一本目のフィルムが撮り終わった。
軽いモーター音をさせながらフィルムが巻き取られていく。
(次はどのフィルムでいく?)
ヘリの中は予想以上の揺れ。やはりブレが一番怖い。一段でも早いシャッタースピードが欲しい。やはり400でいこう。だけどネガとポジどっちだ?
無難な選択ならネガだ。しかし夕刻独特の赤みを帯びたこの光は再現できないだろう。ではポジか?迷う・・・。
(どうせこの揺れだ。多分ほとんどの写真は公開に耐えうるものにはならないだろう。気楽にいこう。)
バッグからPROVIA400を取り出し、装填した。
この選択はミスだった。後日私は現像が上がったポジを見て落胆するハメになる。
しかし上空というのは見るものすべてが新鮮でどこを向いても絵になる。
アイレベルで見る雲は地上から見ている雲以上の迫力で眼前に広がり、その隙間からこぼれる光は普段は見ることの
できない軌跡を私の前にさらけ出している。
私は我を忘れてピントを合わせシャッターを切る作業に没頭した。
と、機体は大きく傾き出した。旋回動作に入ったようだ。
腕時計を見ると早くも10分が経っていた。
(もう折り返し地点まで来てしまったか。)
180度方向を変えると夕焼けに染められた風景が広がってきた。
残りのフライト時間もあとわずか。
私はラストスパートをかけるように次々とシャッターを切っていった。
前方に小さく駐屯地が見えてきた。できることならこのままもう少し飛んでいてもらいたい。
夕陽はドラマティックな色合いに変わってきている。これからが一番見応えのある光景になるはずだ。
しかしそれは叶うまい。ヘリの場合、操縦はパイロットの目視で行われている。暗闇の中では
危険が大きすぎてよほどのことがない限り飛ばない。日没までに旭川駐屯地に帰投しなくてはならないのだ。
ヘリが高度を下げ始めた。
見る間にミニチュアだった街並みがリアルサイズに戻っていく。それはまるで魔法をかけられていたかのように・・・。
着地も驚くほど衝撃がない。気が付くと私は重力の虜に戻されていた。
ドアが開けられ、しばしの別れだった地面を踏みしめる。
「どうだった?」
「最高だね。貴重な体験をさせてもらったよ。ホントにありがとう。」
「写真の方は?」
「どうだろう。かなりの振動だったから自信はないよ。」
「できあがったら見せてくれよ。」
「もちろん。」
ローター音がまた大きくなった。振り向くと関係者を乗せたヘリが離陸体制に入って、それはまたあっという間に西日が造り出す光芒の中に
消えていった・・・。
完
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