
vol.16
「せき ふじこ」執筆者紹介
モクセイの木
関 富士子
| SL9彗星*から飛んできた |
| 熱い氷を胸に受けとめた |
| 脈を巡って耳から熱が出た |
| 蘇る |
| 月をたくさん産んだこと |
| 星のきょうだいに連なり |
| 親太陽に正面から照らされて |
| 九九年閏秒十月の衝の日 |
| 二十三日にモクセイが咲いた |
| 沖積世紀の巨象が行く |
| 風がやまない大陸の野に |
| ただ真っ白な小花を散らした |
| 巻積雲に枝をあずけて |
| 赤泥が流れる河のほとり |
| 通い路に立つ雄の木の |
| パウダーでもこもこふくれた |
| 蜂の訪れを待っていた |
| 思い出に湯浴みして |
| まもなくほろびるわたくしは |
| かた耳を腫らして |
| どうして根っこが枯れたのか |
| この |
| 儚い |
| からだを |
| つなぎ止めて |
| 生きる* |
| どこから来てどこへ |
| 生はからっぽのジェットコースター |
| 大赤斑の楕円をまわりにまわり |
| 靴屋レビーを五十年 |
| 愛する木星に繋いでいた |
| 氷の塊がつぎつぎ砕け飛び |
| ひしゃげた軌道が止まったとき |
| 儚い現世に目覚めた |
| 引力に導かれて |
| 肉の重みを生きること |
| 氷を耳にあて聴いている |
| 地に繊毛が伸びる音を |
*SL9彗星=シューメーカーレビー第9彗星
*田村奈津子詩集『人体望遠鏡』(1999年あざみ書房刊)より「木星の月」からの引用があります。
同人誌「gui」no.60 August 2000 に掲載
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