詩集『飼育記』(関富士子著)より

あとがき

 その十年のあいだに、わたしはさまざまな生き物を飼った。発端は二人のこどもだが、この二人が手あたりしだいに小動物を持ちこんだ。かぶと虫・かめ・みみず・ざりがに・かわらひわ・・・。わたしは、子どもたち以上にその世話に熱中した。蛾の幼虫を愛撫し、ハムスターのはだかの仔ををあかず眺めた。

 思うに、飼う・飼われる関係ほどエロイものがあるだろうか。飼うものは飼われるもののすべてを手中にするのだ。しかし、その甘美な年月のあいだ、犬同様にわたし自身もことばを失っていたのである。わたしが再び詩を書きだしたのは、自ら飼われる喜びを返上し、仕事を得てかなりのちのことだ。

 そんなわけで、詩集には十数年前の作品と最近作とが混在している。この世界では、その十年は夢のようにはかない。

関 富士子


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