天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第4話『急病人に医療器具を届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「早坂由紀夫と血のつながりのない弟溝口正広は、新たな家族として白文鳥を加えノンキに明るく暮らしている。そんな二人にとある事件が!」なんやねん、一体(笑)

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今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「花束」届け先「バカバカしい誕生日パーティの主役」
その2.届け物「書類」届け先「某会計事務所」
その3.届け物「秘密の資料」届け先「C社のD氏」
その4.届け物「救急医療品一式」届け先「ガソリンスタンドの急病人」

ここの所、由紀夫はやたらと忙しかった。ご指名がバンバン入るのである。
「何だかなぁって思うんだけど、なんか勘違いしてんのよねぇ」
依頼の書類を眺めながら奈緒美は言った。
「やたらと、女性にプレゼントを届けろってのがあったりとか。なんか、パーティ盛り上げ業と勘違いしてんじゃないのぉ?」
「…だったら、イチイチ受けんなよ、そんな仕事ぉ!」
野長瀬から大きな花束を渡されながら、由紀夫が怒鳴る。
「ま、ま、モノは考えようじゃないですか、可愛い女の子がわんさかいるんですよ?」
「可愛いかどうかなんて、なんで解んだよ」
「それにしても、本当に多くなったわ。由紀夫にってご指名。若いのから、年とってんのから、男から、女から」
持っていた書類のたばを机に置いて、奈緒美は肘をついた。
「男からぁ?」
「男から。あんたほら、よーくよく見ると女顔じゃない」
「俺ぇ?」
「髪なんてサラサラだし、唇とか、可愛いわよぉー?」
じとっとした視線で奈緒美を見つめた由紀夫は、諦めたように小さくため息をついた。
「…俺も扶養家族ができたこったし、新たなバイト始めよっかなぁー」
「あら、うちは掛け持ち禁止よ、禁止。あんたは届け屋やってりゃいいの」
席を立って、奈緒美は由紀夫のネクタイに手をかけた。
「はい、はい、ちゃんと綺麗にしてね」
「あー、バカくせぇ」
「はい、文句言わなぁーい、一つ積んでは♪」
「父のため♪」
「二つ積んでは♪」
「社長のため♪」
「頑張って働いていらっしゃーい!」
野長瀬、典子のコーラスに合わせて歌い上げた(??)奈緒美に手を振られ、しぶしぶと由紀夫は事務所を出た。

由紀夫が呼ばれた誕生日パーティは、その依頼のバカバカしさに相応しい、バカバカしい騒ぎになっていて、受け取りの写真に一緒に入ってくれだの、遊んでいけだの、散々言われた。
それを慇懃無礼寸前の丁重さで断り、とっとと帰途につく由紀夫。

届け物ってのは、そういうもんじゃないよな、と由紀夫は思った。プレゼントだったら、直接手渡しするのが一番だと思う。どうしてもそれができないんだったら、手伝いはするけど。
でも、本当なら、自分で届けるべきもんだよ。誕生日プレゼントなんてのはさ。

もう一件、こっちは普通の仕事をして、由紀夫は部屋に戻った。

「ただいまー」
「おっかえんなさい」
「あれ?」
出迎えに来た正広を見て、由紀夫は首を傾げる。
「何?」
「おまえー…、どっかでかけた?」
「えっ?な、何で…?」
「日焼けしてんじゃん」
由紀夫が指差した鼻の頭が、確かに赤い。鏡をのぞきこんで自分でも確認した正広は、昼寝してて、とベッドを指差した。
日当たりだけはやたらといい部屋で、ブラインドを下ろさなかったから、と正広は言う。
「腹減ってない?何食いに行こっか」
「兄ちゃん、外食ばっかじゃダメだって。俺、なんか作るからさぁ」
「…おまえ、料理なんてできんの?」
「…できるよ。ちょっとだったら」
「ちょっとって?」
「ちょっとって…、ごはん炊くのと、お茶漬けすんのと、あ!あれできる!スクランブルエッグ!」
「んじゃ、今度それ作って。でも、俺今すっげー!腹へってっから、付き合って」

最近、二人でよく行くのが、「イタリア家庭料理」レストラン。女の子がやたらと多いが、とりあえず気にしない。ミートソース好きな由紀夫に、正広が付き合ってる形になってはいたが、二日とおかずこの店に来る由紀夫には、それなりの考えがあった。
この店のソース類には、やたらとたくさんの野菜が使われていると聞いたからである。正広は、野菜が嫌いで、どうにかして食べずに済ませようとする傾向が強い。一度、とりあえず食べさせてみたら、後から具合悪くなった事まであって、由紀夫は密かに頭を抱えていたのだが。
「美味しいねー」
ご機嫌でガバガバ食べてる弟を見て、由紀夫は小さく笑う。形が見えてなければそれでOKらしい。今、食べてるミートソーススパに、大っ嫌いなナスもセロリも思いっきり入ってると知ったらどうなるんだろう。喋りたい欲求にかられつつ、それを言ったら元も子もないと押え込む由紀夫だった。

「兄ちゃん、あのさぁー」
帰り道、ふいに正広が言った。
「ん?」
「俺、もう結構元気になったから」
「から?」
「んーと…。バイトでもしよっかなーって」
「何ぃ?」
「バ・バイト…」
兄の激しいリアクションに驚いて、正広が立ち止まる。
「何か欲しいもんでもあんの?」
「いや、そーゆー訳じゃないんだけどぉー…」

じっと兄の顔を見ると、じっと兄も正広を見返す。その視線の強さに、正広は顔を伏せた。
「や、止めます…」
「そうだな」
ちなみに早坂家の家計は単純である。由紀夫には銀行口座がないため給料はいつもニコニコ現金払い。その貰った給料が部屋に置いてあるため、買い物したけりゃそこから取れ、方式。
由紀夫は、相変わらず別に欲しいものも大してないんで、正広に好きにしてもらって構わないと思っていた。

「なぁ…。ホントいい加減にしてくんねぇかな」
「だから、値段上げたんだってぇ!」
届け屋の基本料金が3割方引き上げられたにもかかわらず、由紀夫への依頼は増える一方だった。
「でも、来るのよねぇー…」
「断るって事しねぇのかよ、この事務所は」
「あらぁ!だって、このチリのようなちょっとした小銭が、いつかは山となり、巨万の富を得られる訳じゃなぁーい!」
「おまえの巨万の富ってのは、どれくらいなんだよぉ」
「多けりゃ、多いほどいいんですよねー、社長」
ポラロイドを由紀夫の首からかけながら野長瀬が口を挟む。
「まぁ、でも、明らかにあんた目当てってヤツは断ってるから」
「ったりめーだよ。んで、今日はどこ」
「えっとね…、はい、この人。名前が…」

A社のB氏から、ライバル社C社のD氏へ、A社に知られてはまずい「とある資料」を届ける。条件は、とにかくB氏から受け取った後、とにかく急ぐ事。いかにも小心者なB氏から厳重に封をされた封筒を渡され、こんなにビクビクしてて大丈夫かいな…と思いながら、由紀夫はストップウォッチを押す。
A社からC社まで、直線距離にしたら大した事はないのだが、途中にJRは通ってる、高速道路はある、家は密集してると、やたらと迂回するルートが多かった。その中でも、できるだけ最短のコースを選んで自転車をぶっとばしていると。

角を曲がった出会い頭に、何かとぶつかった。
やばい!と急ブレーキをかけ、足ブレーキも使って自転車を止めた時には、目の前で大きな若い男が転がっていた。
「あ!大丈夫ですかぁっ!?」
「だ、ダイジョブ…、テテっ…!」
大きな荷物を抱えてた男は置き上がろうとして失敗する。
「え?足…っ?」
男の前にひざをついて、左の足首に触れようとすると、大きな手で腕をつかまれた。
「いいです!あのっ!」
「はいっ?」
「お願いです!これ!この荷物、運んで欲しいんですけど!」
「え?」
「お願いします!もうちょっとだったんです!えっと、ガソリンスタンドで、ここ!この住所に!」
「いや、いいですけど…、ちょっと1個届けなきゃいけないとこあるんで、それがすんだら…」
「急ぐんです!」
「こっちも急ぎで…」
「人の命がかかってるんですぅっ!!」

由紀夫がぐずぐずしていると、男は痛みに顔を歪めながら立ち上がろうとする。
「い…急がないと…!」
「解った!」
由紀夫は男の手から荷物を奪い取った。小さいわりにずっしりと重い。
「届けるから!どこの誰に届けばいいんだよ!」
「ここ、ここのガソリンスタンドですっ!急患がいて!」
「あんた医者?」
「ポリクリです!」
…なんだそりゃ…と思いながら、由紀夫はさっさとその住所を記憶する。町名が一緒だから、すぐに行けるだろう。
「急いで下さいーっ!」
「はいはいはい。んじゃ、ここにいな。動くなよ、あんたの足も悪いんだから」
「俺の事なんかいいから!」
必死の形相に、由紀夫は荷台に荷物をしばりつけスタートした。さっき以上のスピードで、ガソリンスタンドを探した。

そのガソリンスタンドはすぐに見つかった。
「あの」
バタバタしているスタンドに足を入れ、誰か捕まえようとしてるところで、聞きなれた声がする。
「ひろちゃん!ひろちゃんってばっ!」
「千明―…っ?」
で、千明が呼ぶ「ひろ」と言えば…。
「正広っ!?」
人だかりをかきわけて行けば、コンクリートの上に、たらんと置かれた白い手首が見える。内側だけ白くて、外は日に焼けた。
「由紀夫ぉ!」
「はいっ!?」
その正広にすがるようにしていた千明が真っ青な顔を上げ、その大声に正広の体を見ていた男が振り向く。

「森先生っ?」
「あれっ?お兄さん…、あ!それ!」
「はいっ?あ!これっ!」
ポリクリだと言った男から託された荷物を渡すと、中からあれこれ取り出して正広に使っている。
森医師が動き出した事で、ようやく正広の姿が見えた。ぐったりと体を伸ばし、うっすらと日焼けした顔が色を失って土気色に見える。
「どしたんだよ…」
「由紀夫ぉー…」
「何でだよ!何で正広がスタンドの制服なんて着てんだよっ!」
「大丈夫ですから!」
森医師の声に、千明の泣き声と、由紀夫の怒鳴り声が止まる。
「大した事ないです。大丈夫!薬も間に合ったし」
注射を終えた森医師が振り返る。
「ありがとうございました。運んでいただいちゃって」
「そんな…!あの、正広は!?」
「日射病です。元はね。そこから具合悪くなっただけで、心臓が特別どうこうじゃないから、大丈夫です」
「よかったぁー…」
千明が膝をついて正広に触れる。由紀夫は、何が何だか解らなくて呆然と突っ立っていた。

「救急車きました!」
スタンドの店員の声がする。
「森先生!」
その救急車の窓から身を乗り出しているのは、さっき由紀夫に荷物を渡したポリクリ。
「慎吾。何で、おまえが乗ってんの?」
「…助けられたんですっ。そんな事より!正広くんはっ?」
「大丈夫、大丈夫。でも、念のため病院行こうか」
救急隊員が、いかにも軽そうに正広を担架に乗せる。
「由紀夫…、行こ…?」
おずおずと千明にスーツを引っ張られ、呆然としたままの由紀夫は、その手から、腕を引き抜いた。
「由紀夫ぉ…?」
「…俺、仕事中だから…」
「何言ってんのぉ?そんなの、そんなの後でいいじゃん!ひろちゃん大変なんだよぉっ?」
「いいから!」
由紀夫の大声に千明が身をすくめる。
「いいから…!おまえ、行っててくれ。すぐ追いかけるから…」
「由紀夫ぉ…」

一度も目を開けなかった正広を乗せた救急車を見送り、由紀夫は自転車で移動を始めた。熱とかは出したけど、倒れるようなことはなかった。もう治ったと思っていた。
このまま正広が帰って来なかったら…。
考えただけで気分が悪くなってくる。
機械的にC社のD氏に資料を渡し、受け取りの写真を撮る。
正広の病院は解っていたけど、足を踏み入れられず、無意味に近所をうろうろしていた由紀夫の携帯がなった。

『由紀夫何してんの!』
奈緒美の大声に、思わず耳から電話を外す。
『ひろちゃん帰って来てんのよ!あんた、病院にも行かずに!』
「帰って来たってぇ!?」
『だからそう言ってるでしょ!すぐ事務所に帰って来なさい!』

<つづく>

ひろちゃんに何が起こったのか!大丈夫なのか!ってな訳で後編をお楽しみにしてくらさい。頼むからぁ!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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