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vol.10

<雨の木の下で 10>



詩の縦組み表示の試み(1999.2.25)  関 富士子


 rain tree vol.8・9にエッセイを掲載させていただいた藤富保男さんが、四国に住む息子さんのお宅を訪ねた折、パソコンで初めてウェブ上のrain treeを見てくださってメールも送ってくれた。昨年の暮れだったのだが、「よいお年をお取り過ぎください」とあったので笑った。彼は筆まめで有名だが、あとではがきをくれて、インターネットをのぞいてみた感想をこのように書いている。

「四国の「窓」器具からお宅に電流を送り、翌日、お返事をいただいたのを拝見しました。「紙」という感じがしないで、摩擦による光り文字みたいですね」
 なるほど、パソコンを「窓」器具、ウェブ上の文字を「摩擦による光り文字」というところ、いつもながら唸らせられる。ほんとうに、ブラウザで見る文字は、磨りガラスに引っかいて書いた光の文字のようである。

 パソコンを買って設定を済ませ、インターネットの接続に成功したとき、けっこうわくわくしたものだ。未知の領域がわたしに両手を広げていると思った。想像していたのはテレビのような画面で、絵や写真がきれいな色でどんどん現れるのだと思っていた。初めて見たのはネットスケープのHPだったか。ただ英文が並んでいるだけである。どこをどうやったら日本語が出てくるのかわからない。

 検索やアドレスの入力の仕方を覚えて、あちこちの詩のページを見られるようになった。始めに見たのはニフティの詩のフォーラムだったか。これが驚いた。画面はただただ文字でびっしりとうめつくされている。批評のページかなにかだったのだろうか。行間がないから一行をたどって読むのが難しい。目が上の行へはずれたり下の行をさまよったり。

 普通人は本を読むときどうするだろう。頭から一字一字を順にたどって読むのではない。ページを開いたとき、人は無意識のうちにページ全体の姿かたちを頭に入れるのである。
 文章は何行かが段落になっていて、それらをざっとまとめて把握して、そのまとまりごとに文脈を追っていくのだが、ウェブの文章は行間がないために、改行はしてあってもわかりにくい。文章のどこからどこまでがひとまとまりなのかつかめないのだ。

 しかもひとまわり小さいサイズの文字は文字の形を成していない。「中」ぐらいの大きさの「」が、ひとまわり小さくなると「」になってしまう。画数の多い文字は一部省略されてしまっている。これではとても文字とはいえない。こんなものをいったいだれがまともに読むのだろうか、とあきれた。

   詩なら改行があるし、なんといっても短いのがいいと期待して詩のページを開いてみた。たしかに改行はしてあったが、文章同様行間がない。詩に行間がないとは?! わたしはかつて「行間しか読まない読者へ」という詩の一行を書いたことがあるが・・・。ここでも形の崩れた小さい文字とも思えない文字が氾濫している。

 しかもさらに大問題。詩がどれもこれもすべて横組みで表示されているのである。これはとんでもないことになっている。普通の文章はまあ横組みでも許せる。行間さえあれば読めないことはないだろう。書くときも横書きのことが多いし。若い人にはほとんど抵抗がないのだろう。詩だって始めから横組みを意識して書いた詩、行間がないのを効果的に利用した詩なら、それはそれで十分楽しめるのである。(拙作「はっぱ」(長尾高弘Longtail清水鱗造個人詩誌Booby Trap25号へジャンプ)は横組み行間なしの詩の試み)

 四釜裕子さんのBook bar 4は横組み表示だが、詩人みずからウェブの特性を最大限に生かして、横組みの文字にぴったりな硬質の詩とイラストを同時に楽しめる、目を見張るようなサイトを作っている。ここは詩人のサイトとしては驚くべき12万のカウントある。

 従来の印刷物では、詩の横組みはほとんど見られなかった。あってもそれははじめからその効果を考えて書かれた詩である。理由もないのに横組みにすることはまずないといってよい。紙に書きつけるメモの段階はそれぞれだろうが、はじめから原稿をワープロで横書きする場合でも、最終的には縦組みで読まれることを意識して書いているのがほとんど。そのような詩をなんでもかでも横組みにしてしまうのは乱暴な話だ。ふつうの文章をただ機械的に横組みにするのとはわけが違うのである。

 しかし、こちらはウエブの世界の初心者。文句を言う前に、としかたなく、横組みで表示された詩を黙って読んでみた。慣れないせいもあるだろうが、これがどうもふつう紙で読むようには言葉がスムーズに頭に入ってこない。

 いったいなぜだろう
 普通の印刷物で、詩を読むとき、わたしたちはどうするだろう。
 まずページを開いて見開きの左右ページ全体を見渡す。詩集だと30行ぐらいのスペースだろうか。見開きで終わる短い詩だなとか、なんだか行がだらだら続く長い詩だな、とか、散文詩なら四角くごっちゃり文字が固まっているな、だとかを一瞬に感じ取る。

 行の下の空間のあきぐあい、連が短く切れているか長い連か、各行の字数が多いか少ないかまちまちか。さらに、あちこちに散在する言葉のたたずまいを見て取る。漢語が多いか、ひらがなが多いか、どんな言葉が目に付くか。そんなことでほぼその詩の全体の雰囲気や、場合によっては内容までわかるのだ。
 さらに、おもむろにタイトルを眺め、1ページめの数行を眺める。文字を読みはじめるのはそのあとである。読んでいる最中も目は前の行に行きつ戻りつ、確かめたしかめ言葉を味わうのである。

 ところがパソコンのモニターは横長だ。そこの画面の左側に、横組みで言葉がびっしり詰まって、ときほぐそうとしてもほどけない毛糸の古いマフラーみたいである。いくらでも下に続けられるから、一つ詩が終わったと思うと次の詩がずるずる現れる。ひとつの詩の全体の形を把握しにくいのである。
 

 ウェブのページにはスペースの制限がない。4ページ以内に収めないとあと1万円上乗せされる某同人誌とはわけが違う。それがウェブのいいところなのだ。だから詩はおのずから野放図に長く長くなるのだ。

 画面のスクロールは本のページをめくるような作業だが、あまり頻繁だと、始めのほうに何が書かれていたかわからなくなってしまう。スクロールなしにひとつの画面に収めたいのだが、それでは行数無制限というウェブの自由をみずから手放すことになる。できるだけスクロールを少なくして詩を読ませたいというのか、例の形を成さない小さいサイズの文字でびっしりと続くのである。

 さらに、詩というのは、言葉の凝縮度が一般の文章より高いのが普通なので、一行一行にある程度緊張感があり、表現が行ごとに完結しながら続く。行間があればこれがくっきり際立って見えやすいのだが、くっついているとそれがわかりにくい。

 詩が団子状態になって、読みほぐせないまま流れていく。数珠つなぎのことばは一語一語が際立たない。言葉の意味はさらに希薄になっていく。読み終えた後なにを読んだのだったか、ちょっとした印象でさえ残らないことがある。そもそも電源を切れば消えてしまうはかなく寄る辺ない言葉たち。たよりなげなウェブの光り文字が磨りガラスをかすかにきしませる。

 詩のホームページを開こうとhtml文書を作りはじめてようやく、ウェブでの縦組み表示はいまだ開発途上であることを知った。みんながみんな好きで行間のない文章を書いたり、詩を横組みにしたりしているのではない。なんということか、縦組みにする技術がなかったのである。

 とりあえず詩の横組み表示に妥協するとして、せめて行間だけは作りたいと思って、一行空けで表示するようにした。しかしこれだと空き過ぎで一つの画面に表示する行数が少なくなるし、ちょっと間延びした感じだと思っていた。最近行間を調整する方法を説明したページがあることをPOETICA IPSENON+Club LARAの(テキスト行間に関するメモ参照)Laraさんに教えていただき、「行間に青空を見たること」というサイトで、TABLEタグを使い半角アキに表示する方法を知った。8号からはそれを使っている。スタイルシートの詳しい説明もあるがこちらはまだ手付かず。

 Laraさんのサイトの水川真さんの詩は一部GIF画像やQTView(これは見るためのソフトを新たにダウンロードしなければならず未見)というフリーソフトを使った縦書き詩が読める。また、萩原健次郎さんの文屋では、やはり詩をいかにまともに読んでもらうかということで、縦組みの詩をGIF画像にして表示する試みをしている。
 GIF画像での縦組み表示淵上熊太郎さんの淵上熊太郎の詩でも楽しませてもらっている。プロのデザイナーの神戸さんという方が作っていて、書体にも工夫を凝らし、バックの色や額縁などのデザイン、詩全体のイメージなど、実に美しい姿の詩が読める。熊太郎さんの詩の雰囲気にびったりである。

 Cyber Poetory Magazine 02Xは、やはりデザイナーの大杉さんの作品。イラストや音声はもちろん、活字がとんだり跳ねたり、消えたり現れたりもおもしろく、わたしの知る限りではもっとも贅を凝らしている。ただ画像はどうしても重くなりがちである。

 しかし、インターネットでHPを開くことの意義は、まず第一に、自分で創作したものをみずからの手で発表することにあるのだ。そのためには、特殊な技術や知識がなくてもHPが作れなければ意味がない。

 というわけで、今回わたしが試みた詩の縦組み表示は、「縦変」(作者の安原さんのサイトへジャンプ)という縦書き変換のフリーソフトで作ったものである。これをウインドウズで動かすためのソフトも同じ場所でダウンロードできるようになっている。「東京上機嫌」田代俊基さんが「よい考え」で紹介してくれている。

   このソフトは、ワープロソフトがなくても、ウィンドウズで言えばワードパットやメモ帳で書いた横書きのtxtファイルの文字を、縦書きで書いたように変換するというもの。住所などの宛先を葉書などに縦書きでプリントアウトするというような目的で作られたらしい。シンプルで使いやすい。html文書を作れる人なら、だれでもできる。これは縦書きに変換してもtxtファイルのままであるところがみそである。これにタグを書き足せばhtml文書として使えるのだ。

 簡単といってもやはり初めて作るからいろいろ工夫が要った。ほんとうは、長い詩を左右のスクロールだけで読めるようにしたいのだが、そうすると、ページを開いたときに、詩の一番最後が表示されてしまう。これを頭から読もうとすると、スクロールしていって詩の始めの部分をあらためて表示し直さなければならない。そんな面倒なことをしてまで読んでくれる人はいないし、やはりいきなり詩の尻尾から見せられるのは困る。そんなわけで、次の手段として、ひとつの画面に収まらない詩は、左右の行数を決め、縦のスクロールだけで読めるようにすることにした。

 ところが、HTML文書で表示される文字は、それぞれのパソコンでのブラウザの設定によって大きさが違ってくる。ブラウザの種類も、IEとNNでは微妙に大きさが違う。縦の字詰めもIEのほうが緩いようだ。モニターの大きさだってデスクトップとノートでは違う。
 どのブラウザでも、大きい文字に設定してあっても、小さいモニターで見ても、左右に行がはみ出さないように縦組み表示をしたい。というわけで、あれこれ試した結果、24行で20字詰め半角アキという基準ができた。いちおう一番見やすいフォントの基本設定はNNでは12P、IEでは中としておくが、ノートパソコンの小さいモニターで、なおかつ大きい文字で見ても左右にはみ出さない。これを何段かに分ければ、長い詩でも縦のスクロールだけで読むことができる。しかし、デスクトップの大きいモニターだと、右側が空き過ぎの感じがするかもしれない。「小」のサイズの型崩れ文字を平気で読んでいる人には対応していない。

 表示にはまだまだ問題がある。縦書きに変換したものを見ると、「 」の 」や句点の 。 は半角ぐらいずれている。これはあとで調節できるが、促音・拗音の小さい「つ」「や」「ゆ」「よ」は横書きの位置のままで直せない。( )の縦書き用はないから< >に変換してしまう。半角横向きの英字は使えない。

 それから、等幅フォントの設定をしていないと文字化けするらしい。ブラウザのオプションで日本語を選択し、ウインドウズならプロポーショナルフォントをMS明朝に設定していれば大丈夫だろう。

 また、HTML文書では縦組みの部分はPREタグで囲んで、詩全体の形が崩れないようにするのだが、PREタグを使うと、IEで見たとき、文字がひとまわり小さくなることに気がついた。これはPREタグのあとにフォントサイズを指定しておけば解決する。もっとも、この指定はブラウザの基本設定が「大」や「小」にしている場合はこちらが優先されるようだ。

 最後にふと疑問が湧いた。縦書きだと、gooなどの自動検索はどうなるのだろう。機械でも縦に読んでくれるだろうか。検索ロボット君が読めなくて困らないように、今までどおりの横書き表示も添付することにした。

 どうか皆さん、詩の縦書き表示("rain tree"vol.10 もくじ) のご感想をお寄せください。まだまだ不備があるでしょう。
そして、わたしにあなたの縦書き詩を読ませてください



詩の縦組み表示の試み・続(1999.3.11) 関富士子


 詩の縦組み表示にいろいろなご意見、御感想をありがとうございました。 参考にさせていただいて、いろいろ試してみました。なんとか横スクロールだけで読める縦組みの詩の制作に成功しました! "rain tree"vol.10 もくじ<詩>のページをご覧ください。HTMLだけで作る縦組み表示としては、現段階ではだいぶいいかなと思うのですが。

 前回は詩を24行ずつ区切って段組にして、縦だけのスクロールで読むようにしたのだが、段の移動がスムーズにいかなくていまいちだった。今度は横スクローリングだから詩が細切れにならない。どんなに長い詩でもつなげて読める。移動は下の横スクロールバーを押せばよい。

 この方法は、初めに試みた時点では、ページを開いたときに詩の尻尾が表示されてしまうので具合が悪いと思って採用しなかったのだが、IE4なら頭にジャンプしてくれることに気がついた。

 PREタグで囲んだ部分の上段右端に<A NAME=”  ”></A>を置いて、もくじページの詩のタイトルと<A HERF=”#  ”>  </A>でリンクさせればよい。ただし、NN3だとこのジャンプがうまくいかずやはり尻尾が現れる。その救済として、尻尾の部分にも、先頭にジャンプするためのリンクボタン<A HERF=”#  ”>  </A>をおいた。NN3を使っている人は、ここをクリックすれば一気に詩の先頭に行けます。もしや新しいNN4なら、IE4のように頭にジャンプできるのでしょうか。お使いの方教えてください

 「縦変」を使った縦組み表示で何よりよいのは、ただのHTML文書だから、特別なソフトをつかわなくてもだれもが見ることができること。また、gifのような画像ではないために重い感じがなく、テキストにいくらでも訂正が利くこと。生成途上にある未完成のテキストが、リアルタイムで生っぽく読める。そういう点では、あまりうつくしくないウェブの文字も、小学校のころの手がきの文集みたいで何となく好きになる。

 縦組みで表示された小説や詩、縦組み表示の方法などの書かれたエッセイが、田代俊基さんの「東京上機嫌」で読めます。参考にさせていただきました。

 ほかにも、わたしのところに届いたいくつかのご意見の中からひとつ。前回紹介させていただいたBook bar 4四釜裕子さんの示唆に富むメールを読んでください。

せきさん、rain tree vol.10 読みました。あいかわらず盛り沢山で、楽しい! 縦組みについてのお話、特に興味深かったです。

私もこれまでいろいろ縦組みを試みてきました。まず、タンクの写真を紹介するときのテキスト。これはただセンタリングしただけですが、3年前はたぶん珍しかった。読み手のスクローリングの>ペースで読んでもらえるけど、2行以上は使えない。

次に試みたのはやはりimageとして一枚のgif画像にしてしまうこと。これは友人のカメラマンのページを作ったときに試しました。自分のページには使わず。理由は不明、ただ文字が文字でなくなるような感じ、これは実際にデータを作る過程においては文字も絵も線も同じなわけですが、とりあえず文字として入力する、という動作までが、文字が文字たるものとして今の私が許容できる限界らしいのです。

そして昨年flashを使ってみました。『傾向』でやっています。flashは読み手のモニタの大きさに依存しませんし、imageとしてペッタリ貼り付いてしまうのでなく、さらに読み手に時間を共有させる(動きで関心を呼ぶというのが大 きい理由ですが)ことができるんじゃないかと。しかしこれも読み手の通信速度までは制御できず、結構反響がばらばら、面白いけど早すぎて読めない、あるいは遅すぎてもどかしい、と。でもflashにはとても可能性を感じます。

行間のあきには、わたしは1ピクセルの画像を作っておき、それを必要なところに貼り込んで>調整します。これならブラウザに依存しません。友人からの伝授。秘伝であります。どんなに文字組みを厳密にやろうとしても、モニタは1ピクセルを割ることはできませんしまた半角のためにつくられたhtml言語に、無理して合わせる必要性を感じません。なので縦組みを例えば詩の表現として、又は読みやすさ>を考えて、ということではなく、過渡期にあるものの楽しみとしていろんな試行をしていきたいとは思ってます。

むしろ、本ならば「めくる」ところをwebではクリックだったりスクローリングだったりする、という、読むときの身体性の変化に対応することにおもしろさを感じています。

なんだか長くなりました。私のページのカウントの多さは、以前雑誌に数回掲載(詩以外です、どれも)されたことが第一、あとは友人知人+αのひやかしなんですよ。なにしろ詩を読んでなにか言ってくれる人なんてほとんどいませんもん・・・。つまんないんだろうなぁとか、読みにくいもんなぁとか反省もするけれど、いつかばしっつ!と目もくらむような>目をくらませるように(?) 印刷して、ほらちゃんと読むとおかしいでしょ、と言いたいものです・・・。ではまた。

"book bar 4 " last modified 22 Feb
  ■■■ web scraps 発表!■■■
http://www.mars.dti.ne.jp/~4-kama

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