天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第13話前編『クリスマスプレゼントを届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「人それぞれに想い出のあるクリスマス。正広にも小さい頃のクリスマスの思い出あった。そんな事を考えながら、クリスマスプレゼントを買うために走っていた」

yukio

そのブーツを見つけたのは、夏の事だった。千明と一緒に買い物に行っていて、千明の友達の店だと連れていかれた古着屋に、そのブーツはあった。店の奥に、さりげなくディスプレイされてるブーツは、なんだかえらく存在感があって、正広はそのブーツの前から離れられなくなった。
「レッドウィングとかじゃないよぉー?」
千明に言われて、ようやく正広はブーツから意識を引き剥がす。
「この人の友達がぁ、作ったのー」
一見、熊のような、大きな男の人が店長で、千明の友達で、「この人」
「えっ?」
ぼんやりしていた正広は、驚いてその人を見た。
「これ、手作りなんですか?」
そう、とうなずかれ、うわあと正広の目が真ん丸くなる。
「これ、お幾らなんですか?」
「ひろちゃん?」
「いや、これは売り物じゃあ」
「えぇー?」
「ひろちゃん、こんなの欲しいのぉー?」
不思議そうに千明に言われて、正広はうなずいた。

絶対、由紀夫に似合うと思ったんだった。一目見た時から、この一見レッドウィング風のブーツが。
自分はバイトも始めたばっかりで、まだお金を持っていないけど、11月の由紀夫の誕生日までにはもうちょっと貯められるし、と思って聞いてみたんだったが。
「でも、売り物じゃ、ないんです、か…?」
「そうだなぁ、これ、うちの店のお守りみたいなもんだから」
だから、悪いな、とその人、須賀野は言った。

手作りの、温かい色のブーツは、ホっとする空気を周囲に与えて、店の雰囲気が柔らかくなる。
手作りで、友達が作ってくれたもので、大事なものなんだと正広は一応納得した。

納得はしたが、諦めもしなかった。

この店にだって、よく似合う。よく似合うけれど、自分の兄にだって、負けないくらい絶対に似合う!
の、信念の元、何度も何度も通って、友達になって、お願いして、ようやく須賀野が折れてくれたのは、どうにか由紀夫の誕生日に間に合う、11月になった頃。
「まー、ひろちゃんは、そんな顔してガンコだねぇ」
「そんな顔って、どんな顔ですかぁ」
「可愛い顔して、って事。あーあ、これ、どっか行っちゃうのか」
「え?」
ディスプレイされてる場所は、高い天井の店の中でも、結構高い位置。それでも、ホコリがついてるところなんて見た事ないくらい、須賀野はそのブーツを大事にしていた。
「ウソ、須賀野さん、いいの?」
「だって、しょうがないだろ?渡さないって言ったら、ひろちゃんしょっちゅう来て営業妨害するし」
「ひでー!売上に貢献してんでしょー?」
須賀野は笑いながら冗談だと手を振る。
「あれ、作ったヤツ、今ニューヨークにいて、別に本職でもなんでもないんだ。ただのサラリーマンで」
「え」
「そいつに、また作ってくんないかって言ったら、いいけど、取りに来いって。送るの面倒くさいって」
「え、じゃ、ニューヨーク行かなきゃいけない、の…?」
いくらなんでもニューヨークまでは取りに行けないと思った正広が呆然と聞くと、須賀野はまた笑う。
「いや、それはいいんだ。俺、毎年年末年始を向こうで過ごすから」
「かっけー…」
「いやいや、もっと誉めて?」
自慢気に胸をはった須賀野は、仕入れなんだけどねと言った。
「ブーツもすぐにはできないし、俺も年末まで取りに行けない。だから、今じゃなくて、クリスマスでよかったら、あのブーツ、譲ってもいいよ」
「うん!」

で、つきましては、と、電卓で思い入れや、手作りや、そんなものからすれば安すぎるんじゃあ?と正広が思うほどの値段が提示された。
それでも、正広自身の財政状態からいけば結構な値段で、クリスマスまで時間が延びたのは帰って助かるという感じ。
「別にプレゼントしてもいいんだけど、ひろちゃん、イヤかなと思って」
「はい。いただく訳にはいきません」
きっぱりと正広は答える。ただでさえ、好意で譲ってもらっているし、これは、由紀夫にプレゼントするものだから、貰ったりする訳にはいかない。
「24日の夕方まで仕事やって、夜の便で出るから、24日まではここにあって欲しいんだ。それで、店を6時に出るから、それまでに取りに来てくれる?」
「はーいっ!」

そして、12月24日。
正広は銀行に向かっていた。
アルバイトの身分でも、腰越人材派遣センターのバイト代は銀行振込になっている。
ここでお金を下ろして、ちょっと早めに店に入って、色々聞きたかった。病院に長くいたせいなのか、元々のセンスなのか、正広はイマイチ、服や、色、小物のコーディネイトが苦手だった。
ごくごく普通か、おっそろしく突拍子もないか、のどっちかになってしまうのが関の山。
だから、あのブーツに似合う小物とか、シャツとか、そういうのを教えてもらって。由紀夫によさそうなのがあったら、それもプレゼントしよっかなー。
そんで、6時には店がしまるから、それからうちに帰って、あ、ケーキ買おう。兄ちゃん、あんまり甘いの好きじゃないから、小さいの、かぁ、フルーツとかのがいいかな。そーいや、昔って、アイスクリームのケーキってあったよな。あれって今もあんのかなぁ…。

クリスマスイブの街を、てってて走りながら、正広はあれこれ、あれこれ、考えてた。思わず、銀行の前を行きすぎてしまいそうになって、そんな自分に大受けしながらキャッシュコーナーに飛び込む。
「えーと…」
ウキウキ気分でキャッシュディスペンサーを操作して、ついでに通帳記入もする。
結構貯まってたんだなぁ、としみじみ思いながら、正広は入ってきた道路に面したドアから出ずに、銀行の中に足を踏み入れた。銀行の中を突っ切る方が、須賀野の店には近い、というそれだけの理由だった。

その瞬間、えらく静かだなと思う。
そう大きな音量だとは思えないBGMが、随分と響いて聞こえた。
ん?と銀行内を見渡すと、客の姿がない。小さな支店だし、昼間だからかなぁ、と思った時、いきなり後ろから肩をつかまれた。
「えっ?」
振り帰ろうとした正広は、目の前に大型のナイフがかざされるのを見て、ギョっと凍りつく。

「早くしろ!!」
背中から大きな声。
銀行で、ナイフで、早くしろ?
これって、これって…、銀行強盗!?
「こいつがどうなってもいいのか!」
『こいつ』って、俺ぇ?
じゃあ、俺、人質―っ!?

「お、落ち着いてください」
カウンターの中から、責任者のような中年の男の人が、声をかける。
「うるさい!」
耳の近くで大声を出され、正広が体をすくめさせる。
「お金はお渡ししますから、お客様を離して…」
「いいから、金を出せ!」
いいから、金を出せって…、そんなアバウトな…、と正広が思った時、銀行の外でサイレンの音が聞こえた。
「シャ、シャッター!閉めろ!」
後から考えれば、それは救急車のサイレンだったのだが、銀行強盗は銀行強盗で、別に落ち着いている訳ではなく、そう怒鳴った。
さらに、銀行員にしたって、落ち着いている訳ではなく、スイッチの近くにいた女性行員が、慌ててシャッターを下ろす。
正広は、背中に、その音を絶望の音として聞いた。

金を取ってすぐ逃げるのであればよかった。
でも、営業中の銀行のシャッターがいきなり閉まれば、誰だって不審に思う。銀行の防犯システムを考えても、1分でも、1秒でも、銀行に長くとどまればとどまるほど、犯人には不利になるって考えないんだろうか。

そして、案の定。
事態は、硬直方向に向かっていった。
強盗は正広の喉元にナイフを当てたまま、金を出せの一点張り。銀行側は、渡すから、先に正広を離せの一点張り。
緊張が通りすぎて、正広は小さくため息をついた。
きっと、外には警察も来てるだろうと思う。
もう、2時間もこんな事してる。3時を回って、タイムリミットはどんどん近づいて来ていた。

「あの…」
小さな、小さな声で正広は言った。
「急ぎましょう…」
「あぁ?」
さすがに振り向いて顔を見る度胸はなく、うつむいたままの正広は言葉を続ける。
「時間がかかればかかるほど、きっと、失敗します」
もう、ほとんど成功はおぼつかないと思う、ということは口にはしない。
「俺、逃げたりしませんから、だから、とにかく、お金、取りましょ」
「な…、何言ってんだ、おまえ…」
「だって、急がないと…!」
ブーツが手に入らなくなる!!!

どう考えても準備の足りなさそうな銀行強盗のために、正広は一生懸命考えた。
「…いくら、いるんですか…?」
「え…。382万…」
その具体的な数字にも、内心頭を抱える。
「じゃ、じゃあ…。500万でいいじゃないですか…!」
「え、でも…」
「百万って、これくらいしかないんです。5百万だったら、多分、これくらい」
体の横に下ろしたままの指先で正広は厚みを示す。
「おまえ、百万とか、見たことあんのか」
驚いたように言われ、ほのチャレです、と言い返す。
「5百万くらいだったら、ポケットにつっこんででも走って逃げられます。どうせ逃走車なんか、用意してないんでしょ?」
黙られて、やっぱりそうか、と正広は思う。

借金かなんかで、発作的にやったんだったら、落ち着かせて、とにかく、必要な額だけ渡せば、どうにかなるはず。
由紀夫や、奈緒美が、やたらと説得力があったり、口がうまかったりするのを身近で聞いている正広は、どうにかそれを思い出しながら喋った。

「とにかく、急がないと。もし、警察とか来ちゃったら、やばいです」
もうとっくに来てるだろうな、と思いながら、それでも、真剣な声で正広は言った。何度も繰り返して、急がないとと言ううちに、どうしていいか解らなくなっていた銀行強盗は、出口を教えられたような気持ちになったのか、徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「そ、そうだよ、なぁ…」
「そうですよ。だって、1億とかいっちゃったら、持って走れないですよ、絶対。バックとか持ってないじゃないですか」
「ここのバッグに詰めさせようかって…」
「発信機とかつけられちゃったらまずいじゃないですかぁー…」
「そ、そうか、な。そういうの、あるかなぁ」
「ありますよ。銀行ですよ?」
何が銀行かは、正広にも解っていなかったが、嘘でも断言すれば本当っぽく見えるというのは、奈緒美から学んでいる。
「俺、そっち見てないから解りませんけど、顔、隠してるでしょ?」
「う、うん…、サングラスと、一応、マスクと…」
「だったら、ポケットにいれられるだけ盗って、人込みにまぎれちゃって、上着脱いじゃったら見分けつかなくなりますよ。余分なもの、持たないのが一番ですって」
ほら、早く、早く、とダメ押しで急がせようとした時、正広たちが立っていた窓の向こうが光った。そこは、シャッターではなく、格子入りの窓と、カーテンになっていて、かなり油断していた銀行強盗が、そのカーテンを開けると。

「ゲ」
「嘘」
外は大騒ぎになっていた。
光ったのは、新聞社らしいカメラのフラッシュ。パトカーに、テレビ局の中継車に野次馬に。レポーターらしき人が、身振り手振りもオーバーに喋っているのが見えた。

「も、もう、ダメだ…」
低い声。
「もうかためられてる!」
あまりの事に、カーテンに手をかけたまま、銀行強盗は硬直する。
カメラが向けられてる事にようやく気付き、カーテンを閉めた時には、彼はすっかり混乱しきっていた。
「と、逃走車を用意、させて、それで、逃げて…、お、おまえは、いざって時の人質だからな!」
「うっそぉ!」
だって、だって、もう4時!後2時間しかないのに!

そして、正広は急速に背中を駆け上ってくる、もう一つのイヤな予感を感じていた。
真昼の銀行強盗に、マスコミが飛びつかないはずがない。
今の映像は、間違いなくセンセーショナルなニュースとして、夕方の番組を差し替えてでも、流される…。
それを見ていないほど、腰越人材派遣センターの面々は、物見低くは決してない!
それって、俺だって解るくらいだろうか。
解ったら、もし解ったら…!

兄ちゃーん!!!頼むから、無茶しないでーっ!!奈緒美さんも、野長瀬さんも、田村さんも、星川さんも、千明ちゃんも、典子ちゃんも、菊江ちゃんも、頼むから俺だって気付かないでーっ!!

しかし、その希望は天に届く間もなく裏切られた。

<つづく>

とゆーわけで、この続きは、なんの予定もない、テレビの予定以外は何もない、クリスマスイブ!あたしって、ある意味、自己完結してる、幸せな人間よな(強がってる?あたし、強がってる??でも、楽しいもん!)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

What's newへ

Gift番外編1話前編に

Gift番外編1話後編に

Gift番外編2話に

Gift番外編3話前編に

Gift番外編3話後編に

Gift番外編4話前編に

Gift番外編4話後編に

Gift番外編5話に

Gift番外編6話に

Gift番外編・番外編前編に

Gift番外編・番外編後編に

Gift番外編7話に

Gift番外編8話に

Gift番外編9話に

Giftスペシャル番外未来編に

Gift番外編もしかしたら前編に

Gift番外編もしかしたら後編に

Gift番外編10話に

Gift番外編11話に

Gift番外編12話プロローグ編に

Gift番外編12話前編に

Gift番外編12話後編に

Gift番外編13話プロローグ編に

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ