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詩集『飼育記』(関富士子著)より

世去れ遺児・



寄せくる波を乗りついで

どんぶら碇泊の港をやりすごす

連日の約束事をこなし

波の刷絵にしてたたむ

そうやって蜜柑箱のはなだいこん育て

育ててめはなをつけた

それなのにわたしたち

結婚の時しっかりと

約束したのをもう守れずにしまったの

彩りふかき熱帯をうらやむべからず

閏年の鳩の愛啼に怯むべからず

隊列が踏む谷間の苔をはびこらすべからず

跳躍者の耳の渦巻に風を送るべからず

祭礼に地震車を差し向けるべからず

火の燻りを血斑で補うべからず

歩み寄る義理の兄の笑顔を撮るべからず

世去れ世去れと忌むばかりで

それがいけなかったの

去り難く身悶えるあれらのコロニーから

恨みの遺児がはやくも訪れてきた

指に吸いついて離しやしない

うわ目づかいの養子志願

振り落とすと転びながらも顎ばかり起こし

斜のまなざしでわたしたちをねめつける憎たらしい

身過ぎ世過ぎの合間には

瀕死の片親の棲むコロニーへ

涙ながらの信号を送り

死に出の夢に託す算段

食わせまい育てまいと苛めてはみたけれど

もう孤児になったつもりの熱の子愛の子苔の子火の子耳の子兄の子地震の子が

わたしたちからかっぱらう約束パックの牛乳何リットル

いっそはなから信じずにあみだで決めればよかったかしら

いっそ抱きしめてちちんぷいとお乳の陰にすまわせちまおうかしら

ああいっそ

陽の当たる清らな川辺に

並ばせておしっこ競争の音頭をとって

ひとりびとりの行く末を約束してあげたい

茨の悪食もいじらしく

かげながら実の親の恢復を祈りたい

しかしいかにも遅すぎると

あなたは言うのやつらの行く末は

不当な幸福に踏み迷う

納得いかずの家族の舟だと

あなたは言うの約束をしるしながらも忘れて




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詩集「飼育記」(関富士子著)より

開けはなつ一の窓・



開けはなつ一の窓熟れすぎの桑の実打ちつけじいんと目がくらむここで清貧ぶりかえしついに病む蚕ともども

二の窓で勇敢な尻ばかりみつめ巣の有り処わからずじまいそのはにかみや長じておかあさんと一言 はやく帰ってはやく帰って来てください

ところ鮫津川人物捜す人123あれ猛者連が刀かついで転がる上手から尋ね人戻るまいとて登場すればああおもしろや よそならばめまいなどすまいにここ三の窓か美男の横顔楔形

四の窓地衣帯化石帯森林帯寛容な主人のようにざらつく肌に見えかくれする蟻きみあれはそらまめだよ 新しい鉱脈だ

だが五の窓では軽業師だって からのプールに落ちる怒髪全身

六の窓われらこのようにおもい知れ

七の窓ならば七の窓あわただしく形見の菊やりんどうを参列者に分け遅れた客が列の最後についたときにはもう 五色の旗捧ぐ先頭が野辺の急坂にかからんとする気配だから

八の窓から室内塵花粉かび猫の毛うるしゴムなめし皮などアレルゲン一掃

恢復期はじめての粥をすするとき身代わり不動のとがめをうけて

九の窓ぷちに身をのり出し合図するみなさんどんなになっても生きていて




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