関富士子未刊詩篇より
夏至
太陽に重なって
見えない
暗い星々オリオンを
右胸に刻んだ男が現れて
わたしに呼びかける
姫(ji)
姫(ji)
(jiって わたしのこと?)
人々がうわさする
<朝鮮半島からやってきた背の高い男>
の肺のあたりがふくらんで
ことばを吐き出す
ことば
星雲から散光する乳色のガス
(あなたの国をわたしは知らないの)
大陸からの砂嵐が
男の髪を真っ白にして
その口をふさぐ前に
わたしは男を抱きしめる
(いますぐここではやく)
太い首に腕をきつく巻きつけると
頸骨がひどくきしんで
男はうめく
姫(ji)
姫(ji)
血にまみれた革手袋を剥ぎ
オリオンの刺青をかきむしる
首が深く垂れる
(なんにも思い出せないけれど)
千年の戦いの致命傷
<朝鮮半島からやってきた背の高い男>の
頸骨は折れている
折れた首を抱きしめて
わたしはようやくささやく
憐(lian)
憐(lian)
*「憐」 恋人。
(詩誌「gui」53. 1998.4)
(あのこ)の胸にしたたる膨大な昼と夜 i
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