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白蚤大詩集「蚤の心臓」(関富士子著)より
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マツテン
Martes martes
HISTOIRE NATURELLE,
GENERALE ET PARTICULIERE,
PAR LECLERC DE BUFFON
(「ビュフォンの博物誌」工作舎) 
マツテン

蚤の心臓




 蚤の訓練はむずがゆいあたりから探り出して、まず
その首をゆわえなければならない。彼女は息を凝らし
て蚤を押さえつけ、指の下からはいだそうとするのを
器用に髪の毛で結んでしまう。
 蚤を太らせて皮を取り、タンバリンをこしらえた王
さまがいるらしいが、蚤はなるほどつやつやと黒光り
し、羽根はきれいに退化して妙なかさつきがない。よ
く発達した後足が勇敢な馬のようで、彼女はふっとあ
まく息を吐きかける。とたんに蚤はぱちりと筋肉を鳴
らしてジャンプする。ときには舞台に吊るした色とり
どりの風船を、次々に突き上げる。
 金の針金で作った馬車につなぐと、蚤は横たわった
彼女の胸の真ん中を進み始める。うぶ毛を押し分け、
勇敢な馬のように進む。へそへ落ち込んで身動きなら
なくなると、彼女はそっと頭をもたげてため息をつく。
とたんに蚤は馬車を引きずったまま強烈にジャンプす
る。蚤が陰毛に見えかくれするころ訓練は終わる。
 夜彼女は一人で少しばかり酒を飲む。太腿の内側の
ばら色のかみあとをそっと掻きながら、気も遠くなる
ようなかゆみに耐えるが、明日の初日のことを思うと、
さめざめと泣かずにはいられない。



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