天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第3話『迷子の文鳥を届ける(前編)』

めっちゃ短い前回までの話。

「早坂由紀夫として生きていく決心をした由紀夫は、心臓病で入院していた義理の弟、溝口正広と一緒に暮らすことになった。由紀夫はそれを奈緒美に報告し、これからもこの長男、次男をよろしくというのだった」…なんかおかしくなってる?(笑)でも、それだけの内容やったもんな(笑)

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今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「溝口正広」届け先「腰越人材派遣センター」

その日、正広は微熱を出して寝ていた。退院してからこっち、興奮のあまりやたらとハイで、妙に元気だったところが、今になって反動が来たらしい。
病院で静かに暮らしていた正広にとって、由紀夫の周辺というのは、とりあえず刺激が強すぎた。

まずは、千明。絶対来るな!と由紀夫に言われていたものの、理由を聞いてなかったものだから、『由紀夫ったら、またそんな事言っちゃってっ♪』と気軽―に千明はやってきた。ベッドの足元から、そーっと忍び込み、眠ってる体をギューっと抱きしめながら、「由紀夫―っ♪」と声を上げたら、すごい叫び声で答えられた。

「えーっ?」
「だ、誰っ!?」
「どしたっ?」
千明は腕の中に、自分より華奢な正広を見つけて呆然とし、正広は寝ぼけながら、知らない女の子に抱きしめられて呆然とし、シャワーを浴びてた由紀夫は、長い髪から水を滴らせながら、我が弟が千明に抱きしめられている、というシチュエーションに呆然とした。

「だから来るなっつっただろっ!」
「ねぇ、誰、誰ぇー?その子誰ぇー?由紀夫の何ぃー?」
一気にドアまで追いつめられた千明が、とーくにいる正広を指差しながら尋ねる。
「弟だよ!」
「弟―?由紀夫に、弟なんていたのぉー?」
「いたの!」
「聞いてないぃー」
「言ってねーもん。いいから帰れ」
ドアの外を指差した由紀夫の腕の下をくぐりぬけ、事情がさっぱり理解できず、まだ呆然としてる正広の側までパタパタっと走る。
「はじめましてー、千明でーす」
「あぁ…、あの、溝口正広です」
「正広ちゃんかぁー、可愛いねー。あたしの事はぁ、千明ー、じゃなくって、お姉ちゃんって呼んでいいからねー?」
「呼ばなくていい!」
猫の子でもつまむように、千明の襟首をつかんで、由紀夫はドアまでひきずって行く。
「おまえなぁ、今度正広になんかしてみろ?ただじゃおかねぇからなぁ!」
「まだなーんにもしてないもぉーん」
「なんかあってからじゃおっせーの!」
「もぉー、由紀夫の意地悪ぅー!」
「はいはい、帰って帰って。明日っから、ぜってーくんなよっ!」

ポーンと部屋から放り出され、千明はアッカンベー!とドアに向かってやった。こんな事ぐらいで由紀夫を諦めたりはしない!明日だって行くんだから!元気よく帰って行く千明だった。

兄ちゃんの彼女…?呆然と聞かれた由紀夫は、違う!と力一杯答えた。

そして、その日のうちに、ドアの鍵は頑丈なものに変えられ、いっかな千明でも開けられなくなってしまった。チェーンがついててはねー…。

続いて、一度だけ連れて行ってもらった、腰越人材派遣センター。よりにもよって、ジュリエット星川までいたもんだから、正広は格好のおもちゃにされかかる。それを由紀夫が止めて、兄バカ兄バカと罵られた。

「この人が、おまえの義理のお母さんだよ」
真面目な顔で奈緒美を紹介すると、奈緒美が怒り狂って、野長瀬がそのとばっちりを浴びた。
「由紀夫ちゃんっ!社長になんて事言うのっ!」
「んで、これが、大男でもないくせに、総身に知恵が回りかねてる、野長瀬」
「ゆ、由紀夫ちゃーんっ!」
「それから、腰越人材派遣センターの最後の良心、典子」
典子はお茶とケーキを出してあげて、にっこり正広が笑うのを見て、やや頬を赤らめる。そんなやり取りの一つ一つに、正広は声を上げた笑った。
「それからあたしが、天才占い師の」
「インチキ占い師のジュリエット星川。本名さっちゃん」
「それ言わないで!って言ってるでしょーっ!」
「それと、あれ?そーいや、なんて名前だっけ?」
ジュリエット星川の助手、菊江は可愛らしく整った顔に、悪意のかけらすらも浮かべず由紀夫の足を丁寧に踏んづけ、
「菊江です」
と、にっこり笑って正広に挨拶した。
き、菊江がそんな事をするとは!と一同は驚き、そのみんなのきょとんとした顔を見て、なおも正広は大爆笑した。

「でも、はしゃぎすぎちゃったかなぁー…」
病院から貰ってる薬を飲んで、正広は呟いた。朝起きた時から、微熱があるのには気づいていた。けれど、それを由紀夫には言わないまま、仕事に出させる。今までの経験上、薬を飲んで大人しくしてれば、それで治ってしまう程度の熱だった。

一人ベッドに横になって、窓だけ開けて正広は眠る。今まで熱がある時は、イヤな夢ばかりを見たけど、今日は、ただ光がキラキラしてるだけの、なんだか、穏やかな夢。綺麗な音まで聞こえて来て…。
ゆっくり意識が戻ってくる。目の前のキラキラが消えていくのに、その音だけが残って…。

「あれ…?」
正広は首を傾げた。枕元に、真っ白な文鳥が座っていた。

「正広?どした?」
ちょうどその時、由紀夫が帰って来た。弟が寝てるのを見て顔色を変える。
「これ、この子、怪我してるみたいなんだけど…」
「は?」
枕元の文鳥なんて、由紀夫の目には全然入ってなかったらしい。
「怪我してるって?」
どこから出てるものかは解らないが、真っ白な羽が血で汚れている。
「ありゃ…、どしたんだろ…」
「この辺の子かなぁ」
「文鳥なぁ…」
「兄ちゃん、どっか、病院とか…」
「あ!おまえだよ!おまえ!おまえ大丈夫なのか?」
「あ、俺は平気。薬飲んだし、寝てたから」
「寝てたからって…、言えよちゃんと」
由紀夫の手の平が、正広の額に当てられる。
「んー…、熱って程じゃないかー…」
「だから平気なんだって。それより、この子だよ、この子。全然動かないじゃん!」

はいはい、と。
自分も行く!と言い張った正広を無理矢理ベッドに入れて、由紀夫は自転車をぶっ飛ばして、近所の獣医を探した。その結果、羽の付け根に傷が出来ていて、治るまでは飛ぶことができない、という事が解る。
真っ白な体に、くちばしだけが綺麗な赤色の文鳥は、ちょっと小首を傾げるように由紀夫を見上げていた。
「じゃあ、1週間ほどしたら、また来ていただけますか」
「はぁ」
「カルテ作りますので、えーと、この子の名前は?」
「…名前ですか?」
不思議そうな顔で医者はそうです、と言い、由紀夫は考え込んだ。
「えー…、と。あの、こいつってオスなんですか?メス?」
「…メスですが」
「あぁ。えーと、女の子」
診察室はシーンと静まり、小さな声で文鳥が鳴いた。
「…考えてきます」
「じゃあ、早坂文鳥さん(仮名)とさせていただきます」

変な医者、と思いながら由紀夫は帰途につく。途中ペットショップによって、鳥かご以下、文鳥のために必要な道具を買い込んだ。

「ただいまー」
「どうだった?」
寝てろ!と言われた正広は、本当に大人しくベッドに入ったまま、ずっと帰りを待っていたらしい。
「羽の付け根を怪我してた。何だろな、石でもぶつけられたかも知れないって」
「えー…」
自分が石をぶつけられたかのように、正広の顔が曇った。
「はい」
買ってきた一式を正広に渡す。
「何?」
「鳥かごとか、なんとか。俺は飼ったことねーから知らないけど、おまえ飼いたいんじゃねぇの?」
「え、何で、何で?」
「え?飼いたくなかった?」
「飼いたい!」
やけに真剣な顔で、正広は言い張った。

ベッドサイドに、いそいそと鳥かごをセットしてる正広を眺めながら、由紀夫は小さく笑った。
「何で?」
「え?」
「文鳥とかって、別に飼ってた訳じゃないじゃん」
「あー…、そうなんだけど…」
正広が俯いて口ごもるのを見て、由紀夫は、ピンときた。けれど、あくまでもさりげなく尋ねる。
「さっき病院行った時にさぁ、その文鳥の名前って聞かれたんだよ。俺、全然思いつかなくって、女の子だっつーんだけど、なんて名前にするよ」
「まゆ…、ちゃん」
「まゆちゃん?どんな字?カルテ作るからって言いやがるから」
「漢字…?えっと、それは…」
スススっ、と由紀夫はベッドに移動してくる。ふいに側に座られて驚いて顔を上げる正広に、にーっこりと笑いかけた。
「ど・ん・な・子?」
「な、何が…?」
「まゆちゃんって、どーんな子?」

バっと正広の顔が真っ赤になる。
肌が白いだけに、よく目立った。耳から首筋までを赤くして、正広は由紀夫を見上げた姿勢のまんま、凍り付く。
「彼女かぁー?」
「…ち、違うよっ!」
乱暴に言いながら、正広はとりあえずティッシュの空き箱に入れられてる文鳥を取り出した。

羽を治療されている文鳥はうずくまったまま、正広の手の平で大人しくしている。
「違う、よ…?」
「何が?」
「彼女、とかじゃないっ」
ふくれっつらで言う正広の頭に、ポンと手を置く。
「ありゃ、そりゃにーちゃんの勘違い。じゃあ、初恋の相手だ」

「兄ちゃん、嫌いっ!」
空いてる手で、思いっきり兄の背中を叩き、由紀夫は笑いながらベッドを離れた。
「ひろちゃんに嫌われちゃったよぉーん」
泣きまねをする由紀夫に、正広の声が飛ぶ。
「嫌い嫌いっ!でっきれーだっ!」

そうやって、由紀夫を嫌った正広だったが、文鳥は思いっきり正広に馴れた。微熱がひかないため、由紀夫から床上げ許可の出ない正広は、文鳥を話し相手に過ごしている。
手乗り文鳥だったらしく、不自由な羽を動かして、正広の指にとまる。真っ赤なくちばしに、ふざけるように正広がキスする仕種を、由紀夫は微笑ましい気分で眺めていた。

だから、由紀夫は言い出せなかった。

「なぁ。まゆちゃんの事聞かせてよ」
その夜、部屋の明かりを消してから、由紀夫は尋ねた。ベッドの向こうで正広が身動きする気配がする。
「まゆちゃんは…、ってゆーか、まゆさん、なんだけど…」
「年上なんだ」
「ん…」
「いつ会ったの?」
「入院して、すぐ…」

中学生だった正広は、生まれて初めての入院に、さすがに気が滅入ってしかたなかったが、そんな時見たのが彼女だと言う。入院患者じゃなく、小学校くらいの女の子のお見舞いに来てた彼女が、文鳥を連れていた。病院の中は、もちろん動物禁止だから、彼女は、庭でその女の子と文鳥を遊ばせていて、それを病室の窓から正広は見た。
その頃の正広に、彼女がいくつくらいなのかの判断はつかなかったけど、少なくとも成人はしてたと思うと言った。
「白い文鳥連れてて、まゆさんも、白い、綺麗な人で」
「どんな人だったの?」
「…知らない」
「え?」
「俺、病室からずっと出られなくって、まゆさんの事、見てるだけだったから」
女の子が『まゆお姉ちゃん』と呼んでた、それだけが正広が知ってる彼女の情報だった。そのうち、女の子は退院してしまって、当然、まゆさんも来なくなる。

「あの頃から、ずっと文鳥飼いたかったんだー…」
つぶやいた正広の声を聞き、やっぱり由紀夫は言い出せなかった。

近所の電柱に、『白文鳥を探してます』という貼り紙が貼られていた事を。

<つづく>

まった行き当たりばったりの話を書いてしまった(笑)!白文鳥ってのは、例のマー坊で使われて以来、準備されていたキャラクターでございます。このページでイラストをちょいちょい使わせていただいてるyenさんは、大の文鳥好きでもありやすな。果たして後編どうなる!場合によっては後編どころか中編だ!?

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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