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詩集『飼育記』(関富士子著)より

あわれ十人の曾孫・



四人の死にゆく曾祖父と曾祖母がたよ

一人は夜中に借金の取りたてに出かけて橋から落ち

一人は河豚毒の痺れに惑溺して量を誤り

一人は無理心中の道連れに胸をえぐられ

一人は飼い犬をいじめぬいてついに喉を噛まれ

このたびはるかに死にゆく四人の曾祖父と曾祖母がたよ

あなたがたのうかばれぬ幽霊など思いもつかぬほど

あなたがたはりっぱに長生きをなさったが

残された十人の曾孫たちは



なんまんなんまんなんまんのあくじ

なんばいなんばいなんばいのながいき


と数珠を繰り合掌し唱えるそばから

みるまに老いていくのをごらんなさい

うち二人は腹の中で逆子のうちからしわみ

うち三人は初めてのフェルト靴に腰を痛め

うち五人は入学式の花びらのかげで喘息をこらえる

悪事を尽くし時を思うさま延ばした四人のあとには

縮むはずみにはじかれ育たぬまま老いる十人が

めぐりはやまる時のスリッパに転倒するのです

あわれ安まらず眠れぬのは十人の曾孫

なんまんなんまんなんまんのさいなん





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詩集『飼育記』(関富士子著)より

太鼓を打つ男・



太鼓を打つ男

まなじりすえ

歯根きしり

胸郭ふくれ

苦汁垂る

太鼓を打つ男

花火はじける

やぐらの高み

星をせおう

獣皮の地平へ

半身かたむき

太鼓を打つ男

音あわだつ

響きそぼつ

精根うがつ

揺すり放つ

太鼓を打つ男

わたしを見ず

連山を呼ぶ






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