんね」
そういうシュークレアの口調は、まるで他人事のようなニュアンスがある、シュークレアとも仲良くしたいと思っているリオンだったが、やはり人造人間であるはずのシュークレアがどのような理由から大人しくみんなと生活しつづけているのかが理解できず、どことなく不気味な雰囲気を感じてしまう。
「そういえば、みんな聞いてよ!リオンってば私やノエルたちを放っておいて、こんなところでティリスとデートしてたのよ!」
「何っ!?リオン、すみにおけないなぁ」
シュークレアがみんなにそういうと、シードがリオンをからかうようにそんな事をいった。
「デッ、デデデートだなんて、そ、そんな……っ」
だが、やはりリオンよりもテイリスのほうが耳まで真っ赤にして恥ずかしがっている。
「何いってるんだよ。シュークレアだってノエルとべったりしてたじゃないか」
「私は本を読んでもらってるだけだもん!リオンたちみたいに手をつないで歩いたりしてないもん!!」
子択たちが低レベルな口論をはじめた中、その真中にいたウァルハーリパルはそんな様子を見てもあまり笑ったりする事もなく、
「で、みなさんはここになんのようなんですか?」
と、冷静にリュミアたちに尋ねた。
――それからは、事情を知ったウァルハーリパルやリオンたちも結界を張る作業に協力してくれて、結界作りは速やかに行うことができた。
神聖魔法の中には聖竜結界と呼ばれる魔法があるが、これをできる限り魔法を使えるものたちがサポートして負担を軽くし、長い間つかえるようにしようというものである。
常に結界を張り続けているわけにもいけないだろうが、いざ戦いの時にみんなで協力し合えば、内部の守りは一段と堅いものとなるだろう。※
……ダークレイスの脅威と戦う仲間との通信の手段として用いられた伝書鳩。
だが、仲間たちとの結束を促すために用いられたこのハトが、後々レイテノールに驚くべき亀裂を生じさせかねない情報をもたらそうとは、この時にはハトを見守っていた者たちには想像もしていなかった。