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螺旋の周辺』もくじへ
関富士子詩集『螺旋の周辺』より



労働のための眠り



                    ――1幕――

  
まいもどるいつもまいもどる
じいさまの棺桶に
おはなしみっつ
よっつめほんと
  あたしはろくなものを食べないで育ってきたのよ貧しいボクサ
  ーみたいに内臓は縮んで骨は砕けやすいあたしはおなか空かし
  てその叶えられない願いのために恨みつらみで象や駝鳥を作る
  間に餓死を死んであっちで鬼を食べる駝鳥を食べる
沢の機屋の生娘は
軽目羽二重に血を吐いて
畑じゃばあさま
立ったままたれた
  もしもしこちらディレッタントなぜなぜなあにの御用聞き実は
  緩んだ体系を編み直すこともままならず徒にディスプレイに心
  をくだくあの男レストランマスターの暗殺計画者だきみの仕事
  はウエイトレス


                         ――2幕――

  
朝のお祈りすませたら
午後はパートに出かけます
みんなで紙切りばらの形
すませて夜には夜の祈り
  いらっしゃいませとつっ立っているからまず水をくれ見るとウ
  エイトレスは粉々のガラスを握りしめているのでビーフステー
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朝には現場で捕まった
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  労働も無駄でマスターの需要にこたえられなかったのよ


                        ――3幕――

 
一夜明けたら
祭りの後で
収拾のつかない
鼈甲飴の散乱
  だから家紋は切手にして世界中に広めたいが母の乳房は指の間
  からはがしたいただ一本きりの背骨でかしいでみえるあたした
  ちの歩行はさかしまの正義か疑惑の谷間で失地回復を計るため
  擦り減らした感情線や生命線の数かずよ必ずや暗殺は成就しよ
  うマスターのほろんだレストランを寝入る前に今夜の夢でしめ
  しあわせよう





来歴についての訓話



  
 哺乳類みんなの思い出が、前肢と後肢の静かな一歩を歩ませるあ
いだ、小鳥たちは石をくわえて、駝鳥の卵を割り続けるのだが、そ
の唄は、
  火のゆりかごに揺れながら
  赤んぼ照らすは稲光り
  きんきんきなこや冬至のかぼちゃ
  ではなく
  はじめて見る夢死んだ夢
そこで話すことには、
  赤んぼを焼却炉で焼いた母親の身の上を税吏があそこの言葉で話
  し出すと、肉屋はすかさず税吏を冷蔵庫に押しこめて年を越す。
  税吏は肉を食って年を越し赤んぼは冷えた焼却炉で年を越す。明
  くる朝、大きな金時計を首に下げたあの初老の男がかちりと指を
  曲げて通り過ぎる。おおしゃんとするさ。この土にはりついてぬ
  くぬくと孵ろうとする卵の陰で翔べないものを生け捕りにすると
奴はおまえに惚れちゃいない。
さて次の小鳥が答えるには、
  どのくらい苦しい世渡りだったか聞いてごらんよあの蜂すずめに
  翔べないはずのあの飛翔、知らずに翔ぶからいのこづちちりばめ
  た獣の毛並み、はるかに見下ろし翔べないはずのあの飛翔おお
  惚れちゃいないさ正午のとどめようもない火の点滴に、ぬくぬく
  と死ぬ夢を見るときには。
そしてみんなでうたう唄だが、
さわればあったかこのたまご
惚れてみせましょ回覧板
今夜の出し物御東西
みそさざいの教訓その1
例のところで例のとおり



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