休暇だと言うのにオフィスを訪れた者達が、美貌の次席博士の机へと押しかけていた。
窓から暖かな光が差し込む休日の広いオフィスも、これだけの人数が入れば仕事の日と大差はない。
「写真の件は聞いているわ」
ユリア・フォルケンは眼鏡に手をやった。
「それは話が早い。では、ご存じのところをお教えいただけるかな、博士」
エルドリッヒ・シュタイナーが単刀直入に切り出した。しかし、その答えも『デマよ』と簡単なものであった。
「それでは、フライハイト・プランについては」
リュティカ・テオシードが尋ねるも、これまで以上の答えを得ることは出来ない。
「何か隠しているのなら、俺達を仲間にしたほうが得策だと思うがな」
「プランの詳細が分かれば、協力のしようもあります」
二人は食い下がったが、
「写真の件についてこれ以上語ることはないし、プランの技術者も今のところ必要ないわ」
というのがおしなべたユリアの回答であった。
「しかし、この写真の真偽を調べようと他の候補生達も行動を起こしているぞ」
「おい、アレス」
アレス・ヒューベリオンの言葉にジュータ・テトルトンが慌てて注意を促す。重い鳩尾への一撃に、アレスは顔を歪めて抗犠した。
「何だよ、ジュータ」
「馬鹿……。ま、まあユリア、俺達に出来ることがあればいつでも言ってくれ。多少危険な仕事だろうとかまわねえからよ」
「博士が写真の件はデマだと言うのなら、俺はその言葉を受け人れよう」
イリヤ・ハインシュタットが表情一つ変えずに言った。
「もしそれが事実と違っていたとしても、それはそれで考えあってのことなのだろう。帝都の為になるならば、俺はそれでいい」
そのー言葉に、皆顔を見合わせた。
(エグゼクターはこうあるべきと言われても割り切れないけど、確かにイリヤの言う通りだわ)
リィ・ロイもその言葉には胸をうたれた。
(それでも、何も知らないふりをすることなんて出来ない。いっそ見えなければ良かった)
ただ、相反する感情は、どうしても消すことが出来ない。
「博士が言えないんだったらほかの人に聞いてみればいいんだよ。アリシアちやん、何か知らない?」
猫耳スレイヴ・ドール、チィ・ファーストがお茶を汲んできたアリシアに尋ねる。
「さあ、私はそうした件について一切知らされておりませんので」
「この馬鹿猫が」
「ふにゃっ」
不思慮な行動にエルドリッヒの挙が飛んだ。
「邪魔をして済まなかったな」
イリヤが踵を返して部屋を去ると、皆後に続いた。イフン・バルデスはふと足を止めてユリアに声をかける。
「一つだけ聞き忘れていました。こんな写真でも士気に関わるかも知れません。こんなことをした連中の尻尾を掴みたいんですが、派閥とかそう言うのに疎いんでね。心当たりがあったらお教えいただきたいんですがね」
「社内についてはそれなりの監視が敷かれているわ。考えられるとすれば外部の者でしょうね」
「どうも、参考にします」
「お父上ともお話したけど、この隙を突かれたら大変なことになるわ」
セリスタ・モデルノイツェンが相変わらずの冷静さで現状分析して語る。
「せめて警戒を強化したほうがいいんじゃないかしら」
「ユリア博士」
最後に、サイクロフト・アジャシオが問うた。
「以前『今は』話せないと言っただろう。それじゃ、いつか話してくれるよな」
「……それは、約束するわ」
「なら、私はあなたの味方だ。いつまでも」皆が去った後、ユリアはがらりとしたオフィスで一人、受話器をとった。
「ええ、候補生の一部がコクーンを探っているそうよ。警戒を強化して頂賊」
受話器を置いて、小さく息を吐く。
晴れ晴れとした空に暗雲がたちこめ始めていた。暖かな五月の日差しは、少しずつそれに遮られ、やがて雨が降りだした。
謎の情報筋によってもたらされた写真によって、エグゼクターたちの利用する空間転移装置『コクーン』が、なんと只の睡眠装置に過ぎないことが明かされる。動揺するエグゼクター候補生たち。彼らは、自分たちの真の任務すら知らさないエンタープライズ社上層部にに不信感を抱き、真相解明に乗り出した……という展開。結果的に『コクーン』が運ばれていた先が、オーバーテクノロジーによって航行する宇宙船であったことは、次ターンになって明かされるのですが。
これ以降のリアでは、候補生たちの教官であるクライヴ・トールマンの過去のエピソードや、写真をもたらしたのがテロ組織『デチーソ』の仕業であることを突き止める経緯、エンタープライズ社中枢に忍び込んだクライヴ教官率たちの奮戦……などが描かれています。
この回では読みが外れてしまい、登場行数はほんの僅か。クリーチャーによる重要施設への襲撃を警戒していたのですが空振りです(確かに数ターン後の別ブランチで、マザードライブが虫型クリーチャーの襲撃を受ける展開はあったのですけれどね)。
セリスタが密かに恋い慕っているグランド・マギ、フライハイト・フォルケン氏と無事お話できたらしいことが、台詞中から伺えるのが唯一の収穫ですが……。この後数ターン、個別シートの「NPCメッセージ」欄上にて、淡白にアプローチを逸らすフライハイト氏と、自虐的でストーカーちっくな愛に生きるセリスタのやり取りが繰り広げられるのですが、スキャンダルが表沙汰になる前にフライハイト氏が個人的な事情で自殺(8ターン)してしまい、セリスタの恋物語は裏設定として、他プレイヤーに知られることなく闇に葬られたのでした。
このターンも、抜粋シーン中に当時の手紙交流者さんや、ネット交流者さんが大勢登場してます。
実は交流による情報交換が重要であったターンで、前回登場していた青い髪の女戦士……人造人間『ツヴァイ』関係の情報が、この回では様々なメインリアやセカンドリアに散っていました(そう、榊マスターは情報を分散して散らせるマスターさんなのです)。交流の重要性を痛感したターンです。
隠し情報には、
という状況がちりばめられており、総合すると「人類の希望を背負った人造人間の少女ツヴァイが、秘密保守の為に爆破破棄されようとしていて、ユリア博士は苦渋の決意でそれを遂行しようとしている」という残酷な構図が浮かび上がります。
この状況を早期に把握できたことで、PCの動機も固まり、アクションもすんなり決まりました。勿論ツヴァイを救出しに行くのです。