天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第12話前編『小さなプレゼントを届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「11月13日は由紀夫の25歳の誕生日で、正広が発起人となって楽しいパーティが行われた。夜通しのパーティの翌朝。遅刻するー!と全員が慌てて飛び出した時、由紀夫と正広は家の前に小さなプレゼントを見つけた」

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今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「小さなプレゼント」届け先「???」

「正広」
先に我に返ったのは、由紀夫だった。
「俺―、仕事、行くから」
「あー!ずるいっ!兄ちゃん、俺に押し付ける気だろぉ!」
自転車にまたがろうとする兄の腰にすがりついて正広は怒鳴った。
「バ、バカだなぁ、俺はただ、会社に遅刻したら、まずいなぁー…って」
「嘘つけー!遅刻なんてへっちゃらのぴーのくせにーっ!」
事実であった。由紀夫は、おまえは非常勤の取締役か!というくらい自由に会社に行っていたから。
「…」
まさしく腰巾着状態の正広の後頭部を見下ろし、由紀夫は小さくため息をついた。
「おまえ知ってんだろ?今日、俺、仕事あんの」
「…あ」
「な?別に逃げる訳じゃねんだから、悪いんだけど、離してくれるか?」
うー…、と兄を見上げ、じぃーっと見つめ、本当?と目で確かめる。
本当、とにっこり笑って由紀夫はうなずいた。
もう一度、じーっと見つめて、しぶしぶ、と、正広は由紀夫から離れた。
「…いってらっしゃい」
「いってきまーす」
自転車に颯爽とまたがり、爽やかな笑顔で手を振って、由紀夫は自宅を後にした。…まだまだ青いな、と心の中で舌を出しながら。

さて、残された正広である。
兄の姿が見えなくなるまで見送って、完全にその姿が見えなくなって、しぶしぶ、といった風に、手の中のピカチュウを見下ろした。
「どーしよぉー…」

二人の部屋は、かなり無残な状態になっており、どこから手をつけたらいいのかなぁー…という気分に正広を叩き込んだ。
しかも、これがあるし…。
「『まこちゃん、元気でね』かぁ…。まこちゃん…」
ベッドにポンと腰掛けて、カードを眺める。ピカチュウのカードに、グリーンのクレヨン。
「リボンもグリーンだったし、グリーン、好きなのかなぁ…。ねー、しーちゃぁーん」
そんな事、私は知りませんよ、としーちゃんはピカチュウには興味がない様子。
病気で寝てた時、する事がなかった正広は、色んな事を考えては暇を潰すという方法を取っていた。例えば、隣のベッドのお見舞いに来てるおばさんはどういう人なんだろうかとか、今日、やけに機嫌のいい看護婦さんは、昨日何があったんだろうかとか。
だから、自分は推理が得意だ!と正広は思っていた。
「よーし、この謎も解いてみせるぜ、じっちゃんの名にかけて!そして、俺に不可能はない!」
大変、テレビ好きの正広だった。ただし、自分にあるのが、「推理力」ではなく「想像力」だと気付いてはいなかった。

「えっと、まず、まこちゃんってのが誰か、だろ?それと、そもそもこれは誰が贈ったか、だよな?」
うん!と力強くうなずいた正広は、そのまま動かなくなった。
「…ぜんっぜん!解らねぇ」

ぱん!と立ち上がって、正広は部屋の掃除に取りかかる事にした。

「まこちゃん、まこちゃん…、まこちゃーん、まっこちゃぁーん♪」
適当なフレーズで、「まこちゃん」を連呼する。連呼してるうちに、ふと、その言葉に聞き覚えがある事を思い出した。
「まこちゃん…って。あれ…?」
どこかで聞いた事がある。でも、直接の知り合いってほどじゃあないはず。
「あれ、あれ、あぁれれれぇ〜…?」
思い出せない。
「うーん…」
パッ!と正広は掃除機を手放した。
「寝よっ!」
寝不足の頭でこれ以上考えたってダメ!と割り切って、久々の朝寝を楽しむ事にした正広だった。

その頃、由紀夫は真面目に働いていた。

正広が目を覚ましたのは、二時を回ってからだった。さすがに寝過ぎたかな…と、ぼけーっと体を起こす。放課後なのか、子供の声が窓の外を通過していった。
「まこちゃん…?」
ぽつんと呟いた正広は、あ!とはっきり目を見開く。
「まこちゃんって、俺、稲垣先生んとこで…!」
正広の愛鳥しーちゃんの主治医、イナガキアニマルクリニックの稲垣医師。そこで聞いた事がある!
よしっ!と正広は受話器を取った。

『はいはぁーい、イナガキアニマルクリニックでーす』
「あ、あの、稲垣先生、おられますか?」
『はぁーい、お待ちくださーい』
助手の草なぎさんに言われ、なんだか、奇妙な保留音を、2分にわたって聞いていると、聞きなれた稲垣医師の声がした。
『はい、稲垣ですー』
「あ、あの、溝口正広です」
『あぁ、しーちゃん、どうかした?』
「いえ、しーちゃんじゃないんですけど、あの、先生、『まこちゃん』って知りませんか?」
『んー?15人くらい知ってるー』
…。
「え…。15人…?」
『それくらいだと思うけどねぇ。『まこちゃん』でしょ?えーと、猫で3人と、犬で…』
「じゃなくってっ!人間です、人間!人間で、『まこちゃん』…」
『あ、人間?』
拍子抜けしたような声。なぁーんだ、と笑った稲垣は、
『じゃあ、8人くらい』
と答えた。
……。
「そ、そんなに、ですか?」
『んーとね、幼稚園の時に隣のクラスで』
「待って、待って。あのー、先生んとこの、お客さんで…」
『やだなぁ、お客さんだなんて。営利目的みたいじゃない。営利目的だけど』
稲垣は自分の言葉に受けたのかくすくすと笑う。
「えっと、センセー…」
『患者さんのお姉ちゃんたちね。えっと、まこちゃん…、んーとね、ウサギのぴょんきち、…ぴょんきちって名前、どう思う?俺はね、カエルじゃないからどうかって思ったんだよね。それに、家の中で飼ってるからそんな跳びはねられないし』
「ぴょんきちの飼い主さんが、『まこちゃん』なんですか?」
『そうだったと思うよ』
「あの、住所、って、教えていただけませんか?」
『住所?ちょっと剛―』

が、その住所が、である。
「と、遠いですね」
『うん。ほら、うちってさ、有名なんだよね』
そうなのだった。知る人ぞ知る有名動物病院。稲垣のキャラクターと、草なぎの腕のおかげらしい。
「鎌倉から、来たりもするんですかぁ…」
『来るよ、車ぶっ飛ばして』
いっくらなんでもそれは違うだろ、と正広は受話器を置いた。
確かに自分は『まこちゃん』って言葉を聞いている。そりゃあもちろん、まこちゃん、なんて名前はいくらでもあるだろうけど、でもどこかではっきりと聞いたはずなのに。
目が覚めてからの正広は、なぜかきっぱりと思っていた。

その頃、由紀夫はおもちゃ屋の前で、等身大ピカチュウを眺めていた。

「まこちゃん、まこちゃん、まこちゃん…」
自分が知ってるいる女の子の顔を、次々に思い浮かべてみる。入院時代にまで溯ってみたりもしたが、いくらなんでも遠すぎるか、と思い直した。
「でも、入院って事は、家はこっちでもおかしかないのか!…でぇーもーなぁー…」
そんなに昔じゃなかった、と正広は思う。
ピカチュウ、グリーン、まこちゃん…。この組み合わせだと、思うんだけど、なー…。
「あーもーっ!解んねーっ!」
頭がズキズキし始めて、正広は再びベッドに横になる。考えすぎて知恵熱を出しそうになっていた。

「ただいまー」
まだ5時台という早い時間に帰って来た由紀夫は、掃除機が出しっぱなしになってる以外はすっかり片付いている部屋の奥、ベッドの上で正広が倒れているのを発見した。
「正広…?」
「…だ、大丈夫―…」
体を起こした正広は、兄ちゃんおかえり、と頭を下げる。
「びっくりしたじゃん。片付けのしすぎで倒れたかと」
笑いながらやってくる兄を見ていた正広の背後、窓の外で子供たちの声がした。
駆け抜けていく笑い声。
「あ…!」
「正広?」
目を真ん丸に見開いて、硬直した正広に由紀夫は近づく。
「まこちゃん!」
「お!解ったのか、『まこちゃん』」
「解った!…かもしれない」
「え?」
「まこちゃん、って、俺ずっと女の子だって思ってたけど、違う、かもしれない」
「男かぁ?」
「まこと、とかだったら、男の子でもおかしくないじゃん」
ベッドに座り直して、正広は窓の外を覗き込んだ。
「ここ、小学校とかの通学路なんだ」
「うん」
由紀夫も窓に近寄る。
「ここで」
ベッドを指差す。
「時々聞いてた。『まこちゃん』って呼ばれてる声」

正広は、由紀夫のところに来たばかりの頃は微熱を出す事が多かった。その度朝、昼、関係なくベッドに横になっていたのだが、朝とか、夕方とか、無意識に子供たちの声を聞いている。
「『まこちゃん』って言ってるのは女の子で、だから、俺、ずっとまこちゃんって女の子だって思ってたんだよね。でも、1度だけ、姿見た事あって」
「男だったんだ」
「そう。ちょっと小柄な男の子で、ランドセルに一杯ポケモンの人形つけてて、すごい綺麗な緑のTシャツ着てた。ほら、ずっと、女の子だと思ってたから、あ!男の子なんだ!って思ったから覚えてたんだよ」
「って事は…。その呼んでた女の子か」
「だと思う」
「どんな女の子だった?そっちは覚えてる?」
「うん。えっとね、やっぱりあんまり大きくなくって、髪がね、この位」
と肩のラインを正広は示す。
「で、まっすぐ。声が、よく通る可愛い声だった」
「もう一度見たら解るか?」
「…と思うけど…」
窓の下を、まだ子供たちが通っていく。その中に、『まこちゃん』とガールフレンドの姿はなさそう。

「探すか」
兄に言われ、正広は大きくうなずいた。
「とりあえず、こーゆーのはどうかと思って」
バッグから由紀夫は一枚の紙を取り出した。
「あー!ピカチュウー!」
右下にピカチュウがいて、そのぴかちゅうが「プレゼントあずかってます」と言ってるように見えるポスター。
「すげぇー!このピカチュウ可愛いー!誰が描いたのっ?」
「え?俺」
「兄ちゃんっ?兄ちゃん、ピカチュウ知らなかったのにっ?」
「うん。だから、これ買った。ほら、やるよ」
足元から大きな箱を取り上げ、正広に渡す由紀夫。
「何、何?」
急いで開けた正広は、等身大ピカチュウに目を丸くする。
「こ、これぇ?わざわざ買ったんだぁ!」
「やっぱ、ディティールに凝らないとな」
言い置いて、由紀夫はビデオ屋のドアにそれを貼りに降りて行った。我が兄ながら、凝り性な…と思った正広だったが、等身大ピカチュウが嬉しくない訳ないので、すぐさま出窓に置き、しーちゃんを止まらせたりしている。

「正広の知ってるまこちゃんがこのまこちゃんだとしたら、ここにあるってのは、完全に間違いだから、プレゼント探してる可能性があるしな」
「そーだね」
簡単な夕食を取りながら、うんうんとうなずく正広。
「明日学校行く途中とか、気付いてくれたらいいんだけど…」
「だって兄ちゃんのピカチュウ超可愛いもん!子供らみんな見てくって!」
えへへへへと笑いあった二人だった。

その翌朝。
優秀なマネージャーである溝口正広のおかげで、次々仕事が入っている由紀夫は、普段よりもちょっと早めに家を出た。
天気はあまりよくなく、やだなー、雨降るかなー、と空を眺めながらドアを開けた由紀夫は、何かにぶつかって、え?と下を向く。
「あっ!ごめん!」
赤いランドセルの女の子が、その勢いで後ろに倒れそうになってるのを慌てて支える。
「ごめんなー、大丈夫?」
「だ、大丈夫、です…」
鈴を転がすような、というのはさすがにオーバーながら、かなり可愛い声。小柄で、肩までのストレート。
「あ、ひょっとして、これ?」
ピカチュウのポスターを指差して言うと、ちょっと頬を赤くして、こっくりとその子はうなずいた。
「ちょ、ちょっと待って…」
「おっはよっ!」
由紀夫がプレゼントを取りにいこうとした時、その子のランドセルを叩いた男の子がいた。
「まこちゃん…!」
お、この子がまこちゃんか、と由紀夫は眺めた。ちょっと小柄で、短い髪。ポケモンなんだろう、マスコットをたくさんランドセルにつけていた。そしてグリーンのキャップ。
「どしたんだ?」
「う、ううん、なんでもない」
由紀夫にぺこんと頭を下げて、彼女はまこちゃんと歩き出した。

由紀夫はその子達の校章をしっかり見ていた。
間違いなくあの女の子だろうと思う。
返してやらなきゃなと由紀夫は考えていた。

<つづく>

さぁ、無事にプレゼントは女の子の手元に戻るのか!そら戻るんちゃうん(笑)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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