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あわれ十人の曾孫・
四人の死にゆく曾祖父と曾祖母がたよ
一人は夜中に借金の取りたてに出かけて橋から落ち
一人は河豚毒の痺れに惑溺して量を誤り
一人は無理心中の道連れに胸をえぐられ
一人は飼い犬をいじめぬいてついに喉を噛まれ
このたびはるかに死にゆく四人の曾祖父と曾祖母がたよ
あなたがたのうかばれぬ幽霊など思いもつかぬほど
あなたがたはりっぱに長生きをなさったが
残された十人の曾孫たちは
なんまんなんまんなんまんのあくじ
なんばいなんばいなんばいのながいき
と数珠を繰り合掌し唱えるそばから
みるまに老いていくのをごらんなさい
うち二人は腹の中で逆子のうちからしわみ
うち三人は初めてのフェルト靴に腰を痛め
うち五人は入学式の花びらのかげで喘息をこらえる
悪事を尽くし時を思うさま延ばした四人のあとには
縮むはずみにはじかれ育たぬまま老いる十人が
めぐりはやまる時のスリッパに転倒するのです
あわれ安まらず眠れぬのは十人の曾孫
なんまんなんまんなんまんのさいなん
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太鼓を打つ男・
太鼓を打つ男
まなじりすえ
歯根きしり
胸郭ふくれ
苦汁垂る
太鼓を打つ男
花火はじける
やぐらの高み
星をせおう
獣皮の地平へ
半身かたむき
太鼓を打つ男
音あわだつ
響きそぼつ
精根うがつ
揺すり放つ
太鼓を打つ男
わたしを見ず
連山を呼ぶ
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