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白蚤大詩集「蚤の心臓」(関富士子著)より
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あとがき



『蚤の心臓』には、第二詩集『飼育記』のあとの二年間に書いた作品を収めた。「窓のユキ」を除いて、詩誌『gui 』『Booby Trap』『 エイ 』『詩学』『オルフェ』に発表している。

 この詩集を、しいたげられたすべての動物たちに捧げる。彼らの解放と復権こそが私のせつなる願いだ。では、彼らをしいたげるものとはいったい誰か。それをつきとめることはついにできなかった。もし、しいたげるものが詩集を読んだならば、彼はページを閉じたあと、ただかすかな笑みをひとつもらすのみだろう。その笑みは恐ろしいことだが、詩をひとつ書きあげたあとの自足の笑いに似ているかもしれない。

  詩人は言う。「些細なことを思うことがある。それは馬の眉毛のことか、髭のある花のことかもしれない。しかし、そっと『そのこと』を無言で反芻したり、書きとめておく。その脆弱で無用な思いを大切にしなければいけない。」(藤富保男)

 「馬の眉毛」について思いめぐらす詩人を想像すると笑える。馬にはきれいな睫毛はあるが、眉毛はあったろうか。こんなおかしな「脆弱で無用な思い」にかかずらうのはばかげている。ところが、「そのこと」は日常の細部に遍在し、私を魅了してやまない。物事の本質は実は「そのこと」にあるように思える。やり過ごしていると生きることさえ困難になる。私は日々生きのびるために、「そのこと」を言葉によって強靭で有用な詩的現実としようと試みた。具体的には、次の方法が考えられた。

・「馬の眉毛」の形態をできるだけ精密に描写する。
・「馬の眉毛」の物語を簡潔に提示する。
・「馬」と「眉毛」との距離を測るために、「見る人」を機能させる。

 成功しているかどうかわからないが、これらの作業は少なくとも私自身を救いつつある。強靭で有用な現実、つまり詩を成立させるには、嘘という途方もない力業が必要だ。そのために、もっと体力をつけなければならない。

1994年5月 関 富士子



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