ヘリが飛び去ってしまうと途端に手持ちぶさたになる。
友人に促され、休憩所で一服することに。
缶コーヒー片手に談笑していると、ヘリのローター音がかすかに聞こえてきた。 時計を見ると
20分が経過していた。
(あっという間だな。これは想像していたよりも短いぞ。)
やがて次の搭乗組に慌ただしくタグが配られる。
タグ。
万が一事故が起こった際にこれによって判別される。
つまり物言わぬ亡骸になってしまった場合のためのネームプレート代わりの物だ。
チェーンに金属プレートが通してあり、そこにナンバーが刻印されている。
ヘリのローター音がかなり近づいてきた。
外に出てみる。
上空200mくらいだろうか。緩やかな弧を描きながら徐々に高度を落としてきていた。
離陸時とはうってかわって、その速度は緩やかに感じられる。
実際、離陸よりも着陸の方がはるかに技術を要するのだろう。
着陸ポイントには誘導員。手信号で降下のタイミングと距離を知らせながら誘導を開始する。慎重に慎重に地面との距離を詰めていく。
そしてヘリは静かに着地した。
係員によってドアが開けられ、中から興奮気味の搭乗者が吐き出されてきた。
続けざまに第二陣が乗り込み、あっという間に離陸。
今回は基本的に現地解散であった。
興奮さめやらぬ既搭乗者達は思い思いに散っていく。
休憩所に戻り、空の旅の様子を興奮気味に次の搭乗者達に話す者。すみやかに車に乗り込み帰途につく者。
それぞれだ。
私はバッグを開け、フィルムをケースから出して準備がてら時間を潰した。
友人も仕事の合間を縫って、無駄話に付き合ってくれるのだが自分の番がまわるまでの2時間は
さすがに持て余す時間だった。
ヘリを撮影するにしてもポジション的にそんなにバリエーションがあるわけじゃない。第二陣以降は途中で打ち切って
しまった。それよりも空に上がってからのフィルムを残しておかなければならない。
ヘリの中の揺れはどうなんだろう?
今装填されているISO100で大丈夫だろうか?
本数は足りるのだろうか?
乗ってみなければ判然としないことに思いをめぐらし、時間が過ぎてゆくのを静かに待つしかなかった。
自分でも驚くほど緊張感はない。いや緊張はしていたのだろうが思いの外、長すぎる待ち時間が私に落ち着きを
取り戻させたのかも知れない。ヘリに乗り込む際のポジショニングまで頭の中に思い描く余裕があった。
ポジションはどこがいいのだろう?
座席は早い者勝ち。つまり選択は自由。座席は後部に5つ備え付けられている。前部操縦席のすぐ後ろに二つ。そして最後部に三つ。まず絶対避けたいのは
最後部の真ん中の席だ。窓からも一番遠く撮影などまず無理。正面に広がるパノラマを真っ直ぐ見られること以外に
アドバンテージは何一つ無い。ここだけは避けなければならない。 次に考えたのは最後部の左右両ハジの二つの席。
ここは空撮という一点だけ考えればベストポジションとも思える。しかし前方や逆サイドの風景は何一つわからないのがネックだ。
これからどの方角に向かい、太陽とどういう位置関係になるかつかみずらそうだ。ここもやめよう。
残ったのは操縦席すぐ後ろの二つの座席。ここが狙い目。できれば主操縦士の逆側の方がいい。構図に主操縦士を入れられそうだし
パイロットが見ている光景をそのまま写真にもできそうだ。できればここにしよう。
などと考えているうちに第5組が乗り込んでいった。
彼らが戻ってくれば、やっと私の乗り込む番になる。
休憩所にはいつしか私を含めた最終組5人が残されるだけになっていた。
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