天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第10話『手紙を届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「小うるさい上司と、能無しの同僚と、細かい小姑と、対人恐怖症の犯罪マニアと、頭の気の毒なバカ女と、いんちき占い師などに囲まれながら、今日も今日とて早坂由紀夫は届け屋稼業に精を出している。そんな由紀夫の明日はどっちだ(しつこいー、ゆん)」

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今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「手紙」届け先「高橋洋子」

「あのっ!」
仕事を終え、ポラロイドをバックにしまおうとした瞬間、由紀夫は腕をつかまれた。
「うわっ?」
「あっ!ご、ごめんなさいっ!!」
手から離れ、風に飛びそうになったポラロイドを由紀夫の腕をつかんでいた若い女が慌てて取りに走る。
「すみませーん!」
何だ!?と驚いている由紀夫に、何度も頭を下げ、その女はポラロイドを差し出した。
「あの、届け屋さんですかぁ?」
「…そうだけど」
そう大した仕事ではなく、単に急ぐだけって仕事。だから受け渡しも公園で、「届け屋」だと名乗った由紀夫の声が聞こえて、声をかけてきたようだった。
「あの…、届けて欲しいものがあるんですけど!」
「あぁ、仕事だったら、こっちに」
「でもっ!」
腰越人材派遣の住所の入った名刺を渡そうとした由紀夫は、もう一度腕をつかまれて、何なの、とその女を見つめる。

どこにでもいそうな、今時の女の子。女子高生ではない。
「あなたがいいんです!!」
我ながら、目つきはいい方ではないと思う。その由紀夫が睨んでいるにも関わらず、彼女はじっと見つめ返してくる。
「俺が?」
「あなたが!あなたに届けて欲しいんです!」
その勢いに押され、由紀夫は仰け反ってしまう。
「うちは俺だけだから!」
「え?」
「うちで届けてんの俺だけだから!こっちに言えば、俺が行くよっ!」
「やったぁ!」

「ありがとうねぇ、営業活動」
野長瀬をちらりと見ながら、奈緒美が言った。
「何?女子大?」
「そう」
由紀夫をとっつかまえたのは、その大学の学生だった。
「教授に届けたいものがある、か」
テキパキと典子に書類を作らせながら奈緒美の事情聴取は続く。
「連れてくればよかったのに」
「忙しいんだと」
「ま、だから届け屋なんて頼むんだろうけどね」
「兄ちゃん、女子大行けるの?嬉しい?」
「…千明みたいなのが大量にいそうだから願い下げ」
「ゆっ、由紀夫ちゃん!私行きましょうか!」
勢い込んで言う野長瀬に、にっこりと見事な笑顔を見せる。書類を書くために下を向いていた典子以外が、思わず見とれる程の。
「ごめんなぁー、俺が、いいんだって」
「い、いぢわるぅ…」
涙にくれる野長瀬を無視して、由紀夫は奈緒美に向き直る。
「来週の水曜日に来て欲しいって言われてんだけど」
「来週の水曜日。ひろちゃん、由紀夫のスケジュールどうなってる?」
「えーっと、あ、大丈夫です、空いてますー」
「ちょっと待て。なんでそんな事正広が知ってんだ?」
慌てる由紀夫に奈緒美が驚いたような顔をしてみせた。
「あら、保護者の方にまだお伝えしてなかったかしら。ひろちゃん、今日から役付きなのよ」
「役付きー?」
「そう。早坂由紀夫担当課長」
「なんだそりゃ」
「ま、あんたのマネージャーみたいなもんよ」
「ほら、兄ちゃん、俺ね、このパソコン使えって!」
物珍しがって奈緒美が買ったものの、使えないまま放っておいたパソコンを与えられ、嬉しそうに正広がはしゃぐ。
「もう、俺、ばっちり兄ちゃんの仕事、マネージメントしたげるね!」
なんか、奥さんに仕事内容を管理されてるダンナみたいな気持ちになってしまった由紀夫だった。

さて水曜日。それなりに由緒正しい女子大に由紀夫は足を踏み入れた。
相手からの指定で、グッチのスーツを着ている由紀夫は、何人もの女子大生に振り返られる。
それを一切無視して、指定された場所に向かう。
「あ、すみませぇーん!」
いわゆるゼミ室のようなところに、由紀夫をとっつかまえた女子大生、裕子がいた。
「朋香!来た来た!」
「えっ?きゃあ!!」
部屋の奥にいたもう一人で出てきて由紀夫を見るなり、歓声を上げる。
「かぁっこいいーっ!」
「ねぇー!?言ったでしょー!?」
二人だけで盛り上がっていて、由紀夫には何が何だか解らない。
「あのっ、髪、ちょっといいですか?」
「髪ぃ?」
「切ったりする訳じゃないんで、ちょっと、下ろしていただきたいんですけど…」
長い髪を、いつものように後ろで一つにまとめていた由紀夫は、半ば無理矢理椅子に座らされ、髪をほどかれた。
「ちょ、ちょっと、何すんだよっ」
「いや、この髪をね、下ろしてもらって…」
どうして女はその気になった途端、いきなり力が出るんだっ!?細身の女二人に押さえつけられるようにしながら、無理やり髪をとかれた。
「あたしは、この一つにくくってるの、結構好きなんだけどなぁー」
「え、でも、それだったら、この辺の髪が、一筋パラって来てるのが」
「あー!いいーっ!!」
「でしょーっ!!」
「あのなぁ!!」
声を上げると同時に立ち上がると、さすがに二人は一歩引いた。
「俺は、おもちゃになりに来てんじゃねぇよ!届け物はっ!」
「は、これなんですけど…」
愛想もそっけもない、茶封筒。
「あんまり、いいものじゃないから、せめて渡す人を考えようと、思って…」
渡された茶封筒は、多少厚めで、宛名は女性名になっている。
「高橋洋子…。この人に?」
「うちの教授なんです。国文の」
「じゃあ、渡してくるから。あ、それからこれ」
腰越人材派遣センターのネーム入り封筒を渡す。中味は正広が精一杯丁寧に慎重に作った請求書である。
「髪、もういいの?」
「すっごい髪ですよね、くくってたのに…」
「さらさらー、羨ましいぃー」
さらに触ってこようとする二人の手から逃れ、由紀夫は教えられた通りにその教授室を目指した。

ノックをすると、落ち着いた声で返事がある。
「失礼しまーす」
ドアを開けた由紀夫には、落ち着いたスーツ姿の女性の後ろ姿が見える。
「高橋先生?」
「そうですけど」
振り向いたのは、40代前半くらいの、落ち着いた美貌の眼鏡の女性。あぁ、理知的って言うのはこういうのを言うんだな、と由紀夫が思っていたら、高橋教授の表情が徐々に変わって行く。
「あ、あの…?」
幸せそうな、潤んだような、瞳。ほのかに赤みのさす頬。
何だ、何だ、何だ!?
「どなた、ですか…?」
「あ、届け屋です」
「届け屋さん…」
そーいえば、ここは女子大。しらない男がいるってだけでも異常事態なんだろう、と教授の不審な行動をスルーしようとした由紀夫だったが、ますます、彼女の様子はおかしくなる一方。
「え、えーと、これ、が、届け物で…」
自分の顔しか見てない教授に、さっき渡された茶封筒を差し出す。教授は受け取りはしたものの、相変わらず由紀夫から目を離さない。
「これ、いいですか?」
さりげなーく、目線を避けながら、ポラロイドを見せると、あら、とはっきりと頬を赤くした。

「いや、あの、受け取りの代わりなんで、えぇ、あ、僕は入りません、えぇ、いえ、ですから、そちらに立ってていただいて、あ、その封筒を顔の側に、はい、すみません」
さすがにここまで来ると、自分が、このルックスのせいで雇われたという事が解ってくる。多少なりとも愛想よくするのも、あの法外な値段のうちだろうと、開き直った由紀夫に、ニコっと笑いかけられ、彼女も嬉しそうに微笑む。
見つめあう、笑顔と笑顔。美しい光景。
「…それじゃっ」
と、手を挙げた由紀夫は、やんわりと引きとめられた。
「お茶でも、いかがですか?」

由紀夫が解放されたのは、それから30分ほど後の事。
美味しい紅茶と、クッキー、それに上品な会話でもてなされた由紀夫は、裕子と朋香のいた部屋に戻った。
「お帰りなさい!」
「どうでしたっ?」
心配そうな表情の二人に、由紀夫はポラロイドを渡し、肯いてみせる。
「ショックは、受けてなかったみたいだけど」
「あぁ…、よかったぁー…」
二人して胸をなで下ろしているのを見て、最初会った時はどーゆーヤツだと思ったけど、これで意外といい奴等なんだなぁと由紀夫は思った。
「先生、ずっと投稿してるの」
「してるんですぅー、でも、先生って、どう考えても絵本向きじゃないのに」
「絵も、イマイチだし…」
高橋教授は、講義では万葉集などをメイン分野としてるのに、絵本作家になる夢を捨て切れてなく、『夢子』というペンネームで、今でも、しばしば絵本雑誌などに作品を投稿していた。
「純文学とか、そういうのはまだ解るんですけど、なんで絵本なんだか…」
おっとりとして、上品で、理知的で。絵本というよりは、純文学や古典文学の方がよく似合う女性だった。
「またね、落選だったんですよぉ」
「そういうのって解るの?」
「解りますよ。封筒が違うんですから」
「あ、そう」
「だって、あれ、先生が作品返送用に同封した封筒ですもん。普通は、先に編集部から連絡来るでしょ?」
朋香がいい、そりゃそうか、と由紀夫も肯いた。
「昨日、朋香がそれが来てるのを見つけて、あぁー、先生、また落ち込んじゃうって思ってた時に、あなたを見つけたんですー!」
「俺…?」
「そう。先生ね、不良っぽいタイプが好みなんですー。キャンディ・キャンディっ言ったら、アンソニーより、テリーって感じで」
由紀夫が頭の周りに80個くらい??マークを飛ばしているにの気がつかず、裕子と朋香は、どれくらい由紀夫が高橋教授好みかについて話し続けた。

「でも、先生が元気なまんまだったらよかった」
「もし、また、ボツくらったら、運んで下さいね」
「そんな事になったら、先生、わざと落ちるようにするわよ!」
二人からお礼を言われ、由紀夫は大学を後にした。
先生の心配をして、なかなか優しい子たちだと思いながら。

「早坂さんっ!」
二ヶ月ほどがすぎ、由紀夫がそんな事を忘れかけたある日、裕子と朋香が腰越人材派遣センターに飛び込んで来た。
「いらっしゃいませ!」
反射的に正広がご挨拶をする。
「あ、お邪魔します!早坂さん!」
「…ど、どし、た?」
「せ、先生がっ!」
「高橋先生?」
「先生が大変なんですっ!」
「ちょっと待て、いいから、おまえら落ち着け」
「由紀夫っ!何なのよっ、この女たちーっ!」
「誰だって、おまえにだけは関係ねぇ」
上品に華やかな二人に、相変わらずチープな千明がキャンキャン騒ぎ、
「どうぞ」
早坂由紀夫担当課長、溝口正広が椅子を勧め、そそくさとお茶を入れに走る。
「それで?高橋先生がどうしたって?」
「あ、先生。先生ね、あれから本当に、片っ端から投稿始めたんですよ!絵本、小説、和歌、俳句、川柳、エッセイ、論文」
「あ、そう。すごいじゃん」
「いや、また早坂さんが来てくれないかって思ってるらしいんですけど」
「それで、ですね」
二人とも、軽く身を乗り出して、由紀夫をじっと見つめる。
「先生ったら、誰にも黙ってたんですけど」
「今日、雑誌のエッセイ大賞の授賞式だって言うんです!」
「すごいじゃん!エッセイ大賞!?」
「はい!」
そこで、と、二人はケース入りのバラの花束を、大きな紙袋から取り出す。
「これ、先生に届けて欲しいんですけど」

今回は場所が悪かった。
裕子、朋香に、奈緒美、千明、正広、典子、野長瀬がたばになって、衣装はどうだの、髪はどうするの、どの香りがいい?だの、やりたい放題。15分で、由紀夫はすべての抵抗を捨てた。
その結果、いつものグッチのスーツに落ち着きはしたものの、輝くばかりに男ぶりを上げた早坂由紀夫が完成し、授賞式会場のホテルに向かった。

豪華な会場で出会った高橋先生は、由紀夫の登場に泣いて喜び、二人からのバラの花束と、由紀夫からの、細身の万年筆を受け取った。受け取りの写真を取って、よかったら、と二人で写真を撮り、それも渡した。
すごく嬉しそうな先生を見て、由紀夫はなんか、こういうのってやっぱりいい、よな、とふんわり思った。

が、その時、すでに、先生への落選通知が続々と着いている事など、知る由もない由紀夫なのだった…。

早坂由紀夫の明日はどっちだ!

<つづく>

なんか、「明日はどっちだ」が好きになってしまって。突発的に私の中で流行っているのです。裕子さん、朋香さん、お名前勝手に使っちゃったですー。うふふー。

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!そして、来週の水曜日!我が家には、Major通信横須賀支部、支部長の黒ラブ様が木村の誕生日をお祝いするために来てくれてるはずだぁ!!

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