第8回リアクションD1「不揃いな旋律〜託された想い、翔け抜ける願い〜」より抜粋

川合 勇次郎マスター執筆

Scene.9 「新たな世界へ」より

 イグドラシルの前にやってきた英霊たち。
 最終目的地ともいえる地に到着して、彼らを迎えてくれたのは、驚くべき事に、ひらがな娘という愛称で親しまれ(?)、一年近く前に死んだはずの魔導学院の生徒、ウァルハーリパル・エスタだった。
「うわぁ!リパルちゃんだ!!」
 同級生だったエイシスたちが、ウァルハーリパルの姿を見て、驚きの声をあげる。彼女は実は死んだフリをしていただけで死んでおらず、幽体離脱で竜神界にいきカミューラの存在の危機を訴えかけてくれていたらしいのだ。
「なんだぁ……リパルちゃんみたいに、こんなあっさりとイグドラシルの側にいけると知ってたら、私もRAでGブランチを選んでたのに……」
長旅の疲れか、ストレスがたまっていたエスターシャがムチャクチャなことをぼやきだす。
「えすたーしゃせんせい……いっていることのいみがわかりません」

***

 ――冗談はさておき。
 実際にウァルハーリパルは、エスターシャたちがレイテノールから旅を続けていた間も、竜神界に残っていた竜神族たちにカミューラの危機を呼びかけ、影ながら人間と竜神族の間を取り持とうと頑張っていたのだ。
「りぱるのゆめは……むかしからろくまどうしたちの【れぐるたしそうがく】と、しんりゅうしんこうとのひかくろんをけんきゅうすることで、ろくせんねんものたいけつに、わかいのいとぐちをみつけだすことでした」
 幽体だけなためか、すこし透けたはだかの状態のまま、リパルが話を続ける。
「ですから、いぐどらしるをころそうとしているかみゆーらさんにたいするききかんを、すこしおおげさにりゅうじんかいにけいこくすることで、おたがいのきんちょうじょうたいをたもっておこうとしたんです。にんげんがかっても、りゅうじんぞくがかっても、どちらかがまけてせかいはおわってしまうんです……」
 少し聞き取りづらい言葉だが、ひとまずウァルハーリパルは自分の気持ちをエスターシャたちに伝えた。
「でも、だめだったんです……さいあくのじけんがおきてしまいました」
 ウァルハーリパルの意兄に耳を傾け、真剣に対応してくれる竜神族が増え始めた頃に悲劇が起こった。
「……りゅうじんかいが、さえてしまったんです。たくさんのりゅうじんぞくのかたがたといつしよに……」
「竜神界が消えた!?……避難場所候補の一つだった場所が……消えちゃったの?」
 ウァルハーリパルの言葉を聞いて、エスターシャが少しだけがっかりと項垂れる。
「……でも、こうなると何が起きても不思議じゃないわね」
 とにかく、まだこの世界とイグドラシルは残っている。
 エスターシャはそういって前向きな言葉でウァルハーリパルを励ますと、ウァルハーリパルも少しだけ頷いて、
「さいわい、りゅうおうさまはいきておられます。うわさでは【おうしゃく】とか【しんりゅうのたま】とか【たね】とかが、あたちしいせかいへのみちをきずくものなんだとか……」
「王杓とかタネっていうのは良くわからないけど、神竜の珠っていうのには、なんだか心当たりがあるわ!」
 エスターシャはそう言うと、ユーリスが大切に持っていたカロンの魂をウァルハーリパルに見せた。
「なるほど……私が幻視で見たのは、このことを暗示していたのね。竜王が新しい世界をつくるために、必要な物を英霊たちが集めてきているんだわ!」
 数ヶ月前に見た幻視の意味がようやくわかり、エスターシャが納得する。
「他にも、いろんなものが必要なのね……でも、申し訳ないけど、私たちにできるのは、このカロンの珠で精一杯。すぐにでも、イグドラシルに寄生したあいつらを何とかしなければね……」
 ……二ヶ月ほど前、リーヴァインが言い残した台詞が気になる。今の世界とイグドラシルとの緑を切らなければ、新しい世界は生まれない……というような台詞である。
「……本当、みんなを救うために、死ににいくのかもしれないわね」
 身体が透けているウァルハーリパルを見つめながら、エスターシャがそう呟いて苦笑した。

***

 ……そして、そのイグドラシルの幹のとある一部では。
 かつてリーヴァインに付いて、六魔導士ゼヴェウスの命を狩ってきたことのある融合魔族のバディ・ルシが、リーヴァインと共にカミューラとの接触を果たしていた。
「……なんだ?この女が、イグドラシルを滅ぼすために行動しているという魔女カミューラなのか??」
 カミューラを見たバディの第一の感想は『意外』だった。艶やかで長い黒髪を持つカミューラは、その目を閉じ、物静かに際想にふけっていたのだ。その姿からは、とてもではないが狂気に取りつかれたという魔女の印象が感じられない。
「……イグドラシルの根源を侵食し、攻撃している最中なんだって。実際、カミューラがああし始めてから、枯れるスヒードが百倍以上に早まってきているよ」
 不満そうにカミューラを見つめるバディに、リーヴァインが説明する。カミューラの側にはアルベラがいて、常にカミューラの身の回りの世話を行っていた。
「……まあ、世界を滅ぼすという行動が真実ならば、それがどんな形だろうがこだわるつもりはねぇ」
 バディは言い捨てるようにリーヴァインにそういうと、そのままリーヴァインにこれから何をするつもりなのかを尋ねてみた。
「俺やカミューラは、世界の滅びを望んでいるが……正直なところ、リーヴァインは何を望んでいるんだ?」
「僕?僕が望んでいるのは、君と同じ全ての滅びだよ」
 リーヴァインはそういって、バディに微笑みかけた。その笑みはいかにも作り笑いといった感じで、感情が感じられない。
「ただ、滅びるまでの経緯を観察してるだけ。人間たちは退屈で面倒くさい種族だけど、死に際だけは滑稽なまでに華やかだよ。そのまま生き延びても、死んでも……必死な連中は面倒くさがっている僕よりも楽しいんだ」
 何やら訳のわからない返事に、バディは舌を鳴らしながら苦い表情を浮かべる。

 ――残された使徒の数は30人。
 この手駒で、世界の破滅を邪魔する連中を、どのように殺していくか……それを考えて実行するのが、今のバディの仕事であった。

【NPC一覧】

【RA一覧】

【PC一覧】

●プレイヤー注釈

 迂闊にもアクションに「阻止限界点に防衛ライン築いて死守」などと書いてしまったせいで、ノアール様にコロニー(魔界)落とされてしまいました(ガンダム0083ネタ)。枯れるスピードが100倍、などと恐ろしい事がサラリと書いてありますね。
 ここより前のシーンでは、母乳だ保健体育だ泣きキノコだなどと、謎のネタで盛り上がっていたのですが……。ウァルハーリパルも三ヶ月間(ゲームの中では1年間)ずっと素裸のままだし。それはさておき。

「人間を軽んじている竜神族が勝っても、世界の滅亡を願っているカミューラが勝っても、人類の存続は難しい。人類が生き残るには、両者の対立の隙を突き、姑息に生き延びるしかない……」
 レグルタ人と神竜との和解の道を研究テーマとして模索してきたウァルハーリパルにとって、その対立構造を利用するというのは、研究成果の悪用であり、自分の夢をなげうつことであり、「神を前にしても恥じない自分を目指す」という信仰に背く行為であり、苦渋の決断であったはずです。結果としてうまくはいきませんでしたが。

 Dリアの中程にあるシーンで、エスターシャの知る範囲での、カミューラの狂気の理由について言及されています。曰く、魔女エルメスがカミューラの娘であったらしいこと。元はレグルタの末裔たちを嫌っていたカミューラが、熱心なレグルタ主義だったエルメスの説得に折れてレグルタ軍の旗頭となったこと。レグルタ人が世界から根絶やしにされたその日、共和国軍の非道に憤ったカミューラが狂気に目覚め、一人で共和国軍全軍を道連れに差し違えたこと……。
 肝心なことは、エスターシャ先生も知らない様子なのですが。詳しい真相については、最後まで引っ張る展開であるらしいです。

 この月のウァルハーリパルはネットプラスの誌上企画「国立歴史資料研究室」「パフュームのクッキー屋さん」にも登場しています。それと、この回のリアの「マスターより」でRA:D06について説明してある箇所で、

 ……ですが、もし9ターンに死んだとしても、最後の10ターンでは、再登録ではなく、今回のリパルちゃんのように幽体離脱状態で登場することになります。
 10ターンの結果を、様々な形で見守りつつ、最期には消えてしまう運命……です。新しい世界が生まれる事ができていれば、新しい魂として生まれ変われるのかもしれませんが、どうなるかはわかりません。

 などと、謎の例えで引き合いに出されています。今回何かの間違いでRA:D06が二つあるんですが(汗)、これは後者の方の話ですね。この娘は10ターンで消える事が決定済なんでしょうか。肉体をレイテノールの墓穴に置いてきたままですからね……。


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