竜神族のキラ・オウジュとベルクト・ゼフィラムは、ヴァルキリーのアンジェリーク・リセエンヌをはがいじめにした。
「むちゃなことをするな」
「そうです。やめなさい」
「はなしてください。あたしはエトワールの仇を討つんです」
ベルクトはアンジェリークのほほを両手ではさんだ。
「それとイグドラシルになんの関係があるのです」
「すべてを終わりにします」
「落ち着きなさい」
アンジェリークを正面から目を見つめた。
「ヴァルキリーひとりの力でイグドラシルを壊せるはずがない。近くにいる我々が迷惑するだけです」
「いいえ、できます。エクストラ・アーツ『暴走』でハイパー・ヴァルキリーに変身すれば、戦闘力が9999になって……」
できねーよ、そんなこと。
「とにかく、あたしはイグドラシルを破壊するんです」
「あなたはかみゅーらさんのおともだちですか」
転生英雄ウァルハーリパル・エスタの霊体がいた。
「誰ですって?」
ウァルハーリパルは説明した。カミューラという名の人間が、やはりイグドラシルをねらっていると。
「その人とは気が合いそうですね。手伝ってあげようかしら」
「だめですー。やめてくださいー」
ウァルハーリパルは懇願した。
「縛ってしまおう」
とキラが提案し、ただちに実行した。
「もがが」
口をギャグでふさがれてうめくアンジェリークを尻目に、呼吸を整えた。
「イグドラシルはすでに弱っている。この者であれ、カミューラであれ、これ以上、傷つけさせるわけにはいかない」
「はい、そのとおりです」
ウァルハーリパルは熱心にうなずいた。
目を閉じ、竜力を解放した。すると、砂漠に水が吸い込むように(あるいはえさを前にした飢えた獣のように)イグドラシルが力を吸いとってゆく。
「あのー、へいきですか?」
「さがっていろ」
彼は叫んだ。
「イグドラシルよ、俺の力ならいくらでも持っていけ。この身に代えてもよみがえらせてみせる!」
「やめたほうがいいとおもいますけど」
顔が急速に青ざめてゆく。
「く……俺の力だけでは足りないのか」
「それはそうですよ。いぐどらしるはすべてのせかいをささえていますから」
彼はなおも力を送りつづけようとしている。ベルクトが彼の肩をつかみ、揺さぶった。
「もうあきらめるのです。気持ちだけではどうにもならないこともあるでしょう」
キラは力つきて座り込んだ。
ベルクトが言う。
「理性的になりなさい。イグドラシルが弱ったことにも、それなりの原因があるはずです。それを取り除くことを考えるのです」
「このままではすべての世界が滅んでしまう」
「それは概定のことでしょう?」
「しかし、イグドラシルがなくては、新たな世界を作り直すこともできなくなるのだぞ。何も犠牲にせずに世界を再生させることなどできない」
「それが分かっているのなら……」
「だから、俺自身が犠牲になろうとしたのだ。それでイグドラシルを救えるのなら、安いものだから」
だが、イグドラシルはもっと多くの代償を求めているらしい。
(このシーンでの登場NPCなし)
原文では、ウァルハーリパルのひらがな口調にカタカナの固有名詞が混じっていましたが、恐らくプレイヤーのマスターへの説明不足が原因と思われるので修正しておきました。
前世「英雄王ディグランツ」登録時の設定ではそのような「基本ひらがな、固有名詞はカタカナ」口調として設定され、「ディグランツ」第1回ではそのように描写されているのですけれど、その後吉岡マスターが「総ひらがな口調」にすることをリア上で提案してくれ、僕もその描写がたいへんに気に入ったので、以後はその方向で統一しています。