rain tree homeもくじ執筆者別もくじ詩人たち最新号もくじ最新号back number vol.1- もくじBackNumberback number16 もくじvol.16ふろくWhat's New閑月忙日rain tree から世界へリンク関富士子の詩集・エッセイなど詩集など
vol.16


 

女 友 達

              関 富士子

              
夕方の五時を過ぎたころ倉庫街の製本工場の前に
三人の太った女が立っていた
一人は黒人で厚い縁のめがねをかけている
二人は日本人のようだが黒人と同じぐらい太っている
小さな顔のしたの胸から腰までぐんぐんふくらんで
初夏のゆったりしたシャツブラウスの裾が揺れる
すれ違うとき一人がバーイと言った
ちょっと振り向くと
片手をあげて互いにあいさつしている
黒人の女は交差点を渡って行った
二人はわたしのあとを歩いてくる
裾のすぼまったパンツでよちよち歩く
パーマのかかった長い髪の女が
両手を広げて見せている
―手がこんなに
手のひらをこすって洗う仕草をする
エビアン買わなきゃ、とも言っている
商店街に来たところで二人でスーパーへ入っていった
一緒について入りたくなるが我慢してそのまま行く
(エビアンは買わない
ただ 古い友達を思い出した
彼女たちと同じぐらい太っていて
しじゅう何かを食べては手を洗っていた
刺繍入りのきれいな布靴が好きで
優しい小さな声をしていた
アパートに泊めてもらったとき
あたしもうだめかもしれない
と泣いてからすぐに
いびきをかいて眠った
ベッドの上でうずたかい胸が上下していた
もう何年も会わない
独りで暮らしていると聞いた
しじゅう食べてはくりかえし手を洗い
毎日どこかの工場で働いて帰りには手を汚しているだろう
友達と笑いながら手のひらを見せ合って
スーパーでエビアンを半ダース買うだろう


紙版no.16掲載

tubu<詩>黒の海岸/渚/なぎさ/ナギサ(三井喬子)
<詩>モクセイの木(関富士子)
rain tree homeもくじ執筆者別もくじ詩人たち最新号もくじ最新号back number vol.1- もくじBackNumberback number16 もくじvol.16ふろくWhat's New閑月忙日rain tree から世界へリンク関富士子の詩集・エッセイなど詩集など
関富士子の詩 vol.17 vol.15
<詩>「女友達」縦組み横スクロール表示へ縦組み縦スクロール表示へ
文字化けするときは等幅フォントでご覧下さい。