ステラマリス・サガ 約束の地の探索者
第5回リアクションHA1

「アイデンティティー・クライシス」より抜粋

榊大悟マスター執筆

Scene.7 「マザーレス・チルドレン」より一部抜粋

 候補生達が程広い船やの一つでツヴァイについて話し合っていると聞き、ユリアは通路を蹴った。しかし、門を曲がって聞こえてきたのは、話し合いとは心思えぬ罵声の飛ばし合いだった。
「もう一度言ってみろ」
「ああ、何度でも言ってやる。お前達はテレビジョンの見過ぎなんだよ」
「ユリア博士だって、ツヴァイを殺したくないつて思ってるはずた」
「だからってみんなして夢みたいな手段にかけて、したくもねえ心中するのは御免だって言ってんだよ!」
 拳が肉を捉える音がして、アレス・ヒューベリオンが通路へと叩き出された。船ててユリアが身をかわす。
「やりやがったな、ビリー」
 アレスは部屋へ飛び込むと、中にいるビリー・アシュフォードへと飛びかかった。揉み合うようにして二人が宙を舞う。
「二人とも、止めなさいよ。そりやあ、時間が無くって焦る気持ちは分かるけど、私達が喧嘩してもとうにもならないのよ」
 リィ・ロイがすっぱりと告げるが、二人は止まらない。
「ユリア博士ー!」
 チイ・ファーストがユリアを見つけ、机を蹴って飛びついた。ユリアは彼女を抱えると,その反動でくるくると回る。
「どうしたの、チイ。あら、涙……」
「みんな、酷いんだよ。ツヴァイを殺すつて。エルドジュータはもう行っちゃったし。博士、ツヴァイを殺さない方法つてないの?」
「チイ……」
 ユリアはチイの頭を撫でてやった。
「話し合いは上手く行っていない……みたいね」
「ウン。とりあえず二つ方法があるんだけど」
「一つは?」
 片手でそっと壁を押し流れる身体を止めてユリアが皆に問うた。ルダ・ラクリカフスがいつもの笑顔ではなく、眉間にしわを寄せて答える。
「一つは、エンジンなりなんなりのブロックごと切り放して自爆させることです。ツヴァイの戦闘能力を考えればこれが一番ではないかと思えるのですが……」
 そこで少し言い淀む。
「ただ、ツヴァイを殺すべきではないと言う意見がありまして」
「当たり前だろ。『ツヴフイ』本体を救うチャンスはこれっきりなんだ」
 ビリーを掴んだまま、アレスが声を上げる。
「ツヴァイ本来の意志がユリア博士を母だと思っている可能性だってある。ユリア博士が呼びかけてくれればあるいは」
 ビリーは、そんなアレスの手を払うと、べっと血の混ざった唾を吐いた。
「そんな茶番、やってられねえぜ。今は少しでもオッズが低い方法にペットするべきときだ」
「先の任務を忘れたのか、ビリー。私辻はツヴァイの回収のためにA-05基地に降り立ったんだ」
 壁に寄りかかって、二人の喧嘩を見守っていたローザ・リヴェールが口を開く。
「確かに雪辱はしたいわ。でも、今回は失敗できないのよ。そうこうしているうちにツヴァイを『王』に渡した上で私選も全滅なんてこともあり得るんだから」
 リィは排除に賛成なようだった。場は完全にツヴァイの人格擁護論と放逐の二つに割れてしまった。
 しかし、その場に決定的な声が投げ入れられた。発言したのはユリアであった。
「ツヴァイを宇宙に排出しましょう。手段はきっとなんとでもなるわ」
「博士!」
 ツヴァイの創造主であり、もっともツヴァイを気にかけているであろうユリアのその発言に、ローザが悲痛な声を上げた。ユリアは彼女に顔を向けることなくさらなる残酷な事実を告げる。
「有り靴う、ローザ、アレス。でも、あの娘には感情はないの。私に愛情を持っているとか、捨てられることにどうこう思ったりすることはないのよ。そう言うふうに作られているの。私が呼びかけても何も起こったりしないわ」
「そんな、そんな子に作ったの。ユリア博士」
 セリスタ・モデルノイツェンはスレイヴ・ドールだ。同じ作られし者として人一倍ツヴァイを心配してきた。
「私、あの子の所へ行く」
「持ちなさい、セリスタ。贖罪も自己陶酔の愛も、今は何も生み出さないのよ」
「それでも、あの子を見捨てるなんて出来ないわ」
 駆け出そうとするセリスタは、老練した太い腕に出口を阻まれ立ち止まる。
「まあ持て、セリスタ。解かにユリアの言う通りかもしれん」
 発言することもなく腕を組んでいたクライヴ・トールマンだ。セリスタがキッとクライヴを睨む。しかし、クライヴは気の抜けた笑顔で答えた。
「だがな、お前達の気持ちも分かる。だから、まずは説得とやらをやってみろ。ただし、ユリアが言うように不可能であった場合、すぐさまブロックの切り放しにかかる……どうだ」
「隊長」
 セリスタがゆっくりと顔をさげると、その腕を軽く押して出口から離れるように流れる。
「有り難う、ございます」
「じや、切り放し組はさっさと準備にかかるか」
 クリストファ・リスティングはわざと明るい声を上げた。
「手が足りなくて共倒れは基地の一件でこりごりだからな。その分は時間でカバーしてやるよ。ほら、みんな行くぞ」
 バンダナ頭の青年は、何よりこうした雰囲気が苦手であったのだ。とりあえず放逐作戦を『プロジェクト・イロニア』、説得作戦を『プロジェクト・ファーブラ』と呼称してそれぞれの準備が始まった。

【NPC一覧】

【PC一覧】

●プレイヤー注釈

 オーバーテクノロジーで宇宙を航行する発掘宇宙船「アルカ」船内で、ツヴァイを乗っ取ったクリーチャー王『サンクシオン』との死闘。ミュラー機関長は部下のエリート三人衆「エクストレーマー・コンディーティオー」に指示を出し、自分達が犠牲になって候補生(PC)たちを脱出させようとするのだが、候補生たちは納得しなかった……。
 この後のリアクションで、ツヴァイは一瞬だけ正気を取り戻すものの、その精神は『サンクシオン』に完全に殺され、乗っ取られてしまいます。ツヴァイが最後の死力を振り絞り、またクライヴ教官の犠牲で、サンクシオンを船外に排出することに成功するのですが……。

 この回は「ツヴァイに荷担してエグゼクターと戦う。ただし正気に戻す隙があれば見逃さない」というアクションでしたが、クライヴ教官に止められてしまいました。 
 事実上アクションは失敗ですが、前回アクションの結果で、ツヴァイの処置を巡ってPCたちが対立する展開が生じたことに「ストーリーの流れを変えた」手ごたえを感じることができました。

 このリアのクライマックスでクライヴ教官が、サンクシオンと相打ちで死んでしまうような描写があるのですが……実は生きていて、このターンに別のブランチ(JB)にのこのこ登場していたのでした。当時「ライトセイバーズ」のファイナルイベント会場にてJBのリアをtama-changさんから頂き、驚いた僕がクライヴ教官存命の報を会場のホワイトボードでHA参加者に情報伝達……。(ミランディアさんとかハルパニア夫妻とか、大勢来ていたのですが)皆で「おのれクライヴ教官許すまじ」などと盛り上がったのでした。
 また、宇宙船「アルカ」が破壊されたことで、この回をもってHAブランチでのスマラグドゥス編は終わるのですが、「約束の地」スマラグドゥスのその後は、他のブランチ上で語られることになります。


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