天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第13話プロローグ編『クリスマスプレゼントを届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「早坂家の新しい弟と言えない事もないまこちゃんと、まこちゃんのガールフレンド久美子ちゃんと、ディズニーランドで楽しい休日を過ごした由紀夫と正広。時はもう12月。師も走るといわれるこの時期に、年間最大イベントの一つ、クリスマスがあった!」

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今日の由紀夫(?)のお仕事

その1. 届け物「ペン立て」 届け先「溝口正広」

クリスマスって言ったら、こんなにウキウキするのは、何でなのかなぁ。フード付きの紺色のダッフルコートを着込んで、サイズがイマイチあってないせいか、体をその中で泳がせるような雰囲気で、正広は走っていた。
走らない方がいいのは解っているけど、これは運動、運動、と自分に言い聞かせる。
街中が、これでもかと言うほどイルミネーションで飾られる。赤とグリーンのクリスマスカラーに、流れて来るクリスマスソング。
「こうまでされちゃ、盛り上がらない方がおかしいよなぁー」
目的地目指して、一直線に走りながら正広は呟いた。

正広のクリスマスの思い出は、幼稚園にまで溯る。幼稚園では、お決まりのクリスマス会なんかがあって、サンタさんからプレゼントを貰った。小さい頃の正広は、今よりもずっと活発でアウトドアな子供だったから、大人しく座ってなきゃいけないクリスマス会はあんまり好きじゃあなかった。それでも、プレゼントとケーキが嬉しくないはずもなく、クリスマス=楽しいという図式は、正広の幼い記憶にも、きっぱりと刷り込まれている。
うちにも、クリスマスツリーが飾られて、ケーキがあって、次の朝にはサンタさんからのプレゼントがちゃんと枕元に置いてある。
兄ちゃんにも、1回だけ貰った事あるなぁ、と正広は思い出す。

由紀夫が小学6年で、正広が幼稚園の年長さんだった時だった。

「ねー、それ、なにぃー?」
子供は風の子を地で行っていた正広は、最近兄が一緒に外で遊んでくれない事が不満で、背中を丸めるようにしてる兄の手元に顔を出す。
「バッカ!あっぶないだろーっ!?」
「な、なにぃ?」
急に大声で怒鳴られて、正広ビクっと体を竦める。
「彫刻刀使ってんだから、側よんな」
「ちょーこくとー…。それ、ねぇ、なにぃ?」
「なんでもいいだろ、ひろには関係ないのっ」
「やだ、ねー、みせて、みせてー」
「危ないって言ってるのに!こら、ひろ!」
これ以上抵抗すると、未だ動物とあまり変わらないワガママな弟が何をしでかすか解らないと、現在は由紀夫の武弘は、しぶしぶ手の中の品物を正広に渡した。
「うわー…」
小さな両手でそれを受け取った正広は、感心したようにため息をつく。
「きれー、にーちゃんがつくったの?」
それは、木の板を張り合わせて工作の時間にクラス中で作ったペン立てだった。張り合わせる前に、その板に彫刻をして、でき上がったものを小学校のクリスマス会でプレゼント交換に使うことになっているものなのだが、武弘は、張り合わせた後も、ちょこちょこと手直しを入れていた。
「そうに決まってるだろ?ほら、返せよ」
細い彫刻刀で、小さな模様を入れる姿を、正広はじーっと見ていた。小さな削りかすが武弘の膝に落ちて、その削りかすすらが、綺麗な形になっている事に目を輝かす。

それを拾おうと、そっと膝に触れた正広は、危ない!ともう一度武弘に怒鳴られ首をすくめる。
「だって、だって…」
「危ないの!怪我するから、これ持ってる時は側によんな!」
これ!と彫刻刀を見せられて、一瞬、しゅんとなった正広は、突然顔を上げた。
「これ!これにする!」
「何が!」
「クリスマスプレゼント!これがいい!」
小さな手を伸ばしてくる弟の手から、武弘は必死になって守った。

その頃、武弘は、正広の事があまり好きではなかった。
実子で、年取ってからの子で、可愛らしくて、素直で、元気で、およそ親から愛される要素ばかりの正広の事が、あまり好きではなかった。
正広は、欲しいものを手に入れる事になれていて、今だって、絶対に手に入れられると思ってるはずだと思った武弘は、少し意地悪な気持ちになる。
「クリスマスプレゼントは、1つしかもらえないよ」
「ひとつ?」
「ひろ、グローブもらうって言ってなかったっけ」
にこっと笑って言うと、正広の目が真ん丸になる。
「うん…、ぐろーぶぅ…」
野球が好きで、子供用のグローブが欲しい、欲しいと正広は言っていた。母親から、じゃあサンタさんにお願いしてあげるわね、と言われた!と満面の笑顔で報告に来たのは、つい一昨日の事。
「せっかくお母さんがサンタさんにお願いしてくれたのになぁー」
声を潜めて、武弘は正広の耳元で囁いた。
「お願いは、一人一回しかできないんだって知ってた?」
「ひとり、いっかい…?」
「そうだよ。だから、もう、お母さんはお願いできないの」
「じゃあ…、どしたら、いいのぉ?」
「お母さんに、グローブは取り消してもらって、今度はひろがこっそりお願いしなきゃいけない」
目を真ん丸くしたまんま、じっと自分の話を聞いている正広に、武弘はそう言った。
『こっそり』というのがポイントだった。まさか、あれだけ欲しがっていたグローブを諦めるとは思わないが、このペン立てが欲しいと、正広が一言でも養父母に言えば、『お兄ちゃんなんだから』の言葉一つで、取り上げられるのは目に見えている。
『お兄ちゃん』なんかじゃないのに。自分は養子で、一人だけここのうちの、溝口のうちの家族じゃないのに。
「絶対に、内緒でだよ?」
念を押せば、こっくりと正広がうなずく。そのまま、何かを考え始めて固まった正広を放って、残りの飾りを武弘は掘りだした。

「マーマァ」
次の日の朝。正広に取られる前に早く学校に避難させようとランドセルに8割方完成したペン立てを入れ、玄関から出ようとしていた時、正広の声が聞こえてきた。
「ひろね、ひろ、ぐろーぶ、いらない」
「えっ?」
「ぐろーぶいらないって、さんたさんに、いってね」
「ひろちゃん、いらないって…。じゃあ、何が欲しいの?」
母親の声に、背負おうとしていたランドセルをギュっと抱きしめた。このままでは、このペン立てを取られてしまうとそう思った時。
「ないしょ!」
元気な正広の声が聞こえてきた。
「内緒って…。でも、サンタさんに言わないと」
「ううん。ひろがいうの!」
パタパタっと玄関に出てきたひろは、ランドセルを抱いたままの武弘に、ないしょだよ、ね、と笑いかけた。

その夜、両親は正広から次に何が欲しいのか聞き出そうと、あの手この手を使ったが、正広はがんとして口を割ろうとしなかった。
ただ、武弘を見ては、ニコニコと笑うばかりで。
「武弘、あなた、正広が欲しがってるもの知ってるの?」
正広が眠った後で、養母から聞かれて、武弘は答えにつまった。
「武弘?」
「知らない…」
「そう?困ったわねぇ…」
幼稚園で聞いてみましょうか、と養父母が話しているのを聞きながら、武弘も居間を出た。
参ったなぁー…と思いながら廊下を歩いていると、小さな声がした。
正広が寝言でも言ってるのかと思って、ドアに耳を当てると、聞き取れないくらいの小さな声で、ずっと正広が何か言ってる。寝言にしては随分長い間喋ってるな、とそっとドアを開けると、もう寝てると思った正広は窓にくっついてぶつぶつ言っている。
ドアが開いた事にも気付かず、ずっと言っていた。
「サンタさん、おにーちゃんの、きれーなの、ください」

気付かれないようにドアを閉めて、武弘は本格的に頭を抱えた。
あのペン立ては、一応の完成を見て、学校のロッカーに入っている。クリスマスまでは後4日しかないし…。
だから、正広は嫌いだ。部屋に向かいながら武弘は思った。何だって自分の思う通りにしようとする…。

クリスマスイブを翌日に控えて、武弘はもう1度尋ねられた。
「ねぇ、正広が何欲しがってるか、聞いてみてくれないかしら」
「グローブ」
武弘は即答する。
「え?だって…」
「グローブが本当は欲しいんだよ」
養母は不思議そうな顔をして、それからうなずく。
「武弘が言うなら、そうなんでしょうねぇ…」
甘やかされてるほどに両親に愛されている正広なのに、どういう訳か一番なついているのは武弘だった。
「もうね、グローブは買ってあったのよ。子供用なんて、そう数がないだろうから」
「うん」
「じゃあ、これで大丈夫よね」
「うん」
「さすがお兄ちゃんだ!」
頭を撫でられて、そんな事が嬉しいと思えたのは、もっと小さい時だった。
そう、武弘は思ったのに、自然に笑っている自分に驚く。
「お兄ちゃんも、期待してて」
小学6年生にもなると、もちろんサンタクロースを信じたりはしない。武弘もこっそりと何が欲しいか養父母に聞かれていて、でも、なんでもいいとしか答えていない。家族でもないのに、クリスマスプレゼントなんて貰えないと思っていた。

随分ひねた子供だったよな、と、由紀夫になってからそう言った。
何であんなにひねてたんだろう、と思ってみれば、やっぱり原因は正広だったような気がする。
「だって、俺はさ」
いつか正広にも話したこともあった。
「俺は、自分が、おまえの家族じゃないってのが、すごくムカついたみたい」

その年のクリスマス。正広はずっと、ずっと、ペン立てをくださいと内緒でお願いし続けていた。
兄が、手の中で、大事に丁寧に作っていた、綺麗なあれが欲しいと。
いい子にもして、おもちゃの片付けも、一人で服着るのも、朝新聞取りに行くのも、ちゃんとやった。
だから、サンタさん、にいちゃんの、あのペンたてをください。

そして、夢はかない、25日の朝。枕元にペン立てを見つけて、正広は飛び起きた。その隣には綺麗にラッピングされてたグローブもあったのだが、とりあえずそっちが目に入らない。
「にーちゃん!にーちゃーん!」
部屋を飛び出すと、自分もグローブと、さらにラジコンまで貰ってしまい困惑していた武弘とぶつかる。
「にーちゃん、これ!これ、ありがと!」
「…サンタさんだろ…?」
「でも、にーちゃんのだもん。すごいすごい!すごいきれー!」
すべすべに磨きあげた木の板に、クリスマスらしいツリーや、プレゼントが彫りこまれている。
一つずつの模様を撫でながら、クリスマスツリー、おにんぎょー、と声をあげている正広を見ながら、結局自分も、大急ぎで学校のクリスマス会用にペン立てを作ってしまうほど甘いくせに、みんなが正広の言う事ばっかりきくから、ワガママになるんだって思っていた。

あの時のペン立てを、正広は大事に持っている。入院した時にも持っていったし、もちろん、今でも。でも、荷物の中に入れたままだった。
綺麗な模様と、「Masahiro Mizoguchi」の文字。幼稚園の時には解らなかったこの文字に気がついたのは、武弘が家を出てからだった。
兄ちゃん覚えてるかなぁ、これ…と思う。初めて由紀夫から貰ったクリスマスプレゼントを、出窓のところにおいて、正広は部屋を出た。
タイムリミットは、12月24日の、夕方6時。それまでにいかなくちゃあいけない。
余裕のはずだった。
正広が家を出たのは、午後1時。それでも、気がせいて、正広は走り続ける。

楽しいクリスマス。
楽しいクリスマスに、なるはずだった。

<つづく>

とゆーわけで、この後、2週間に渡って、なんの予定もないクリスマスイブまで、これをひっぱります。ひっぱるんです!ひっぱるんでぇーす!!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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