甦る9月
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| | 大通りは大木のケヤキ並木で
| | 葉が生い茂り夏でも涼しい
| | 空から見下ろすと
| | (鳥の目になって)
| | この街は森のようだ
| | 森からたくさんのビルが突き出ている
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| | ついきのうまでは
| | 夕方になると電線にムクドリが
| | 押し合いへし合い
| | 駅前の木には止まりきれずに
| | 枝を短く切られたので
| | 夜中までうるさく鳴き立てて
| | (鳥の目は夜見えないはずなのに)
| | ところがきょうはどこにもいない
| | ただ九月になっただけなのに
| | きのうがかき消されたように
| | 空は静まり返っている
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| | 人間の世界のすぐ頭の上に
| | 鳥の世界はあって
| | 囀ったり巣を作ったり
| | 木の実をついばんだり糞を落としたり
| | 空を飛んだり地面を跳ねたり
| | 街には猟人がいないし
| | パチンコを撃つ子供もいないので
| | 空からいきなり落ちてくることもないのだ
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| | 牛乳工場から見る狼の森は
| | こんもり黒い針葉樹で
| | 狼の背中に似ているそうだ
| | 狼はいません と立て札にある
| | 昔は狼がいたはずだ
| | 狼の森に狼がいなくて
| | 狼の森というだろうか
| | 盗人森には盗人がいて
| | 笊森には笊があっただろう
| | 鳩サブレには鳩が
| | 鰻パイには鰻が
| | ひよこ饅頭にはひよこが
| | いただろう
| | 昔はいたはずだ
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| | 一人で泊まるビジネスホテルは
| | ちょうどいい狭さで
| | テレビもあるしビールも飲めるし
| | 足指マッサージは無料だし
| | 枕もシーツも風呂もきれいだし
| | ホテルを泊まり歩く人生
| | というのはどんなだろう
| | どうせ年取ってすっかり失くすのなら
| | (もう失くしてしまった)
| | 家族なんていらない
| | 人生はビジネスホテルで十分だ
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| | ビルの二階の美容院の大きなガラス窓の前で
| | 大きなエプロンから頭だけ出していると
| | 下の道の自販機でタバコを買う人が見える
| | 一人の女がタバコを買い
| | すぐに開けて一本に火をつける
| | 深く息を吸い込んで窓を見上げ
| | わたしと目が合った
| | その女はなぜかうれしげに手を振った
| | 見知らぬ女だ(と思う)
| | しかたなくわたしもエプロンから
| | やっとのことで手をひっぱり出して
| | それを振ったのだ
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| | 飼い犬の背中の皮が一部めくれていて
| | 毛皮の下から現れた白い皮膚の表面に
| | ぽっちり何か出来ている
| | 病院に行くと
| | 医者 腫瘍です 悪性ではありませんが
| | 取りますか
| | 老犬なので体力がもつかな
| | わたし それなら取りません
| | 良性の腫瘍を取って死んだんじゃ
| | 元も子もありません
| | 医者 じゃあクリームを塗っておいてください
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| | 温泉街の急坂を登ったり下ったり
| | バスは断崖絶壁を進み
| | ケア付リゾートマンションに停まった
| | 美しい空と海が
| | その女主人の部屋の窓を二分していた
| | 空に雲はたえまなく形を変え
| | 海は輝いて船や島を翳らせた
| | 飽きるのよ 空も海も 何もかも
| | 退屈なの どうしたらいいの
| | と彼女は訴えるのだった
| | 詩でもお書きになったらいかがでしょう
| | とセールスマンは答えた
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