三文書掲載について

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国民年金法と外国人問題 ] 公的年金の外国人差別 ] 年金法の国籍条項と立法裁量 ] [ 三文書掲載について ] 清水さんの原稿を掲載するにあたって ]

 

 

 

社会保険労務士  清水直樹 

 

李怜香さんのHP Opinion の最初の「国民年金法と外国人問題」 これは、文中に1997年(平成9年)1月8日付けの日経の記事を引用しています。 読んだ日にそれまでに漠然と考えていたことを、1日で書いてしまいました。 総合雑誌に掲載されるよう行動しましたが、関連諸法との関係、憲法問題への掘り下げ 等を求められ私の能力では書けず、そのままになっていました。

ある日のことです。無年金のまま22年間を過ごされた84歳の方の年金相談事例に出会いました。直接に私が相談を受けたのではありません。社会保険労務士仲間が受けた相談でした。二人で内容を検討してみました。結論は「年金の受給権が認められなければならない。」ということでした。年金を受ける権利自体を「基本権」といいます。この基本権は、比較的容易に認められました。しかし、遡って支払われるのは5年間分だ けです。 22年に及ぶ無年金の状態にあった不利益を受給権者個人のみに帰せられるのは公平を欠くのではないか。こんな思いで仲間の社会保険労務士と共に、22年遡って年金を支給するように求めました。 社会保険や労働保険には「審査請求制度」というものがあります。この制度に基づいて 「不服申し立て」を行ったのです。その結果、私たちの主張が認められました。 この事件に取り組み始めた頃は、社会保険労務士には審査請求の代理権がありませんで したので「知人」ということで審査請求に取り組みました。これは不当なことではあり ません。業として行わなければ問題はありません。現在は社会保険労務士の資格で審査 請求の代理権が認められるようになりました。

事件の取組の結果はこの4月に新聞各紙に報道されました。厚生省と私の双方に取材し た毎日新聞の記事はこちらで読めます。

上記に報道された事案に出会ったのは、1997年(平成9年)の6月です。 ですから、この事件と上記の「国民年金と外国人問題」とは全く関係ありませんでした 。私の頭の中でも結びつきはありませんでした。けれども対外国人に限らず、差別へのこだわりが頭のどこかにありました。 事案に取り組みはじめて通算年金通則法を勉強しました。1997年(平成9年)の夏頃からです。 1998年(平成10年)のはじめ頃だったと思います。別のことで厚生省の年金局に 調べに行ったとき、通算年金通則法についても質問してみました。その後電車に乗りなが ら、突然に頭に浮かんだのです。厚生年金保険法に国籍条項はないけれども昭和36年 4月の国民年金法(拠出制)、通算年金通則法の施行で、実質的に厚生年金保険法、船員保険法に国籍条項が持ち込まれたのではないか、と。 そして昭和60年法改正による昭和61年改正まで差別は続いていたし、事後的救済は 中国在留邦人等の場合と異なり全くされていないのではないだろうか。これは国籍による不当な差別ではなかろうかと考えたのです。このときに、取り組んでいた無年金者の 事件と最初に書いた「国民年金と外国人問題」の問題意識が結びついたのです。 最初の文書でも書いていますが、私なりに考えが深まったと感じたのです。 でも、誰もこんなこと書いているのを読んだことがありませんでした。探したけど見つかりません。李怜香さんのHPをお借りするとき 李さんにもメールで聞いたが、李さんもはじめて聞く議論と言われました。

そんな訳で書いたのが2番目の「公的年金の外国人差別」。 報道された事件に関わるなかで私の内心の目標が増えてしまいました。もちろん請求人 の実際の利益に結びつくように努力しました。しかし、それに止まらず容認、棄却に係 わらず社会保険審査会の裁決の中に、如何にに請求人側の主張を盛り込むか、というこ とも考え始めたのです。

事件の範囲を超えて、社会保険審査会裁決でも地裁判決でも、とにかく22年前の脱退手当金支給処分の取消を上級審査機関または裁判所で追認させる、こんなことを考えたのです。(脱退手当金の取消がなければ、「基本権」も認められず、無年金の状態は変 わりません。)弁護士を探し棄却された場合の地裁提訴などを真剣に考え始めました。

さて、平成9年頃から日本ドイツ年金協定の話がありました。これも当初は全く上記の 問題意識と関わりはありませんでした。私が学生時代、ドイツ系の企業に2年ほどお世 話になっていたという極めて私的な興味から考え始めたのです。1998年(平成10 年)の5月、再審査請求書を提出する前のことだったと思います。厚生省の年金局でとぼけたことを聞きました。「厚生年金に統合するのか、国民年金に統合するのか?」  実のある回答はありませんでした。どんな回答を得たか全く忘れています。 が、厚生省からの帰り、地下鉄:丸の内線の霞ヶ関−池袋間で頭に浮かんだのです。 それが第3の文書「年金法の国籍条項と立法裁量」の考え方です。

国民年金法の国籍条項

旧厚生年金保険法

通算年金通則法

公的年金の一元化 

社会保険に関する国際条約 

多国間年金協定

一見関係ないことが結びついてしまった。しかし、最初のもの以外文章にはしていませ んでした。 李さんが私が加わっている社会保険労務士のMLの参加した時から、気になっていまし た。 李さんの気になる発言をきっかけとして、つい半月ほど前の8月末に 李さんへDMを 送ったのです。まだ一度も直接お目にかかったことはないけど「李さん−清水共同」の きっかけが出来ました。

私の好きな著者に進化論の世界的大御所スティーヴン・J・グールドという人がいます 。「八匹の子豚−主の絶滅と進化をめぐる省察」(上・下)早川書房 という本の中で 「瑣末な事例や出来事から説き起こして一般的な大問題に説き至るというやり方、一見 無関係な物事を奇抜な方法で結びつけるというやり方に従っている。」(上・P13) と書いています。 審査請求の事案も、差別の問題も決して瑣末なことではない。が、どこかでグールドの 考え方に共鳴しています。私のとって初めは全く無関係だったことが結びついたのも偶 然ではないかも知れません。

グールドには、「フルハウス−4割打者の絶滅と進化の逆説」(早川書房)という本も ある。現代進化論の専門家らしい統計学への深い、なじみやすい内容が書かれている。 知的障害を持つお子さんへの暖かいまなざし、才能への信頼が込められている。

また「増補改訂版:人間のはかりまちがい−差別の科学史」(河出書房新社)という著 書があります。冷静沈着な科学的論理の中に人種差別や性による差別などに抗議するヒ ューマンな感性が貫かれています。

私は、グールド先生の大ファンです。是非読んで下さい。

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