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樅の木が応対するドアのかげに身を半分隠して おでかけですも |
しくはお寝みですお会いになれません そのもの言いが木霊のよう |
に後ろの部屋べやのあらゆる壁に響いて最後の木霊がはじめてわた |
しの方に向かうのを待たねばならない 買物犬がもうメモをくわえ |
て控えている どうぞ伝言をあなたのご主人がわたしたちの女主人 |
をお訪ねになるのはいつになりましょうかどうぞ |
あなたがたではない 樅の木や犬の応対をわたしが受けるものか |
知ったかぶりをしてしゃしゃり出るのはよしてもらいたい 是非と |
もこの家の女主人が膨らんだスカートを引きずって現れてもらいた |
いものだ スライスパンはいらないわ丸ごとよ肉の柔らかい出来た |
てのパンがいい と小声で誰かに言いつけながら |
しかしまだだ出なおせとあなたがたは言うか そうやって身に引 |
き受けるべきメッセージをさも嬉しげに引き受けたい様子で厳かに |
あろうとときどき緩んだ口もとを引き締めている犬や慇懃無礼に気 |
取った樅の木に挨拶をし許しを乞うまではとこの家の女主人は腹を |
決めているのではないか |
わたしの大切な荷物はわたしの背中にじかにしまいこんである |
汗でぬれた青いカセットテープはわたしの主人の声だ 降りたこと |
がないものだからなまりがあるがそれをわたしが忠実に真似すると |
きのその歌のような響きといったら ららら誰も知らない |
わたしはひとことも話さない この家の門口の親切でずる賢い下 |
僕たちの前で 朝食昼食夕食睡眠の幾時かを寡黙に過ごすのはああ |
わたしの忠誠だ それともあなたがたがまだだまだ現れない とわ |
たしにいつまでも囁くのは それがあなたがたの忠誠だというのか |
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Weatherwood 氏が Mexico へ旅立ったあとで、ゆっくり事を運 |
んで死んでしまった Yatto 氏の告別式では、Weatherwood氏の旅 |
についてのさまざまな憶測がささやかれていた。 |
それというのも、Yatto氏の棺に花を手向けた人々の中のひとり |
が供えられた Weatherwood氏の写真集に、横たわる Yatto氏そっ |
くりの、ある作品を見つけたのだが、それは、 Weatherwood 氏 |
が Yatto 氏に出会う何年も前にやはり Mexico への旅で写した、 |
わらしべのキリスト像であったのだ。それを見つけたひとのみな |
らず、その作品を見、かつ記憶しているすべての人々が、棺に横 |
たわる Yatto 氏の姿にその面影を見たのである。 |
何回めかの Mexico 旅行において、Weatherwood 氏は Yatto |
氏と知りあったのだが、そのとき Weatherwood 氏は、色とりど |
りに染められた太陽を形どる仮面を被写体にしたおびただしい量 |
のフィルムと一緒に、Yatto 氏を連れて帰ったのである。 |
その次の Mexicoへの旅は、そのYatto氏とのものだったが、す |
でにWeatherwood氏とYatto氏の仲は周知の事実であり、Weather- |
wood氏の仕事といえば、Yatto 氏の執拗なスナップのみであった |
が、その中には、二人が少しずつ離れてひっそりたたずむ、真夏 |
の落日の光景もまぎれこんでいたそうである。 |
Yatto 氏の死の知らせにもかかわらず、ついにこの日に戻らな |
かったこんどの Mexico への旅で、Weatherwood 氏が、いつ、ど |
のようなフィルムを抱え戻るのか、人々はようやく、ひそかに思 |
いめぐらせたのである。
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