「合算対象期間」さえ認められなかった3年間
このように日本国籍を持つものに対しては保険料を納付していない場合でも「保険料免除期間」として取り扱っている。これに対して在日外国人に対して
は同様に日本国内に居住し税金を負担していても年金の額には全く反映しない「合算対象期間」としてしか認めないのは均衡が保たれておらず「自国民待
遇」の原則からすれば不当なものだと考える。
しかも「合算対象期間」に算入するように国民年金法改正をしたのは、1982年(昭和57年)1月からで
はなく、4年以上遅れた1986年(昭和61年)4月からである。この4年強の間に年金の受給権を本来なら得られたであろう人には何の手だても打たれ
ていない。それののみならず、この3年間の間に「強制被保険者」とされた在日外国人の内既に中高年に達しており、当時の任意加入の限度である65歳ま
で保険料を納付しても老齢給付に結びつかない人の対しては、「任意脱退」の処理をしたケースもある。「合算対象期間」さえ入れようとしなかった当時の
制度によって恒久的に社会保険から閉め出してしまった。3年強の間有効な手だてを講じなかったのは、行政によるサボタージュではないだろうか。まして
「任意脱退」によって社会保険からの締め出しをしてしまったのは、行政による権利剥奪といえよう。
日本国籍を有するものとの均衡を考えるならば、居住
開始から1981年(昭和56年)12月までの期間は当然のこととして「保険料免除期間」に組み入れるべきであるし、希望するものには沖縄特例や中国
残留邦人への特例措置のように保険料の追納も認めるべきではないだろうか。
年金額の計算の基礎とならない「合算対象期間」
ここで「合算対象期間」と「保険料免除期間」についてふれてみる、現行の国民年金法では原則として受給資格期間として25年以上が必要である。「保
険料納付済期間」、「保険料免除期間」、「合算対象期間(カラ期間)」を合計した年数で25年以上あれば、老齢基礎年金の受給資格を満たすことにな
る。
「保険料免除期間」は、原則的には障害者や低所得者等の保険料を納付することが困難な人に対して適用される制度であり、法定免除と申請免除の場合
がある。年金額の計算にあたって現行の基礎年金の給付への国庫負担割合が3分の1であることから、「保険料納付済期間」の3分の1の割合で計算され
る。
これに対して「合算対象期間」の期間は、受給権の資格期間を判断する場合には、計算に入れられるが、年金額の計算に関しては全く反映されない。ま
た「保険料免除期間」と異なり追納することにより将来の年金額を充実させる道も閉ざされている。「保険料滞納期間」の場合は期間の計算にも入れられな
いことと比べれば幾らかはましとはいえ年金額が著しく低くなることは否めない。税負担は自国民待遇で取り扱い、社会保険は自国民より劣悪な条件を放置
しておくという姿勢は正されるべきと考える。
積極的な宣伝もせず放置
また日本国政府は、日本国籍者の場合には、古くは「10年年金」「5年年金」の時、新しくは「沖縄特例」等を積極的に宣伝しているが、在日外国人に
「合算対象期間」が適用されることはほとんど宣伝されない。厚生年金保険法では以前から国籍条項がなかったため、厚生年金保険に加入していた在日外国
人がいた。厚生年金の受給権に結びついた人は、まだましだが被保険者期間が短くて保険料の納付はしたが、年金の受給に結びつかない人もいる。その様な
人達も場合によっては「合算対象期間」の期間を追加して厚生年金保険の受給権を得ることができる場合も生じてくる。「合算対象期間」では日本国籍者と
の均衡を逸するとはいえせめて積極的に知らせるのが政府の役割ではないだろうか。
年金額の試算
今年65歳になる1934年(昭和9年)5月2日生まれで1961年(昭和36年)4月1日以前から日本に居住していた国民年金の被保険者である在
日外国人が1982年(昭和57年)1月以来60歳になる1994年(平成6年)4月まで欠かさず保険料を納付してきたと想定して検討してみよう。
この場合、加入可能年数は33年(396月)であり、「保険料納付済期
間」は148月である。1999年(平成11年)価格で計算してみる。
804,200円×148月÷396月≒300,600円である。これは年額である。加入したくても国籍条項に阻ま
れて加入し得なかった248月を沖縄特例と同様に「みなし保険料免除期間」
とすれば約82カ月分が増額され約467,100円程度になる。明らかに日
本国籍を当然に取得するとされた沖縄在住者や中国在留邦人等への対応と比較
すると公平を欠いたものといえよう。注意して欲しいのはこのような外国人差
別を含んだ国民年金法の国籍条項を撤廃しながら、「合算対象期間」にしか組
み入れようとしない規定を設けたのが、最初の沖縄特例措置をとった後10年
以上経てから立法されたことである。「難民条約」第24条の「自国民待遇」
の原則に違反するのではないだろうか。