公的年金の外国人差別

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国民年金法と外国人問題 ] [ 公的年金の外国人差別 ] 年金法の国籍条項と立法裁量 ] 三文書掲載について ] 清水さんの原稿を掲載するにあたって ]

 

 

社会保険労務士  清水直樹 

 

「国民年金法と外国人問題」では、国民年金(新法・旧法)の範囲内での外国人 差別を検討してみた。しかし、公的年金は国民年金だけではない。国民年金 (拠出制)の制度発足前に既に、民間の労働者を被保険者とする厚生年金保 険、船員保険が既に存在した。これらには国籍要件はない。両年金制度とも制 度発足時には、在日朝鮮人・韓国人とも「大日本帝国臣民」であった。既に厚 生年金保険・船員保険の被保険者であった者を「講和条約国籍離脱者」として 一方的に日本国籍を奪い、「日本国民」との間に差別を持ち込んだ。しかし、 過去に保険料を負担してきた年金制度において被保険者資格を奪うことはでき なかったのであろう。これで公平は確保できたであろうか。以下便宜的に厚生 年金保険に関して論じてみる。

 

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通算年金通則法と差別の法制化

国民年金法(拠出制)の発足(昭和36年4月)と同時に「通算年金通則法」 が施行された。これによって「<国民>皆年金」が実現されたと言われてい る。単に自営業者等を被保険者とした公的年金制度が誕生したことだけを意味 するのではない。 通算年金通則法が出きる前は、厚生年金保険で年金の受給権を得るためには原 則として20年(中高齢:男子40歳以降、女子35歳以降15年)の被保険 者期間がなければ、年金の受給権を得ることはできなかった。この点は日本国 籍者と外国人との間に差別はなかった。

 

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通算年金通則法と年金受給権

通算年金通則法の施行により、厚生年金保険の加入期間が短く年金の受給権を 得られない人も国民年金に加入すれば、厚生年金と国民年金とを合わせて25 年以上の被保険者期間があれば1年以上の厚生年金保険被保険者期間は年金に 結びつくことができる様になった。それまでの受給資格期間を満たしえない場 合、「脱退手当金」として一時金を受ける以外に選択肢がなかったことと比べ れば大きな前進といえよう。 しかし在日外国人(当時は主として朝鮮人・韓国人である。)の場合は、どう であろうか。厚生年金保険の被保険者期間と通算する国民年金への加入が拒ま れていた。従って年金の受給権を得るためには厚生年金保険のみで受給資格期 間を満たさなければならない事態は全く変わらなかったと言えよう。厚生年金 保険の受給資格をえる前に厚生年金保険の被保険者でなくなった場合、日本国 籍者は国民年金の保険料納付で年金を受給できる道があるのに対し、在日外国 人に対してはその道を閉ざしたのである。在日外国人が年金の受給権を得たい のであれば、サラリーマン(厚生年金被保険者)として受給権を得るまで加入 し続けなければならない。

 

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年金受給権差別の法制化と職業選択の自由

通算年金通則法の施行によって日本国籍者と在日外国人の間に決定的な差別が 生み出されたといえる。年金の受給権を得るためには厚生年金被保険者=サラ リーマンをであり続けることを在日外国人に求めていると同様といえよう。憲 法第22条に「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択 の自由を有する」と規定されている。日本国籍者には当然のこととして意識さ れることは少ないであろう。私は、公的年金制度職業選択の自由に対して中 立的でなければならないと考える。しかし、繰り返しになるが、現実に昭和5 7年まで日本国籍者ならば自己責任で厚生年金保険への加入をやめた後も年金 受給権をえるために国民年金に加入できたのであるが、在日外国人には、その 道が閉ざされていたのである。厚生年金保険への加入をやめた後は、僅かな脱 退手当金の支給を受ける以外に保険料納付に基づく年金給付をえることはでき なかった。

 

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公的年金法の是正を

国民年金制度の創設、通算年金通則法の施行当時、民間労働者を被保険者とし た公的年金制度は、厚生年金と船員保険であった。これらには被保険者資格に 「国籍要件」はなかった。国民年金によってはじめて公的年金制度に国籍要件 が持ち込まれたのである。その結果として従来からある厚生年金保険・船員保 険の被保険者の間に差別が生じたといえよう。このことについて、立法者は自 覚していたはずである。「国民年金法と外国人問題」で書いたように韓国政府、 在日韓国人団体から国民年金の適用を要請されていた。それを拒んだのであ る。また、国民年金に国籍条項を持ち込むことによって、通算年金通則法の規 定により、通算対象期間と合わせて厚生年金保険等の年金給付の受給権を得る 道が在日外国人には開かれないことは自明のことといえよう。立法を企画した 者を含め日本政府はどのように説明するのだろうか。難民条約批准にともなっ て国籍条項は撤廃されたが過去の日本国籍者との差別に対し何ら是正もされて いない。 「国民年金法と外国人問題」で提起した問題と合わせて、現在の公的年金各法 の規定によれば年金受給権を得られながら、脱退手当金の支給を受け無年金に なっている在日外国人に対し、脱退手当金の支給を取消し年金の受給権を認め るべきではなかろうか。平成6年の法改正において障害給付に関して、過去に は受給要件を満たしていない為に受給権を得られなかった人に対して、昭和6 0年改正法の規定を満たしている場合は、障害年金の受給権を得られるよう。 同様に現在の規定によれば年金の受給権を得られたであろう被保険者であった 者を事後的にでも救済すべきではなかろうか。

 

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