天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

スペシャル番外もしかした編後編『ドラエもんを届ける』

えー、仕事やら、なんやら忙しいため、急遽考えたこの企画(笑)うまくいったらおなぐさみ!2だぁ!!何やってんねん、俺…。

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翌朝、コロ(仮名)はおなかすいたー!と奈緒美を叩き起こした。つ、疲れる…。まだ6時半、奈緒美の睡眠時間は4時間弱である。
「おばちゃん、おばちゃーん!」
「おばちゃんじゃないのっ!あたしは奈緒美って言って…」
「なおみおばちゃーん!」
「『おば』はいらないっ!!」
「なおみ、ちゃん…?」
キョトン、とつぶやくコロ(仮名)の言葉聞き、お、結構いいじゃん?と思った奈緒美は鷹揚に肯いた。
「そう。あたしは、奈緒美ちゃん」
「なおみ、ちゃん」
「そうそう」
満足そうに奈緒美は肯く。そんな奈緒美の腕をぐいぐい引っ張ってコロ(仮名)はバカの一つ覚えのセリフを言った。
「なおみちゃん、おなかすいたぁー」

野長瀬が用意したTシャツとジーンズを着せられて、出かけるよと言われたコロ(仮名)はおっでかっけ、おっでかっけ、とはしゃぎ出す。
「どこいくの、なおみちゃん。ねぇ、どこ?」
やや目線を上げなきゃいけない相手からそう言われるのもおかしなもんだと思いながら、「いいとこ」などと適当な事を言いながら、マンションを出る。
「いいとこ、って、どこ?」
あまりにしつこいコロ(仮名)に、迎えの野長瀬が遅い!と思いながら、奈緒美は言った。
「いいとこって、病院よ」
「びょーいんーっ?」
「病院。ほら、コロ(仮名)、自分の事も思い出せないんでしょう?思い出せるように、お医者さんに、コロ(仮名)っ!?」
「おはようございますー!」
社用ベンツが止まり、下りてこようとした野長瀬にむかって奈緒美は叫んだ。
「コロ(仮名)が逃げるっ!!」
「えっ!?コ、コロ(仮名)ちゃんっ!!?」
え?と固まった野長瀬の側を、すごいスピードでコロ(仮名)は駆け抜けた。
「は、早い…っ!」
「見とれてる場合じゃないでしょっ!」
心は4歳児でも、体は20代。どうしたんだ!というおっそろしい速度でコロ(仮名)は走る。自らの体力年齢をひっそりと自覚してる二人は、ベンツで追いかけたほどだった。

「コロ(仮名)!待ちなさいっ!」
「どしちゃったの!コロ(仮名)ちゃんっ!!」
「びょーいん、イヤあーっ!!」
「社長!コロ(仮名)ちゃん、病院イヤですって!」
「イヤったって!コロ(仮名)っ!危ないから!!止まりなさいっ!」
異様な光景であった。長い髪をなびかせて、一流陸上選手並のスピードで走る若い男のすぐ側を、大声でわめく男女が乗ったベンツが併走している。
「やだやだぁ!いかないーっ!!」
「わぁかったっ!わかったからぁっ!止めるからとまりなさいっ!!」

ピタっとコロ(仮名)が止まり、ベンツは数百メートル先で急カーブして戻って来た。
「…なんなのよ、あいつ…」
「すっごいっすね。競技会とか出てんじゃないです?」
「あんな子供が?」
「子供じゃないっすよ」
「あ、そっか…」
かなりの距離を全力疾走したはずなのに、コロ(仮名)は立ち止まったままの場所で、ちょっと顔を赤くした程度で大人しく立っていた。
「びょーいん、いかないっ?」
「いかないわよ」
「びょーいん、きらい。いたい、もん」
ニコニコっと言うコロ(仮名)を見て、奈緒美は大きくため息をつく。
「名前、決めたわ」
「え?」
「あんたの名前。決めた」
「なまえ?」
「由紀夫。早坂、由紀夫」
「ゆきお…」
「何でなんですか?社長」
「早く、どこにでも行けるから」
「ゆきおー、はやさか、ゆきおー」
「そうそう。あんた、今日から早坂由紀夫だからね」
「んっ!」
こくんっ、とうなずいて、にっこり笑った由紀夫は、奈緒美の手をとる。
「それで、どこいくの?なおみちゃんっ」

「つまんなーい!」
ビシっ!と決めたスーツ姿で、玄関から出ようとしてる奈緒美に由紀夫は言った。
「なおみちゃん、きょうもおでかけー?」
「そうそう。あたしは仕事だからねー。由紀夫はテレビでも見てなさーい」
「つまんないー!」
ブー、と頬を膨らませて、じたじたとその場足ぶみをする。あぁ、子供を置いて仕事に行く母親ってのは、こういう気持ちなのかと宙を仰ぐ。
「ドラえもんのビデオおみやげにしてあげるから」
「ドラえもんっ!?」
大きな瞳がキラリンっと輝く。
「だから、いい子にしててちょうだい」
「うんっ、するっ!」

1週間がすぎ、奈緒美が仕事に行ってる間、由紀夫は家で留守番をする、という生活パターンが定着しつつあった。由紀夫には、推定20年弱のタイムラグがあり、テレビを見ていても知らない番組ばかり。その由紀夫が唯一解って、現在も放映中なのがドラえもん。
「ドラえもん、すきー!」
「はい、いってきます」
「いってらっしゃーい!」
大きく手を振って、由紀夫はエレベータに奈緒美が乗り込むまで見送る。えーと、まだ買ってないドラえもんのビデオは…。リストを思い浮かべながら、奈緒美は事務所に向かった。

「あら、これどしたの」
約束のドラえもんのビデオを由紀夫に渡し、ビデオに猛ダッシュする由紀夫の背中に奈緒美は尋ねた。
「なにぃ?」
「これ、このダンボール」
「しらない。なおみちゃんのでしょ」
「んー?」
上から見たため解らなかったが、側面には、宅配便の送付状がつけられていた。
「あぁ、お母さん…」
ぽつん、と言った言葉に、由紀夫が敏感に反応した。
「おかーさん?」
「あたしのよ。うちから送ってきたんだ」

ダンボールを開けながら、宅配便のお兄ちゃんびっくりしただろうな、と思う。自分たちはすっかり4歳児だと思ってるからなんとも思わなくなったが、初めて見る人は、この男前の外見と中味のギャップは衝撃だろう。
「野菜…。あるって言うのに…」
「なにー…?」
「食べ物よ。野菜とか、味噌とか…。あ、味噌漬だ」
「みそづけ…」
廊下に置かれたダンボールの中味をチェックしてる奈緒美のそばに、ぺたんと座り込んだ由紀夫は、興味深そうに手元を見ている。
「あんた、ドラえもんは?いいのよ、ここは」
「んっと、あの…」
「おなかすいたの?」
中味をチェックし終えた奈緒美が振り向くと、すぐ側に由紀夫の顔があった。
「由紀夫?」
じーっとダンボールを見下ろしている。
「由紀夫、どうかしたの?何か、思い出した??」

奈緒美の声に、パっと顔を上げた由紀夫は、ぶんぶんと首を振って立ち上がる。そしてドラえもんのビデオを見はじめたのだった。

「なおみちゃん」
「ん?」
母親特製牛肉の味噌漬を焼いて由紀夫をテーブルにつかせると、じっとそれを見つめながら、由紀夫は言った。
「なおみちゃんの、おかーさんの、にもつ?」
「そうよ」
「なおみちゃんのおかーさんって、どんな?」
「どんなって…」
一口食べると、懐かしい母の味。そうねぇ、と奈緒美は言った。
「普通のお母さんだけどねぇ」
「ふつーのおかーさん」
「うちは兄弟が多くってね。あたしは長女なんだけど、もう大変だったわ」
「たいへん?」
「弟や妹の面倒ばっかり見てて。あんたみたいなのもいたわね」
「ぼくみたいな?」
「テレビばっかり見てる子」
奈緒美がテーブル越しに手を伸ばして、由紀夫の頭を撫でる。
「人に何か聞いてばっかりの子とかね」
由紀夫はなでられた頭に手を置いて、じーっと奈緒美を見た。

由紀夫の目は大きくて、いつもどこか不思議そうな表情を浮かべている。
「ほら、いいから、食べちゃいなさい」
フォークを持たせると、ん、とうなずいて食べはじめた。なんかいつもと違うなと奈緒美は思った。

由紀夫が寝るのは、リビングに引かれた布団。精神4歳児にしては大人しく一人寝をする由紀夫で、一度寝ると起きないところでも、奈緒美は助かっていた。
由紀夫を長時間放って置くわけにはいかない奈緒美は仕事を家にまで持ちかえっていて、それを片付けてからベッドに入る。
病院嫌いの由紀夫を、どうにか医者に見せる方法はないものか…と考えながら眠ったせいなのか、奈緒美は由紀夫の夢を見た。

ベッドサイドに由紀夫が立っていて、奈緒美を見下ろしている。
「どしたの?」
奈緒美が聞くと、由紀夫は拗ねた口調で言う。
「なおみちゃん、ずるい…」
「ずるいって…、何?」
「なおみちゃんばっかり、ずるいよぉ」
「由紀夫…?」
ベッドに起き上がって由紀夫の手に触れると、その質感は。あら、夢じゃない?
「由紀夫どしちゃったの?」
「ずるいぃ」
「何がよ」
由紀夫の手をとって、落ち着くようにと手の甲を軽く叩く。
「なおみちゃんばっかり、ずるいもん」
「だから、何でよ。あたしが何したって言うの」
「だって…」
低い、拗ねた声。
「なおみちゃん、おでかけばっかりする」
「仕事だもの、しょうがないでしょう?」
「それに」
ふいに大きな瞳に涙が盛り上がってきた。
「由紀夫!?」
「それに…、なおみちゃんばっかり、おかーさんがいるー…」
崩れ落ちかける体を、ベッドに座らせる。
「由紀夫、何泣いてんのぉ」
「なおみちゃんばっか、おかーさんが、いて」
「そりゃいるけども」
「どーして、ぼくにはおかーさんがいないの?なんで、おとーさんと、おかーさんは、ぼくのこと、むかえにきてくれないの?なおみちゃんには、おかーさんがいるのに、どーしてぇー?」
そう言った由紀夫はボロボロ泣きはじめる。奈緒美は両腕で由紀夫を抱きしめた。
「由紀夫…」
「なんでぇ?」
「あぁ、ほら、泣くんじゃないわよ。由紀夫、ほらいい子だから」
「だって、ホントに、ゆきお…、なの?」
ちっ、痛いとこを突いてくるヤツ…。
「名前は違うかもしれないけど、あんたは、あんたなの」
ぽん、ぽん、と背中を叩く。
「ドラえもんが好きで、よく食べて、よく寝て、病院が嫌いで、足が速くって、元気で。それくらい解ってれば上等よ。あんたは、そういう子なの」
ティッシュをとって、ぐちゃぐちゃになりかけの顔を拭いてやる。
「あーあぁ。可愛い顔が台無しでしょう?泣くんじゃないのよ」
けれど由紀夫は泣き止まず、えぐえぐと涙を零しつづける。

意識が戻った日に大泣きに泣いてから、そういうところは見せなかったのに。
4歳児は4歳児なりに、不安だったんだなぁ、と奈緒美は思う。
「由紀夫」
ティッシュでは間に合わず、手近にあったタオルを使いながら、できる限り優しい声で呼びかけた。
「大丈夫だからね。ちゃんと、あんたのお父さんもお母さんも、それに、あんたの事も、あたしが探し出してあげるから」
「なおみちゃーん…」
「任せなさい。だから泣く事ないからね」
すでに奈緒美は母の心境。ぐすぐす泣きながらも眠りに入りそうになった由紀夫をベッドに入れて、抱き着いてくる由紀夫の背中を撫でながら眠らせてやる。
「なおみちゃん…」
柔らかな声で、由紀夫は呟いた。

「…何…?」
何かやかましい…。
奈緒美は眉をしかめながら、腕の中にある何かを抱きしめる。
「なに、これ」
その妙な感触に開きたがらない瞼を無理矢理引き上げると、巨大な水色の物体が!
「…ドラえもんー!?」
奈緒美の腕の中で、等身大のドラえもんぬいぐるみが、えへへぇーな笑顔を浮かべている。
「何、これ。何?なんで、ドラえもんっ?」
起き上がってうるさい音の元を探すと、部屋のすみに転がった目覚まし時計がみつかる。起き上がって乱暴にそれを止め、何故ドラえもんが自分と一緒に寝てるのか、を思い出そうとする。

けれど、頭痛がして、とりあえず顔を洗ってすっきりしてから…、とリビングに足を出して、めまいがした。
「あ、あいつらぁー…っ!!」
荒れ果てている!荒れ果てているリビング!

ようやく奈緒美の脳が動き出した。
昨日、奈緒美の誕生日パーティーだー!と称して、腰越人材派遣センターの面々に、ジュリエット星川チームも参加して、定番のどんちゃん大騒ぎになったのだった。
あの等身大ドラえもんは、誕生日プレゼントだ。一人じゃ寂しいでしょって、あんなのと添い寝する趣味ないってのっ!!大体、人の誕生日パーティしたんだったら、片付けぐらいしていけってのに…!!

ソファに乱暴に体を預けると、目の前の灰皿に由紀夫の葉巻が残っていた。
「夢、かぁ…」
長い夢みたなぁと思う。
大きく伸びをして、会社行こー、と呟いた。

「おはよう!」
「うわ、奈緒美来たよ」
「何それ」
いつにもまして綺麗にメイクし、高級なスーツに身をつつんだ奈緒美はムっとしたように由紀夫の声に答える。
「どーゆー体してんの。正広―、奈緒美来たぞー」
「はぁーい!」
給湯室から正広の声。由紀夫はその給湯室から奈緒美専用のジノリのカップを運んでくる。
「モーニングコーヒーでございます」
「どしたの!」
「コーヒーくらい運べるっつの。二日酔いだろ」
「…ちょっとね」
社長のデスクに腰かけて、ニヤニヤと笑いながら指差す由紀夫に、小さく奈緒美は肯く。
「あれだけ飲んで、会社には出てこれるってのがすごいよな。野長瀬半休、典子有休だって」
「あら、聞いてないわよ」
「その分、正広が働くって張切ってるよ」
見てみると、給湯室から出てきた正広は、新聞の整理、夜の間に届いたFAXの整理にかかりだしていた。
「あんたは?」
濃いストレートコーヒーを飲みながら、奈緒美は由紀夫に尋ねる。
「俺?俺はだって届け屋じゃん」
だから、コーヒー届けただろ?とえらそうに言う由紀夫を見て、奈緒美は苦笑する。

「由紀夫」
「ん?」
仕事ないんだったら、うちで寝てりゃあよかったぁー。などと自分のデスクに突っ伏して、ふにふにと過ごそうしてる由紀夫に声をかけた。
「ちっちゃい頃、あんた可愛かったんでしょうねぇ」
「あ?」
「ちっちゃい頃。4歳の頃とかさ」
「4歳…?」
「うん。可愛かったわよ」

不思議そうな顔する由紀夫に、奈緒美はニっと笑いかけて、コーヒーを飲み干す。
「可愛かったって…。俺、今でも可愛いよなぁ、正広―」
「え?兄ちゃん?兄ちゃん、可愛い?」
「可愛いじゃーん。可愛いって思ってるだろ?俺の事」
にーっこりと、思いっきりの作り笑顔で言われた奈緒美は、歩きながらファイルで由紀夫の頭をはたき、正広にそれを渡した。
「ひろちゃん、それ、あのバカの仕事のファイル。渡しといて」
「今、渡せよ!今!直接渡しゃあいいじゃん!!」

2杯目のコーヒーを入れに行きながら、なんで、あんな夢見たんだかなぁ。と思う。
可愛かったけどね。可愛かったけど…。
こーゆー、くそ生意気な由紀夫の方が好みだなぁ…。

でも、あの泣き顔は忘れられん。
今度みんなに話してやろ、と、ひっそり奈緒美は心に決めた。

<つづく>

もー、由紀夫ちゃんは可愛いのも、カッコいいのも、似合うのよぉー!!激烈木村バカでした(笑)
私信2:赤い怪獣ちゃんへ。ほら、今回はひろちゃんも出たよ(笑)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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