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七瀬へ・
飛ぶ赤ん坊
緑の馬がけ
灰の鞍すべり
めぐるやまなみ
くだるタイガ
射す赤ん坊
辛子畑ぬい
漆山すごし
鞣谷めがけ
ひとつぶのそらまめへ
降る赤ん坊
蓮根くぐり
水牢もぐり
風化仏さぐり
漱ぎ流れる照るららら
泣く赤ん坊
黒森シュワッツワルト
夜に隠れ
胸のくらやみに
ぐったりとうなだれて
弾く赤ん坊
風の鳴る音か
雉のしのびね
とりどりのきらめく楽器
呼ぶ赤ん坊
ようやくききつけ
わたしたち震えながら
その声にめざめ
手足無残に折り曲げて産む
咲く赤ん坊
茎から尖る
蔓から誘う
ロゼット葉にひろごり
無花果へわれ
棉へはじける
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かけ算のれんしゅう・
公園に3輪車が3台あります
車輪は全部でいくつですか
6本ゆびのこどもが7人います
ゆびは全部で何本ですか
ロバが5ひきいます
ロバの耳は全部でいくつですか
王さまが10人います
ロバの耳の王さまは何人ですか
うらぶれてたたずむ女がいます
指輪はいくつ残りましたか
おやみない落ち葉にうもれる男がいます
墓はいくつできますか
いくつだって全部でだって
ぼくわかんない
やさしげに口うつしされる1ミリグラムの毒があります
空中で1000回閉じ開きするひばりの尻の穴があります
飼い葉に頭をつっこんだまま眠る10000頭の羊がいます
工場の夜なべ仕事に作られたイルミネーションの300個の電球があります
風速20メートルの夕方に現れる誘拐者がいます
毎日午前3時に投函される手紙があります
よろこびのしぐさで投身する2人のブランコ乗りがいます
なぜ誘拐者は6本ゆびのこどもを抱きしめて王さまの飼い葉桶に投身したのか
いつブランコ乗りは地上にたたずみ男のやさしげな尻に電球をはめるのか
どこに落ち葉を投函する口が閉じ開くうらぶれた墓穴があるのか
だれが指輪のよろこびの物語を口うつしでロバの耳に伝えようと苦しんだか
どのようにして工場からの手紙と3輪車のイルミネーションは羊の女におやみなく届くのか
いったいそれらは全部でいくつですか
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