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蚤の心臓
蚤の訓練はむずがゆいあたりから探り出して、まず その首をゆわえなければならない。彼女は息を凝らし て蚤を押さえつけ、指の下からはいだそうとするのを 器用に髪の毛で結んでしまう。 蚤を太らせて皮を取り、タンバリンをこしらえた王 さまがいるらしいが、蚤はなるほどつやつやと黒光り し、羽根はきれいに退化して妙なかさつきがない。よ く発達した後足が勇敢な馬のようで、彼女はふっとあ まく息を吐きかける。とたんに蚤はぱちりと筋肉を鳴 らしてジャンプする。ときには舞台に吊るした色とり どりの風船を、次々に突き上げる。 金の針金で作った馬車につなぐと、蚤は横たわった 彼女の胸の真ん中を進み始める。うぶ毛を押し分け、 勇敢な馬のように進む。へそへ落ち込んで身動きなら なくなると、彼女はそっと頭をもたげてため息をつく。 とたんに蚤は馬車を引きずったまま強烈にジャンプす る。蚤が陰毛に見えかくれするころ訓練は終わる。 夜彼女は一人で少しばかり酒を飲む。太腿の内側の ばら色のかみあとをそっと掻きながら、気も遠くなる ようなかゆみに耐えるが、明日の初日のことを思うと、 さめざめと泣かずにはいられない。
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