第一部米国の言う「テロ」とは何か

目 次(アメリカ同時多発テロ事件を基調とした記事)
平和を訴えるメッセージ集 カトリック編 プロテスタント編
A米国に正義はあるか B米国に振り回される日本 C際限無く膨らむ米国の傘
テロリズムの定義 西岸制圧 「法の支配」の外で
グァンタナモの収容施 軍律法廷 安易な追随すべからず
テロリズムの定義

 テロとは何でテロリストとは誰なのか、実は米政権内でも統一見解が無い。
01年5月の国務省年次報告書でも、テロリズムの定義のどれ一つとして、遍く受
け入れられるものはなかった。過去に米国は中南米など社会主義政権国の反政府ゲ
リラを「自由の戦土」として支援したが、相手国からすれば自由の戦士は彼等にと
っての「テロリスト」ではなかったか?

 米国に有為な人間は自由の戦士と呼び為にならない者はテロリストと位置付けて
しまう。単純明快な論理だが、同時に大きな矛盾が生ずる。パレスチナを考えて見
れば、イスラムにとってのパレスチナ自立の行動は正戰で、イスラエルが為す軍事
行動は「テロ」となる。米国・イスラエルとパレスチナでは、テロか大義かは見方
の相違するものだ。公正な目が必要と成る。

対テロ捜査余聞

 パキスタンで逮捕されたアルカイダ幹部が、FBIの取り調べで映画「ゴジラ」
を話題にした為に、ニューヨークの自由の女神やブルックリン橋が證的にされる
可能性ありとの事で、当局が心配している。「映画中に出る橋を攻撃するかもし
れない」「水の中の像が標的」と語ったという。何処まで本気かは不明。
西岸制圧

 イスラエルは数次に渡ってヨルダン川西岸を占拠・制圧しているが、占拠が長期
化すればパレスチナ住民の生活がさらに困窮、住民の絶望が新たなテロにつながる
のは必然である。各地での外出禁止令では、「封鎖によって、住民は家に閉じこめ
られて何も出来ず、久し振りに外出すれば市内のいたるところで建物が破壊されて
いた」と住民は嘆く。

 自治政府は「スラエル軍は西岸の再占領を狙っていると考えて居て、住民には忍耐
と団結を訴える。自治政府の行政機能は、度重なるイスラエルの軍事行動で大きく
麻痺している。対するにイスラエルは次の様に公言する。「我々がパレスチナ人の
生活の面倒を見る必要はない。ロシアやEU(欧州連合)、米国やエジプトなどが援
助すれば良い。我々はパレスチナ地区を支配してテロリストをー掃するだけだ。」

 常識的な発言者は「イスラエルは人道援助団体がパレスチナで自由に活動するこ
とを認めるべきだ。そうすればパレスチナ住民の絶望も、自爆テロの動機も減るだ
ろう」と語る。当然過ぎる見解だろう。
「法の支配」の外で

 国際紛争で捕虜となった者の処遇はジュネーブ条約で明確に規定されており、軍
隊構成員や民兵たちは「戦争捕虜」としてー定の権利や処遇が認められる。捕虜で
ないならば民間人としての権利を保証しなけれはならないのに、ブッシュ米政権は
1.タリバーン兵士は戦争法規に従っていないので、ジュネーブ条約での捕虜とし
ては条件を満たさない。
2.アルカイダは国際テロ集団と云う「不法戦闘員」なので条約は適用されない。
等と主張して捕虜の資格をー切認めていない。

 ジュネーブ条約では捕虜の資格に疑義がある場合は然るべき法廷で審査して、決
定か出るまでは捕虜として扱わねば成らない。それなのに米国はそうした規定を顧
みず、捕虜の身元も拘束理由も明らかにしない侭、既に半年近くも拘束している。
米国籍と判明した者だけが別扱いで米国に移された。

 他の兵士達の移送先であるグアンタナモ基地での虐待振りは既に知られ、「ジュ
ネーブ条約だけでなく、国際人権規約や拷問禁止条約などにも違反する」と人権団
体から懸念が表明されている。米国はテロリストたちを軍事特別法廷で裁くと言い、
ブッシュは公平な裁きを約束している。しかし、特別法廷のメンバーは国防長官が
任命するものだし、実際には判事と検察官がー体になった様な法廷である。

 裁くには機密情報に頼ることも必要になるだろうし、一般犯罪追及の様に全てを
公開することは難しいだろう。しかし、拘束から取り調べ、裁判までの全てが米国
主導で「法の正義の外」で進められている。

 朝日新聞は言う。今回は同時多発テロに対する「自衛権の正当な行使」から始ま
ったのに、何時の間にか「テロとの戦いにはあらゆる手段が必要」「テロ容疑者に
人権の配慮は不要」といった極論に走っている。テロに対する怒りや恐怖から「法
の支配」を忘れて対応する。国際的なルールにはご都合主義の解釈を押し通す。
そんな「アメリカの正義」は、あまりに皮肉で悲しい「テロ後の世界」の現実であ
る。これは正論だ。
グァンタナモの収容施設

 捕虜たちは当初、コンクリート床と金網に囲まれた鉄板屋根の鳥小屋の樣な檻に
収容された。現在では基地の外れの真新しい「キャンプ・デルタ」へ384名が移
送された。鉄板屋根の長屋構造で可也の暑さが予想されるが、一帯は荒れ地で、6
月には気温35度、湿度99%に達し、キューバでも特に雨の少ない地帯だ。

 捕虜たちはスポンジ のベッドをあてがわれ朝食はオートミール、昼は野菜シチュ
ー、夕食は赤豆とライスを摂るそうだ。運動は週に2回、家族に手紙も出せると米
側は強調するものの、冷房は無くシャワー は週に1度だけ。
軍律法廷

 1942年に問題となった、ドーリットル陸軍中佐率いる無差別本土爆撃隊への
訴追では、日本側の軍律法廷で被告の米兵全員が死刑となった。米国による後の横
浜でのBC級戦犯法廷では、ドーリットル裁判に関わった日本側の検察官、伊藤信
男法務少佐が絞首刑の判決を受け、後に終身刑に減刑されている。

 米側は軍律法廷自体は違法としなかったものの、被告人に対する人権保障手続を
欠くと云う事を戦犯訴追の根拠とした。成るほど、軍律法廷では被告人に弁護人は
付かないし、公開される事も無い。上訴も出来なかったのだが、軍律法廷は自軍の
安全を第一とするのであり、敵の人権保障を図るための組織ではない。通常の裁判
と同一視出来ないとの言い分が日本にはあった。明らかな無差別爆撃である東京大
空襲や原爆投下は勝者故に一度も裁かれず、裁判手続きにのみ拘ったのが米国の正
義であった。

 くどい様だがドーリットルと今回のテロとは違う。何時の時代にも自国本位で正
義や本質までも都合良く曲げてしまうのが、世界の警察官たる米国流と云う事だ。

A 米国に正義はあるかへ続く