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vol.18
横組みのみ

ヤリタ ミサコの 詩  2 

フラグメンタルオフィスキル2000歩いている間に/ぼくたちは/すでになかった石の女
 

 「フラグメンタルオフィスキル2000 」朗読ヤリタミサコ  137.10

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フラグメンタルオフィスキル2000




左耳のなかに 10号ゼムクリップが23個あるとしたら
右の脳の上のほうに 3号ホチキス針がたった1箱だけ 見えている
そんな午後2時3分
あくびはたぶん14回目
  
あ 自己紹介をちょっとだけ
私の母はおいしそうに銀色に光るスプーンです
父は今も昔も酔っ払い
そして私は 今 右の卵管に1051回目の細胞分裂を感じています
そして 胃の底でひそかに アルミニウムを味わっています
  
朝9時から笑って唄って私がたたくキーボードは とびっきり個性的で
私らしさが充満しています
まったく快適な環境で
感情は黙っていても256人に伝わります
  
でも 下半身には
むずがゆく むやみに運動する数字たち が おもーくぶらさがっているんです
えーい 128枚ぜーんぶ
B5サイズに縮小してやるぅ
  
課長と部長は1億光年の分別ゴミ
ジレイやらジヒョウやらジブンやらジサツやら
再生紙の再利用の再サイサイサイ
ちがったちがった
とがったヒジ とがったカカトで
あざけり けり けり ける
紙っきれの休暇
紙っきれの遅刻
紙っきれの未来
紙ぎれのプリンター
紙ぎれのコトバ
紙ぎれの記号
紙切れの・・・切れの・・・切れ・・・
切れ
切れ
切る
  
シュレッダーにかけるものは
何?
  
キル


2000年「MOOK MINI FUMI NO.3」
tubu<詩>歩いている間に/ぼくたちは/すでになかった(ヤリタミサコ)へ(横組みのみ)
<詩>ALLENとMAKOTOと肛門へ(ヤリタミサコ)へ(横組みのみ)
<詩>鳥たちはめぐっている(関富士子)へ(縦組み横スクロール)縦組み縦スクロール表示





 「歩いている間に/ぼくたちは/すでになかった 」朗読ヤリタミサコ  166.08


歩いている間に/ぼくたちは/すでになかった   1999 09 16




ぼくたちは
歩いた
登ったのではない
駆け出しそうになったかもしれない
歩いた
ただ ただ 歩いた
  
声を出した
呼んだ?
呼んだ気がした?
呼んだのは
声が聞こえたのは
あの 暑い日のこと?
  
歩いた
歩きながら
歩きながら
泣いた
  
聞いた?
聞かなかった
何も
何も
まだ まだ 聞きたくなかった
  
歩いているうちに
ぼくたちは
すでになかった
  
あったのは
すでになかった声
いつまでも あるはずだった 声
  
暑い日
ぼくたちは追った
  
ぼくたちは
何か言いたそうにして
でも
何も言わなかった
そして
歩いた
何も
聞かずに
歩いた

tubu<詩>石の女(ヤリタミサコ)へ(横組みのみ)
<詩>フラグメンタルオフィスキル2000(ヤリタミサコ)へ(横組みのみ)




 「石の女」朗読ヤリタミサコ  166.08

石の女




夜ごと 女は 9か月になる赤ん坊と 寝た
きりの老父を 圧殺する 時には忠実な友人
である 猫のチーコも勢いで 一緒に だ 
方法はいたって簡単 手当たり次第 生ゴミ
や赤ん坊やヤカンや猫や老父や掃除機やアル
ミ缶やドライフラワーなど目についたものか
ら山積みにしていく いちばん上には風呂の
ふたをのせ 広辞苑と研究社新英和大辞典と
平凡社百科事典をその山の上にのせそのまた
上に自分のお尻をのせすばやく55キロの体
重をのせて安定をはかるのだ 漬物石の要領
で なかみをならしながら両の尻のけつっぺ
たでバランスをとる 前後左右上下にまんべ
んなくゆっくりと そしてだんだん激しく腰
をゆする ぎゅうっぎゅうっと 
よーし これでよし 手をぱんぱんとはたき
大きく 息を吐き出すと 女はしばらくの間
身動きせず 恍惚として墓石になる
石は何を考えて石のままでいるのだろうか 
石は自分の生き方をどんな理由で選択してい
るのか その生き方に後悔はないのか 私自
身も詳しく言うと石 に違いないのだが 実
は世間に内緒にしている だがプールもしく
は銭湯で 石 であることが露顕した場合 
グレープフルーツあるいは 鶴 と名乗るべ
きか ただ単に笑ってごまかすべきか アイ
デンティティに関わる問題だけに悩むところ
だ だがどうせ 石女 私は卵子のかわりに
一万個の小石を産む女だ ざっくりと割れた
断面がきらきらとひかる黒いダイヤ 亀の甲
羅の亀甲石 さらさらとした手触りの安山岩
御影石の墓石は 胎内に死者を宿しているの
だっけ 私の骨盤は 無機物と空気を清潔に
胚胎している 透明な羊水には 不満とぐち
しかつまっていない 10年と10か月が過
ぎたら 順序よく排出していこう ぺったん
こにひらべったくなった赤ん坊 発酵してと
ろとろになった老父 発情した掃除機も食器
洗い機も洗濯機もガス湯沸器も みんな産ん
でやる そんな夜 夜ごと 女は 石女
1998年「ぐるうぷふみ9号」

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<詩>歩いている間に/ぼくたちは/すでになかった(ヤリタミサコ)へ(横組みのみ)
<詩>鳥たちはめぐっている(関富士子)へ(縦組み横スクロール)
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