ステラマリス・サガ 約束の地の探索者
第2回リアクションHA1

「フェイク」より抜粋

榊大悟マスター執筆

Scene.6 「リアル・ロマンス」より一部抜粋

 救出作戦から遡ること二時間。
 B-13基地から部隊を見送った者たちがいた。
「隊長、いかんでええんか?」
 ジョリー・ジャクリーンが、モニタールームで同じく見送るクライヴに尋ねた。
「まあな」
「隊長も、考えとるんや」
 ジョリーはクライヴの意図が自分と同じところにあるのを知った。
「思い過ごしやとええな」
「相手が人類と同じ知的水準と想定し、考えられる戦略を列挙」
 セリスタ・モデルノイツェンがキーボードを叩く。相手の予想規模、現存戦力、配置……
「あれだけの戦力を繰り出している以上、ほかに有効な戦略は有り得ない。でも」
「で、なんだ?」
「気になるの。相手は高い知的水準を有しているはず。しかし、この作戦が彼らの導き出す最良のものとはどうしても考えられないわ」
 セリスタは敵を侮らなかった数少ないメンバーの一人だ。幾度となくシュミレーンョンを繰り返していた。しかし、この作戦についてだけはその規模と作戦がどうしても理解できない。
「敵の狙いが『この基地』だと考えれば?」
 ジョリーが条件を絞る。
「ただ、それでもこの基地を陥落させるための必要戦力に欠けると思う」
「……これならばどうだ」
 ストラッケン・バラスデビルがキーボードを叩き、突然倍の軍勢をモニター上に表示させる。それは手薄になった基地をすぐさま覆いつくし、破壊する。
「これだけの部隊があれば確かにこの基地を陥とせるわ。でも、この部隊はどこから」
「まさか、城の外からわいてくるつていうんやないやろな……」
 ジョリーが、自分の口にしたことが決して夢物語でないことに気づき、言葉の勢いを失った。
「そう、城の外からやってくるんだ」
 ストラッケンは表情を変えずに言った。
「『城』は一つじゃない」
 突如、振動がモニタールームを襲った。急造の基地はその脆さを露呈する。
「やっぱり来たんか!」
 ジョリーが拳銃をとり、身を屈める。これからどうする。自分達だけではとうてい基地を守り切れない。
「脱出だ。囲まれないうちに」
 モニタールームのドアを開き、サイクロフト・アジャシオが声をかけた。
「脱出? どこへ」
「こっちにもあるだろう、別の基地が」
 サイクロフトが苦々しく言った。万一の際に備えて他の基地の所在を釣べていたのは幸運だった。しかし、その距離は相当のものだ。徒歩なら三日はかかるだろう。しかし、
「それしか手はない、急げ! ハーモニーのシグナルリングですでに事は本隊に知らせた」
「それでは、皆さんは脱出経路の確保をお願いいたします」
 アリスは落ち乾きを失わず、基地司令として指示を出した。
「私はここから放送を通じて脱出を呼びかけます」
「危険だ、それは」
「私が行っても戦力にはなりません。危なくなったらそうそうに逃げ出しますから」
「……分かった。全員脱出経路の確保、維持。可能な限りでかい出口を手に入れるんだ。いいな」
 クライヴは赤毛の女司令を気にかけながらモニタールームを後にした。

「な、なに?」
 メモリシアの搬送を担当していたリュティカ・テオシードはメモリシア貯蔵庫に躍り出たクリーチャーの姿に不意を突かれた。吐き出した炎が貯蔵庫を焼き払う。
「ああ、メ、メモリシアが……」
 ユニ・スカイチャイルドが絶望的な声を上げる。
 帝都を救う希望が炎に消えていく。
「なにしてる、メモリシアが無くなっても君達はまだ生きている。やれることがあるはずだ」
 部屋に飛び込んだイリュース・セレストがリュティカの手を引く。
「しかし……」
「行くぞ」
 イリュースの冷たさが、暖かかった。

(中略)

Scene.7 「ディパーチャーズ」より一部抜粋

 そして、基地まで残るところ一日。
 クリーチャーも再び距離を詰めていていた。
「さあて、逃げ切れるかどうか微妙なところだな」
 クライヴが地平線に見え隠れするクリーチャーの姿を見ながら干し肉をかじった。足場の悪さに指揮車両ががたがたと揺れる。
「もう一戦やらかしますか?」
 アレスが尋ねる。
「足止め程度ならそれも可能だか、出来ればこれ以上の被害を出したくはない」
 ストラッケン・バラスデビルは行軍するエグゼクター達を見遣った。心配されるのは疲労だ。現状で戦えばその力は半分も発揮されればいいところだろう。そこを計算に入れれば戦闘はあまり思わしい事態ではない。
 そこにこれまで砂の音の他聞かせてはくれなかった通信機が人の声らしき音を捉えた。
『きこ……るか、こちら第二次……隊。捕捉した。これより援護に入る。貴君らは安心してB-02基地に向かってくれ』
「第二次出場隊だ」
 B-02基地に移送されたと思われる第二次出場隊が、救援に駆けつけたのだ。クライヴ達は窓を開いて身を乗り出した。
「第二次出場隊だって?」
 ケーニヒ・ハルバニアが目を凝らす。空にいくつもの機体が浮かんでいる。それがエアバイクではないことはエアバイクの専門家であるケーニヒには分かった。
「おやっさん、あれ、バワード・スーツだぜ」
 パッカード・シリウスがその洗練された強体を見極めた。肩にエグゼクターのマーキングが為されている。物理メモリシア制御によって自重制御が可能な新型機だ。
「とんでもねえな」
 ケーニヒが感慨を口にする。そのまま、第二次出場隊はクリーチャーと戦闘に入った。
 新型機を導入した第二次出場膝の戦闘力は桁違いであった。しかし、そんな中にセリスタ・モデルノイツェンは気になる存在を見いだした。
「あの女戦士……人とは思えない。何者?」
 その目はクリーチャー相手に鬼神のごと善戦いを見せる女戦士の姿を捉えていた。ハーモニ・ジーンもまたレンズをのぞき込む。
「どれどれ……スレイヴ・ドールにしても強力すぎるわねえ。とりあえず味力みたいだけど」
「スレイヴ・ドールじゃない。あれは、もっと恐い……」
セリスタは自分の肩を抱いた。
 第二次出場隊と合流した第一次出場隊は、その戦力と手に入れた情報で再度『城』を襲撃。見事な勝利を納めた。B-13基地のメモリウムは失われたものの、敵の増援はそれを補ってあまりあるものであった。帝都ブレンブルグは辛うじてその命運を未来へと繋いだのである。

【NPC一覧】

【PC一覧】

●プレイヤー注釈

 謎の大地スラマグドゥスでの死闘。セリスタは、Scene.6では敵の作戦を分析する役柄、Scene.7では謎の女戦士(ツヴァイ)を見て恐怖する役柄として、二回に渡って登場しています。なお、この作戦で敵クリーチャーたちを率いていたのは恐らく、後のターンで名前の出てくるクリーチャーの王『サンクシオン』で、青髪の女戦士は人造人間の『ツヴァイ』。この後にセリスタが深く関わることになるNPCたちです。
 割愛した部分ではアリス基地司令の死や、妻を失い失意に沈むミュラー機関長の様子などが描写されています。HA2リア以降では、敗走する先発部隊を救出するために出撃した第二次出場隊のPCたちの活躍や、クリーチャーの『城』での雪辱戦の詳細、エグゼクターの留守中に起きた帝都でのテロの様子などについての描写があります。

 砂漠と言えばサンドウォーム、という連想から、地中からの小規模な奇襲があるんじゃないかな……くらいに予想をして警戒していました。ですが、予想を上回る敵の規模に大敗北。地中どころか正面から攻めてきましたし。リアでは鋭い読みを突いているような描写ですけれど(確かに敵の知能を高いものと想定した部分は的確でした)、肝心の核心の部分でハズレ……。
 榊マスター好む奇襲策というのは、少数精鋭の遊撃隊規模どころではなく、陽動部隊を本隊に見せかけて圧倒的兵力を潜ませ物量にモノを言わせてくる……のが得意パターンと見ました。そういえば「カルディネアの神竜」でも同じ手口でやられたなァ。

 ふと見返すと、抜粋個所のPC一覧にネット関係者密度が高いような気が。
 白爪さんやひ〜ろさんとは、この時点では知り合いではなかったのですけどね。いま読み返してやっと気が付きました。思い返せばこの「ステラマリス・サガ」を通して、かなり知り合いが増えたものです。


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