天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第3話『迷子の文鳥を届ける(後編)』

めっちゃ短い前回までの話。

「早坂由紀夫と血のつながりのない弟溝口正広は、ノンキに明るく暮らしていたが、ある日正広は熱を出してしまう。その正広の枕元に怪我をした文鳥がいた。文鳥好きの正広は喜んだのだが…」無理が多いな(笑)

yukio

今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「文鳥」届け先「溝口正広」

正広の微熱は、意外に長く続いた。そろそろ退屈し始めている正広だったが、由紀夫は内心ホっとしている。今、正広に出歩かれる訳にはいかない。何せうちを出て、真っ正面の電柱に…。

『文鳥探しています』と、ごていねいに写真まで貼られた張り紙が、由紀夫たちの部屋の前の電柱にあった。出入りする度に、由紀夫は顔を顰める。見れば見るほど、正広の「まゆちゃん」にそっくりな、その文鳥に。

「なぁー、文鳥ってどれっくらい頭いいんだー?」
「はぁ?」
ふいに由紀夫に言われ、奈緒美は塗り掛けのマニキュアをひっかけそうになって慌てた。
「何?文鳥―?」
「例えば、飼い主が解るかどうかとか」
「知らないわよ、そんな事」
「…なんかさぁ、奈緒美って文鳥ってタイプじゃないよな」
「そりゃあ、文鳥より孔雀って感じでしょ?」
今日はまた、ひときわ派手なイタリアンな衣装をお召の奈緒美を上から下まで見下ろし、また見上げる。
「…何よ」
「いーえ、よくお似合いですー」
平板に答えると、書類が飛んできた。

「社長!何やってんすか!」
随分と重要な書類だったらしく、野長瀬がすっ飛んできた。
「もう!これ無くなったらどうすんです!」
「あ、野長瀬―…、は無理か」
「無理よ。こいつと文鳥だなんて」
「食ってたって感じだよな」
「なっ!何言ってるんです!野長瀬さんちの定幸ちゃんと言えば、心優しいぼっちゃんで評判だったんすから!」
「絶対、食ってたよ。一口だよな」
「そうそう。絶対食ってたわよ」
デスクから立ち上がって、ナオミは伸びをする。
「焼き鳥…!、今日は焼き鳥にしよう…!」
「おまえ、デリカシーってもんがねぇな…」

由紀夫が考えていたのは、単純なことだった。そっくりの文鳥を連れて行ったとして、それが飼い主に理解できるものなのかどうか。手元に来て数日の、正広の「まゆちゃん」を帰そうとは一切思っていない所が過保護バカアニキぶりをいかんなく発揮という感じである。

文鳥なぁ…。なんとなくペットショップのウィンドウを眺めていると、とんとんと背中を突つかれた。振り返ると、文鳥の手当てをしてもらった獣医の先生がいる。
「文鳥ですか?」
「あぁ…。どうも」
「交配でもして一もうけするつもりですか?」
「はい?」
白衣のままママチャリに乗った先生(前髪がとても綺麗にセットされている)は文鳥の品種と、その交配の歴史について数分語り、
「それじゃあ、早坂文鳥さん(仮名)によろしく」
と自転車に乗ってフラフラとどこへともなく去って行った。自転車にの泥よけの『イナガキアニマルクリニック』が筆文字なのがなおおかしかった…。

「ただいまー」
「おかえりー!」
パタパタっ!と迎えに来られ、由紀夫は一瞬顔色を変えた。
「え?おまえ、起きてんの?」
「え?そだよ。だって…」
由紀夫の手が、正広の額に当てられる。
「ね?ないでしょ?」
「んー…」
小さな正広の額にじーっと手を当てたまま、由紀夫は宙を仰いだ。
「体温計」
「えー?大丈夫だってばぁ」
「いいから」

むぅ…。渡された体温計を正広は大人しく受け取りはしたけど、なかなかベッドに入ろうとはしない。
「ほら、寝てろよ」
「大丈夫だってぇ」
「まゆちゃんの餌、買って来てやったけど?」
「寝まーす!」
正広はワガママを言うタイプじゃあない。日頃から大人しいが、ここに文鳥の話を持ち出せば、間違いなくさらに大人しくなる。
大人しくベッドに入り、じっと体温を計っている正広を見て、こりゃ絶対に文鳥は返せないなと由紀夫は思う。
体温計は、丸っきりの平熱を指し示そうとし、もう時間の猶予がない事を由紀夫は確信した。

「俺も一緒に行くー!」
まゆちゃんを病院に連れて行くという日、前回おいてけぼりを食らっている正広が言った。
「んー…、でもなぁー、なんか怪しいんだよなぁ、あの医者」
「怪しいって?」
「どこがどうじゃなくって、そこはかとなく全体的に怪しい」
「怪しい?」
「怪しい。正広危険だからうちにいたら?」
「やだよぉ。怪しいんだったら、俺も見たいー。田村さんとどっちが怪しい?」
「田村とぉー?」
考え込んだ由紀夫を見て、こりゃ相当怪しいんだな、と正広は思う。

まゆちゃんは、不自由そうに羽をパタパタさせていて、正広はそのまゆちゃんを嬉しそうに眺めている。
「まゆちゃん、すぐに飛べるようになるね」
「そしたら、おまえ、そんな窓とか開けてらんねーんじゃあ?」
空調より自然の風が好きな正広は、風がよく通るように窓を開け気味。今も、窓は開いていた。
「まゆちゃん、逃げたりしないもん、ねー」
指の上にまゆちゃんを止まらせ、お互いに首を傾げるようにして正広は言う。
「ほら、逃げたりしないってー!」
ほっそりとした指先で、そっと頭に触れながら由紀夫を見上げる。
「ほらって言われてもー…」

ここまで来たら、正広が久々の外出を実現させるのは間違いない。後、由紀夫にできるのは、とりあえずあの張り紙をとりあえず正広の目から隠すくらいだった。
「ちょっとチャリ見てくる。あんま調子よくなくって」
「はーい」
そのまま真っ直ぐ外に向かう。なんとパウチまでされてる張り紙は、相変わらず綺麗なままだった。

その張り紙に手をかけた時、女の子の声がした。

「何してるの?」
振り向くと、まだせいぜい幼稚園くらいの女の子が由紀夫を見上げていた。
「え?」
これで意外と子供好き。すかさず子供の目線になるようしゃがんだ由紀夫に、長い髪を可愛らしいみつあみにしてる女の子がもう一度言った。
「ねぇ、ちぃちゃんいたの?」
「ちぃちゃん?…あ、あの文鳥っ?」
「そうだよ。ずっと探してるの。ちぃちゃん知らない?」
「え、えーと…」
「ちぃちゃん、怪我してるかもしれないって、ママが…。そうじゃなかったら、帰ってこれるから、もうちょっと待ちなさいって…」
ハトじゃあるまいし、帰ってこれるか??由紀夫が首を傾げたのを見て、その女の子は、『ちぃちゃん』がもう帰ってこないと言われたような気分になって、じーっと由紀夫を見つめてる黒目がちな瞳から、いきなり涙をこぼした。

「えっ!?」
由紀夫がギョっとする間もなく、顔中くしゃくしゃにして女の子は手放しに泣く。
「ちぃちゃん、帰ってこないよぉー…!」
「ほら、泣かないで、泣かないで?」
ハンカチを取り出して目元や鼻水を拭いてやるけど、後から後から涙も鼻水も流れて来て収拾がつかない。
そのうち、由紀夫にしがみついて泣き出した頃、『にいちゃん?』と2階から声がした。

「兄ちゃん、どしたの?」
正広が開いてた窓から顔を出し、女の子にしがみつかれてる由紀夫を見る。女の子も、ふいに頭の上から声がしたため、泣きながら正広を見上げた。

あ…!由紀夫の背中に冷たい汗が流れる。正広の肩に、まゆちゃん(もしくはちぃちゃん)がいる…!!

案の定だった。
「ちぃちゃん!」
泣いていた女の子がしっかり立ち上がって正広の肩にいる文鳥に向かって声を上げる。
「ちぃちゃん!ちぃちゃぁんっ!」

正広が驚いて硬直してる間に、女の子は何度もちぃちゃんの名前を呼んだ。
「違う…」
正広は小さく首を振った。これは、「ちぃちゃん」じゃなくて、「まゆちゃん」なんだからって。けれど…。

怪我をしているはずの文鳥は、苦しそうに羽を動かし、まるで落っこちるかのように正広の肩から離れた。
文鳥の落下地点に、子供と思えない機敏さで走り込んだ女の子が、しっかりと文鳥を手のひらに収める。
「ちぃちゃんだぁ!」
「そ、そうなの…?解るんだ…?」
うちの文鳥だけど、と言い張ろうかと思った由紀夫を、女の子が不思議そうに見上げた。
「お兄ちゃん、お友達のこと、解るでしょう?お父さんや、お母さんや、お兄ちゃんや妹や、解るでしょう?」

ごもっともでございます。
跳ねる足取りの女の子を見送り、由紀夫は内心納得する。納得はしたが…。

2階を見上げる。
窓は開いていたけど、そこに正広の姿はなかった。

「…正広?」
頭っからシーツを被っている正広に声をかける。返事はない。
ベッドに座って、目測誤らず正広の頭に手を置く。
「文鳥、飛べてよかったな」
ぽんぽん、と頭を叩く。正広の小さな頭が動いた。
「泣いてもいいよ」
静かな声で由紀夫は言う。
「俺しかいないんだから、泣いてもいいよ」
正広は小さく首を振った。振ったけれど、枕が濡れていくのを止める事はできなかった。

二日後。
正広は、ショックのあまりか熱がぶり返し、再びベッドでの生活に逆戻りしていた。由紀夫は仕事が忙しいのか、昨日も、そして今日も帰りが遅い。部屋の中を見てしまうとまゆちゃんの事を思い出してしまうから、と、毛布の中に潜り込んで、うつらうつらとしている。あまりいい夢もみなかった。どうして窓を開けてたりしたんだろ。何でだろ、何で俺ってそんなバカなんだろ…。

「正広―」
由紀夫の声がしたけど、正広は顔を出さなかった。
「おかえり…」
くぐもった声で言うと、由紀夫が笑ってる気配がする。ちょっとムっとした。子供っぽいと思ってるんだろうって。そもそも迷い込んだ文鳥だった。誰かに飼われてた文鳥なんだから、元の飼い主のとこに戻るのは当たり前。
そんなの解ってるけど、でも、正広にとっても大事な「まゆちゃん」だったのに。
「正広?ちょっとひろ?」
いつまでも顔を出さない正広に由紀夫が何度も声をかける。
「ひろー、おいってば。こら、すねひろー?」
拗ねてんじゃねぇもん!ムキになって、正広はギュっとシーツを握りしめた。

「ちょっと、すねひろさん?兄さんの話を聞きなさい?」
ベッドに腰掛けられて、正広は何度も首を振った。
「別の文鳥じゃダメなんだろ?だから、俺も新しい文鳥買ってやるからだの、なんだの言わねぇから。正広―?おまえいい加減に…」
それでも顔を出さない正広に、わざとらしいため息をつきながら、由紀夫は立ち上がる。

「すいません。このばかひろがこういった状態なんで、せっかくのお話なんですが」
えっ?誰かいるっ?驚いた正広は、こっそり外の様子をうかがった。
「いえ、あの…」
戸惑った声の女の人。綺麗な…。

「まゆ、さん…っ?」
「そーだよ。まゆさんだよ」
ぽかんとしてる正広に、由紀夫は笑いながら言った。

由紀夫がお茶を準備して、二人だけにして場を外す。正広は驚きが続いていて、声も出ない。
「はじめまして」
柔らかな声で言われ、おずおずと返事をした。
「ちぃちゃんを助けてくれてありがとう」
「あ、いいえ…」
「正広くん、文鳥好きなの?」
目の前にいるまゆさんは、あれから3年がたって、すっかり大人の女の人だった。昨日の女の子のお母さんで(ちょっとショック)、文鳥を飼っていて。
「あの…、はい…」
病院で初めてまゆさんを見た時、とても落ち着いた事を思い出す。それは今もそうだった。『まゆちゃん』がいなくなって、それはどうしようもない事なのに、泣けて、泣けてしょうがなかった自分が、すーっと治まるのを感じる。

「あの」
思い切って正広は言って見た。
「あの、俺。病院でまゆさん、見た事あります。その時まゆさん、文鳥連れてて、だから、えと、文鳥が好きって言うか…」
にっこりとまゆさんは笑った。
「ありがとう」

まゆさんは、小さな文鳥のヒナを正広に手渡す。
「ちぃちゃんの子供なの。子供生まれたばっかりで心配したけど、帰って来てくれてよかった」
「これ…」
「可愛がってくれる?」
手のひらの中に、小さな、小さな、暖かな、命。
「はい!」
元気よく、正広は答えた。

「ねぇ、何で?」
まゆさんが帰ってから正広は尋ねた。
「何?あぁ、まゆさん?」
由紀夫は指を折りながら答える。
「もー、大変だったんだから。奈緒美と、田村の情報網駆使して、おまえが前入院してた病院に聞き込みに行って、野長瀬まで使ってさぁ」
「うそ…!ご、ごめんなさい…!」
「うっちょーん」
ケラケラと由紀夫は笑った。
「向こうから来てくれたんだって。ちぃちゃん見つけてくれてどうもってお礼言いに来て、名前聞いたらマユミさんだっつーから。ん?と思って、ちょっと聞いて見たらドンピシャ。偶然ってあるな」
「ホントだねー…」
小さな文鳥に餌を食べさせながら正広は呟く。
「やれやれ…」
小さく由紀夫にため息つかれ、正広がそちらを向いた。
「よかったな、すねひろ」
「すねひろじゃないっ!」
「すねひろだったよ」
ぶー!と膨れる正広の頬を、両手でギュっと押さえる。
「いっつもあんまりいい子だからさー。普通そんなだろ?」

由紀夫に笑われ、正広も笑った。

2代目文鳥の名前は、今、じっくり考えられている。

<つづく>

現在、ギフトのネタは数多すぎ!っちゅーくらいあります。がんばって書くじょ!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

What's newへ

Gift番外編1話前編に

Gift番外編1話後編に

Gift番外編2話に

Gift番外編3話前編に

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ