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vol.7

<雨の木の下で>





クモ派 (1998.10.8) 関 富士子

 イヌ派かネコ派かというとどちらが好きかという話だが、両方 好きだ。で、ヘビ派かクモ派かということだと、これははっきり クモである。もちろん嫌いなのだ。というより恐ろしい。その理 由もきちんと説明することができるがここでは省く。

 ところが、家のベランダに夏からクモが巣を張っている。胴体 は三センチぐらいだが、脚の長さがその三倍はある。軒下からヒ イラギの植えこみにかけて網を広げ、羽虫がかかるとすばやく駆 けつけて、繊細な動きで縛り上げる。そばのグレープフルーツの 木にたびたびナミアゲハが産卵をしに来るが、まだ引っかかった ものはないようだ。網にひからびた残骸が縦一列に並んでいる。 脱皮したあとの透明な抜け殻も二つあるし。まったくすてきなコ レクションである。

 子供たちが掃除してよと言うがとてもできない。プラチナに輝 く体、脚は金と黒のくっきりしただんだら模様。これは「ジシン グモ」と呼んでむかしから最も恐れていた種類だ。別に毒はない。 獲物でもないものが巣にちょっとでも触れると、体を激しく前後 に振動させ、巣全体を揺さぶって威嚇する。こわい。教えてやっ たら針金ハンガーで巣に触れてわざと振動させて喜んでいる。

 台風五号が来たときは、巣をベランダの内側のモミの植木にし っかりかけ直していた。モミの木は毎年クリスマスの飾りつけを するために育てているのだ。クモは嵐に吹き飛ばされそうになり ながら、巣にしがみついて必死に耐えている。クリスマスにはま だ間があるし、しかたがないのでもうしばらく軒先を貸してやる ことにする。






vol.7


蚤の市 (1998.9.3)  関富士子

 遅い夏休みをとって、ヨーロッパの二つの都市、ロンドンとパリを歩いた。

 ロンドンはコベント・ガーデンの蚤の市は、こぎれいで観光客向けの土産物が中心だが、ここに、アルファベットの装飾文字や、動植物、人物など、さまざまな絵が彫られたスタンプの店があった。薄い銅板に絵の部分は2、3ミリほど盛り上がり、細密画のように精巧に彫ってある。持つ部分は2センチほどの高さの方形の木製で、どれもインクが真っ黒にしみついている。ほかにも活版印刷用の活字がセットになって置かれていたり、スタンプを収める木枠の古ぼけた箱など、どれもおもしろくてしゃがんで物色しているうちに、蚤の絵のスタンプを見つけた。

 1、5センチ四方の方形の木に薄い銅板が貼り付けられていて、蚤が脚の毛の一本一本までじつに細かく彫られている。これぞ本物の蚤! わたしは大喜びで買い求めた。2ポンドちょっと。日本円で500円ぐらいである。

 というのも、拙詩集「蚤の心臓」のアイコンに手がきの蚤の絵を使っているのだが、これはわたしが想像してかいた偽物で、どうもこれは違うぞと思いながら、ずぼらなわたしは百科事典で調べることもせず、馬のように強力な後脚のことばかり考えてかいたのである。「ぺんてか」の樋口えみこさんにも、メールで「これって、蚤?」 といわれたしろものである。

 想像してかいたというが、昔はよく蚤を見る機会があったのに、具体的な姿を思い出せない。小さすぎるということもあるが、柿の種のような輪郭が浮かぶばかりである。昭和30年代にもなれば、人間にはさすがにそうついてはいなかったが、猫を飼っていたので、ちょっとその毛を選り分けると蚤はいくらでもいたのである。白いやわらかい柔毛の根元に、黒いごまつぶぐらいのが、ぬくぬくと血を吸って膨らんでいる。つまみとってどうするかというと、姿を虫眼鏡で観察するのではなくて、ぴょんと跳ね飛んで逃げられる前に、すばやく両手の親指の爪と爪の間にはさんで、ぷちんとつぶすのである。
 黒光りして思いのほかに硬い皮が破裂する手応え。ちいさな血のしずく。

 過日テレビでフランス人だったかのおじさんの操る蚤のサーカスを見る機会もあったが、蚤はやはりわたしの絵とは大違いで、肝心の脚は後足だけ長いのではなく、後ろに行くにつれて長くなっていて、拡大した画像では関節がたくさんありいっぱい毛が生えていてた。彼らは犬のように引き綱につながれて、おもちゃの自動車を引っ張っていた。蚤は人間の吐く息の二酸化炭素に反応して、ぴょんとジャンプするのだそうである。おじさんはやはり仕事のあと自分の毛の生えた腕にとまらせて、食事をさせていた。

 パリの場末の街の蚤の市も歩いてみたが、そこでは蚤のサーカスを見ることはできず、その代わり市場の通りの真ん中でカードの手品をしている男たちがいた。十人ぐらいが群がって見物していて、狭い通りはいっぱいである。裏表が黒と白の丸いカードを三枚使って、テーブルの上ですばやく入れ替え、客に一枚の花模様の付いたカードを当てさせる。

 コインなどを使ってよく見かける手品で、見ているとわかるような気がするのだが案外当たらず、フラン紙幣を何枚か取られたり、うまく当たってごっそりもうけたりしている。二人ぐらいサクラがいるようだ。こっそり写真を撮ろうとしたら、サクラの一人にすばやく見咎められて、大きな手のひらをむけノンと言うので、そそくさとそこを通り過ぎた。

蚤g  さて、ロンドンの蚤の市で見つけたスタンプの蚤は、6本の脚ににちゃんとごわごわの毛が生えている。体に比べて長い脚で体の前半分に集中している。真っ直ぐに伸びているのはジャンプしているさいちゅうだからだろうか。胴体の皮のつきかたも、中世の甲冑のように継ぎ目があって堅固な造りである。

 あまり見事な彫りなので、これを「蚤の心臓」のアイコンに使うことにした。黒インクをたっぷりつけてぺたんと捺すと紙ににじむ。もっと硬い紙、厚い紙と試して、二度捺しをしたりと300あまりも蚤を捺すが、ひとつとして同じにならない。あたまがにじみすぎたり、脚がかすれたり、どこか欠けてしまっていたりする。もっともよさそうなものをスキャナーで撮って、透明gifにした。

あざみ  ブラウザで見ると、細かい線がぼけてしまって、どうも彫りの繊細さがうまく現れない。不満が残る仕上がりだが、とりあえず完成した。
 蚤のスタンプといっしょに、アザミの花のスタンプも買った。これはかの敬愛するあざみ書房の店主に進呈するつもり。この店主は昔パリで、虫眼鏡を手に蚤のサーカスを見物している人々を見たことがあるそうだ。

<雨の木の下で>ウィンドウズ再インストールの顛末
<雨の木下で>むかし、解放という言葉があった(倉田良成)/雨の木のしずく(関富士子)へ
<詩>「これなあに?2-6」(関富士子ほか)へ
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ウインドウズ再インストールの顛末(1998.8.20)  関富士子


 先日、ウインドウズが突然立ち上がらなくなってしまった。電源を入れてウインドウズのマークがひらひらしたあと、「VFATデバイス初期化エラー」というメッセージが出て、そのまま止まってしまう。なんのことやらわからないが、原因は、そのまえの作業にあった。

 プリンターで印刷しようとしている最中に、画面が動かなくなって、キーを3つ一度に押す強制終了も効かず、しかたなく電源を切ってみた。再起動したらまったく同じ状態になったのでまた電源を切った。このあとウインドウズそのものが起動しなくなってしまったのだ。セーフティモードでMS−DOS起動をしてみてもだめ。パソコンがキレタということか。

 16MBしかないノートパソコンで、メモリーの空きが30%ぐらいになっていた。もともとソフトがたくさんインストールされていたうえ、必要に応じて各種のプログラムも増えてきて、このごろでは動きが重くなっていた。ファイルはできるだけフロッピーに入れるようにして、ごみ箱もこまめに空にして、なんとかなだめて使っていたが、インターネットを見ているときにメールソフトを出そうとすると出てこない。画像処理ソフトで大きい写真などを扱っているとやはり動かなくなる。困ったなと思っていた。

 パソコンを買って一年半ほどになる。それまでさしたるトラブルもなくなんとか使ってきたが、もうお手上げ。わたしのはシャープのメビウスで、その時ちょっと古い型のMN5000Dを24万ぐらいで買った。小さいのにとても賢くて尊敬していたのにこうなったら頑固な爺みたい。

 販売店に電話をすると、シャープの相談窓口の電話番号を教えてくれた。何度かかけ直してつながった相談窓口では、サポートセンターから電話をかけさせるからしばらく待つように言われる。まもなくサポートセンターから電話があった。「VFATデバイス初期化エラー」のことを言うと、インストラクターは、その状態ではウインドウズを再インストールするしか方法はありませんという。一部のバックアップをとることもできない状態だという。

 ウインドウズを削除すると、ほかのいろんなソフトもすべて消えて真っ白なただの箱になるという。大事にとっておいたメールも、たくさんためたアドレスも、いろいろなブックマークも、みんなぱーになるのだ。うむむむ、と今更ながら自分のうかつが悔やまれる。

 しかし、ちょっと古いメールやインターネット用のHTML文書や、写真や絵の画像や住所録などはフロッピーに残っているし、表計算ソフトや個人情報管理ソフトは使っていなかったし、なんとかなるだろう。再インストール用のCD−ROMはみんなとってあるから、また入れ直せばいいのだし、これを機会にせめてパソコンのシェイプアップをしようと気を取り直して、指示のとおりにウインドウズの再インストールを行った。

 インストラクターは、メビウスの説明書を広げさせて、インストールの順序を読み上げ、注意点をいくつか述べただけである。あとはすべて自分で行わなければならない。パソコンの種類によってやり方は違うのだが、またこんなはめになったときのことも考えて、順序を書いておく。

 まず、付属のウインドウズ起動フロッピーディスクと、ウインドウズバックアップCD−ROMの両方を使うので、プリンターを取り外し、それまで内部接続をしていたフロッピーディスクドライブを外付けし、CD−ROMドライブを内部接続する。電源を入れてメビウスのセットアップユーティリティで、指示に従ってウインドウズの削除をする。

 ひとつだけつまずいた。「ボリュームラベル」というのを記入する項目がある。このラベル名の中ほどに下付きの横棒を入れなければならないが、このキーがどれかわからない。わたしはローマ字入力で結構速くブラインドタッチができるのだが、これは今まで使ったことがなかった。あわててサポートセンターに電話をするとが、なかなかつながらない。やっとつながって聞いたら、Shiftキーと「ろ」を押すのだという。よく見たら _ というのがあった。これは上付きの横棒だと思い込んでいた。やれやれ、結構動転しているらしい。こういう初歩的な問い合わせでセンターは忙殺されているのかもしれない。

 ウインドウズの削除が終わったら、パソコンを再起動する。起動ディスクが動くので、ウインドウズのインストールを指示にしたがって行えばよい。このとき不必要なウインドウズファイルはインストールしないように、設定のチェックを外した。マイクロソフトネットワークやユーザー補助、多国語サポートなど、アクセサリの中のゲームや壁紙やブリーフケースや外字エディタなどはこれまでほとんど使わない。使うときにまたインストールすればよいのだ。

 再起動するとちゃんとウインドウズが動いた。思ったより簡単でほっとしたが、まだなにも作業はできない。ただの真っ白の箱なのである。

 注意したいのは、ウインドウズファイルの中のダイヤルアップネットワーク。インターネット接続に使うのだが、これだけなぜか、ウインドウズの再インストールのとき自動的にインストールされないらしい。あらためて設定をチェックしてインストールする。

 みんなが苦労するというインターネット接続。ニフティからパスワードをもらってはじめて接続したときはうまくいったのに、今の接続業者に変えて、新しいパスワードで接続を試みたときは、なかなかつながらなくて苦労した。結局パスワードの英字や数字の入力が間違っていたのと、市外局番11けたからダイヤルするべき電話番号を市内局番7けたからダイヤルする設定になっていたことが原因だった。今回は一発で接続が完了した。人間進歩するものである。

 次に各種のソフトウエアを再インストールするのだが、メモリーも足りないことだし、必要最小限にとどめることにする。わたしの場合いつも使うのは、ブラウザソフト、ファイルをプロバイダーに転送するソフト、メールソフト、ワープロソフト、画像処理ソフト、あとは外付けのプリンタとスキャナーぐらいのものか。パソコンで何をして遊んでいるかこれでわかるだろう。モデムも付け直して設定し直さなければならない。

 全部インストールし終えると、朝から始めたのがもう夕方、さっそくメールを見る。2日ほどネットに接続していないだけなのに、この懐かしさはどうだろう。

 エクスプローラで見ると、コンピュータの合計サイズが999MBのうち808MBが空き領域とある。システムリソースは78%の空き。かなりのシェイプアップである。動きも軽やか。わたしもこのくらいスリムになりたいものだ。

 インストールし終えてもいろいろ不便はある。インターネット接続や、ブラウザソフトやメールソフトのメールの設定をし直す作業には認証IDや認証パスワード、メールIDやメールパスワードが必要だ。これをなくしたら大変なことになる。デスクトップやスタートアップによく使うソフトのアイコンをならべる作業も案外面倒だ。

 バックアップしてあったつもりのフロッピーディスクにも落とし穴があった。テキストファイルやHTMLファイルはみんな保存してあったのだが、そのうち8枚がどうしても開けないのである。フォーマットされていませんというメッセージが出てしまう。ほかのフロッピーは大丈夫なのにどうしたわけだろう。

 開けないフロッピーはみなメーカーが同じで、よくよく思い起こしてみるとこれはだいぶ以前、仕事の原稿をキャノンのワープロ専用機で書いていたころ、その原稿をMS-DOSのフロッピーにファイル変換して会社に送っていた。そのとき使ったのがこのPC98用だった。その後DOS/V用のパソコン、メビウスを買ったのだが、PC98用フロッピーがなぜか問題なく使えたので、そのままあまり気にせずに使っていた。ところが、今回ウインドウズを再インストールしたら使えなくなってしまったというわけ。

 このフロッピーにホームページのインデックスファイルも保存してあったのが使えない。更新のためにしかたなく自分のホームページからダウンロードして使った。これがどういうわけか、<TABLE>の囲みの内側のバックの色が出ないのである。

 また、花火の写真の画像を5枚アップしたのだが、ブラウザではきれいに表示できるのに、インターネットにアップしてみると、そのうち2枚の写真が部分的にずれたり薄くなったり真っ黒になったりしてきれいに表示できない。これはどういうわけだろう。囲みの背景の色は違う色に変えたらうまくいったが、花火の写真は画像を撮り直してアップし直しても、まだ一枚がうまくいっていない。

 メールでもさっそく失敗をした。なくしたメールアドレスを少しでも取り戻そうとして、友人のホームページを訪ねてアドレスを保存し直した。このときうっかり名前とアドレスを取り違えてしまったらしい。さっそくメールを送ったら、AさんにBさん宛てのメールが行き、BさんにはCさん宛てのメールが行ってしまった。AさんはすぐBさんに転送してくれて、BさんはCさん宛てのメールを送り返してくれた。身が縮む思いとはこのことか。清水鱗造さん、長尾高弘さん、ごめんなさい。ありがとう。

 そんなわけで、こんなわたしに皆様の経験豊かなアドバイスをいただければ幸いです。





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