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詩集『飼育記』(関富士子著)より

約束・



あなた待っててきっと行くから

真昼の森閑炎天下の田んぼ

はだしの指のすべてのすきまに

もりあがる泥土をこねて

あなた待ってて一秒一秒を

はじける酒のようにからだじゅう巡らせ

汗みずくの力こぶで

わたしを抱くことだけ思っていて

さえずりが声のすべて

降り注ぐ光が色のすべて

あなた待ってて十五のころ

わたしを待ち伏せたあのときから

茂る稲葉の水平に目を合わせ

ためつすがめつ見つめていて

丘の上のひんやりした雑木林の

七曲がりの坂をかるがると

こま落としできれぎれに笑いながら

わたしかならずおりていくから

あなた待っててほおも額も

鋭い葉先に血を流し

無数の虻にぶつかられて

あなた待ってて空腹のまま

のどをからして青い葉をかみ

ようやくのこと立ちながら

二十年にまばたきを一度だけ

あなたわたしに呼ばれたまま



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詩集『飼育記』(関富士子著)より

蜜月・



はればれと満月の皮張りつめ

皺ひとつない満つればはじける

その臍に耳おしあて

尋ねる者がいる

なぜ? かしこから? いかにして?

さあわかりません いずれにせよ

月満ちた皮一重をへだて

隣接の内臓を押しあげ踏みしだく

肘や踵あるいは頭骸のとんがりが

この満月のでこぼこです

薄皮のつっぱりに腹々と心痛め

出口をそっと押さえにかかる尋ねる者よ



目をつむり息をこらえ手足を伸ばし頭を下げ

ぬらぬらの螺旋をめぐりながら

ようやく月に臨む

血もなく闇もなく湯もなく

うすらさむい臨月の出口に

額は氷散らばり

瞳は光に射ぬかれ

肺は風にふくらみ

あらんかぎりの悲鳴を

あげて 臨む

すべて虚しいものに満ちあふれた

孤独な月のはたに



胸月二つ満ち欠けて

その汐どき思わずほとばしり

息詰まるミルクシャワー恵まん

熱ぼったくずきずきしびれた胸ぐらに

吸月かかえこむ

月吸い三昧お七夜十三夜

胸月皺よりやせほそる

吸われ放題十五夜八十八夜



婚姻済ませ月とのハニームーン

尋ねる者言葉ふり捨て軽々と

旅立ちましょ尋ねる者よ

新月残月半月三日月に因果を含め

だれとともに? いずこへ?

わたしたちの蜜月とともに

あらゆるところへ



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