rain tree vol.1(関富士子の詩)
いても
たっても
関 富士子
小石を落とすたびに
いても
たっても
小石を落とすたびに
井戸の奥で
いても
たっても
小石を落とすたびに
井戸の奥で
子ぎつねのなきごえが
ああ
いてもたっても
小石を落とすたびに井戸の奥で
子ぎつねのなきごえが
きこえるので
いてもたってもいられない
黒雲が山の向こうから
遠雷をとどろかせるので
腐った瓜の皮
小バエたちを追い払って
夏休みの初めにめくった
E.E.Cummingsの
sil
e
nce
に耳をすまして
いても
たっても
今ごろ堆肥小屋では
いてもたっても
今ごろ堆肥小屋では
何百のカブトムシが
いてもたってもいられない
今ごろ堆肥小屋では
何百のカブトムシが
羽化羽化ウカウカ
して
いても
汚れたくもりガラスにぶつかって
落ちてはぶつかって
たっても
汚れたくもりガラスにぶつかって
落ちてはぶつかって
まだやわらかい
いてもたっても
まだやわらかい
腹のあたりを傷つけながら
閉めきった窓に体当たり
閉めきった窓に体当たり
いてもたってもいられない
くそいまいましい夏休みの
ページを開いて
Cummingsの
le
af
が
ゆっ
く
り
と
落ちるのを
見るあいだも
ああ
いても
たっても
*E.E.Cummings 「カミングズ詩集」藤富保男他訳・思潮社海外詩文庫より
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