竜神族のヒスイ・キセキはイグドラシルに戻ってきた。彼にとってはなじみの場所だ。ずっとここで英霊たちを見つめてきたのだ。
久しぶりのイグドラシルで、珍しいものを見た。裸の若い娘だ。宙をただよっている。幽体らしい。
「人より生まれし者よ、何を求める」
娘はウァルハーリパル・エスタと名乗った。
「りゅうおうさまにおあいしたいんです。とりついでいただけますか」
「それは無理というものだ。ナイアルラト王は最早この世にない。次なる王はいまだ決まっておらぬ」
「こまりました。おしらせしなければならないことがあるんです」
彼女は、六魔導士のひとりカミューラのたくらみについて話した。カミューラは、人間や魔族をけしかけて白の神竜を倒させようとしているという。
ヒスイは気の毒そうにほほえんだ。
「そのような小さきこと、わざわざ知らせに来ずとも良かったのに」
ウァルハーリバルはまじまじとヒスイを見つめた。
「ちいさきことなんて……しんりゅうさまをたおそうとしているんですよ?」
「竜王はイグドラシルを守るため、諸世界すべてを滅ぼすつもりでおられた。 それに比べれば小さきこと。あの方は志なかばで世界のはざまの彼方へ去られたが、今から王になりかわり、私がそれを為す」
ヒスイはイグドラシルに同調し始めた。
「さがっていなさい。近くにいては巻きこまれようほどに」
ヒスイの体が輝きに包まれてゆく。
「世界樹よ、腐った実を落とせ」
イグドラシルがざわめいた。ウァルハーリパルはなすすべもなく見守るばかりだ。
「むっ」
ヒスイがうめいた。ふきだした汗で顔を濡らしている。
「たいへんそうですね。なにかおてつだいしましょうかぁ?」
彼女の言葉はヒスイの耳に届いていない。苦悶の表情でうめいている。
「あのー、だいじょうぶですか」
いきなり、ヒスイの体から輝きが失せた。
「う……く……」
ヒスイはがっくりとひざをついた。
「私の力を取りこもうとするとは……それほどイグドラシルは弱っているというのか?」
顔が蒼白になっている。
「いくらなんでも急すぎる」
ひどく動揺している。ウァルハーリパルは彼の顔をのぞきこんだ。
「どうしたんです?」
ヒスイはうわの空だ。
「前に来たときは、これほどひどくはなかった。いったいどうして、このようなありさまになってしまたのか」
「なにをそんなにあせってるんですか」
ヒスイはゆっくりとウァルハーリパルのほうを振り返った。
「イグドラシルは想像以上に弱っている。すでに立ち枯れしていると言っても良いほどに」
言いながら、ヒスイは首を振った。
「いやいや、そのように即断するはあまりに性急というもの。調べてみねばならぬ。もっとくわしく」
イグドラシルの死は諸世界の死を意味する。たとえ王でも、イグドラシルなしに世界を再生することはできない。
ヒスイ・キセキさんとは、実は第1回リアでは同じDブランチだったので、PC同士は面識あったのかも知れませんね。