
vol.18
ゾロの世紀とゾロの世紀の間を
長澤忍
1
消印の衝動あり、
2月2日とか2月22日とか
バーコードが押しつけられている
KIOSKへも郵便局へも行けなかった
「2のゾロを好みやすいから」
水で洗ってもべたつく躯になった
<痕跡>になると写してしまうのだ
ときに余白のままでいたいのに、
史のメカニズムが作動する
フィクションでもドキュメンタでもない
つめたい蜜柑をつぶす
ゾロの世紀とゾロの世紀の間を、
「999は終焉であり」
「000はリセットであるのか」
羊水のような浴槽で、
黒い<REC>がこわれかけてしまった
この小さな町を去るかもしれない
Y山の棘が視えるアーカイヴだけを残して
2
電話のプラトンは終わった
母音分割の占いのこと
わたしの名字が負けてしまった
あなたは「液晶」の駅のホームで聞きはじめ
おそらくは路上の途中で電源をOFFにした
帝都にもSNOWが降った
竹のそよぎと、指のからみあいは嘘になった
固有名という古傷、
999か000の瞬間
私たちはtelephoneで接続されていたはずだ
「雪国」を見ると約束したはずだ
あなたも『2.26.』という詩集を落下させていた
未だ見つめなかった墓地
「肉はヴァーチャルにはならない」
母音をめぐる3Pは終わり
あなたたちはWWWで接続させていたはずだ
「海の白を記憶していきます」
あなたの文字が汚ない稜線となる
3
皮フを落とせばと、
裂いていつも
黒いカメラを取り出す
SNOWへの足跡さえ写したい
「余白じゃなくなると写している」
神を読了している。
左側の傷が錆びたまま青空に放置されて
肉の方か、現像の方か、
その路上の途中で傷を負った
印刷が「近代」だったとするのは易い
写しや映しがzeinだったとするのは易い
WWWのSNOWが降りだしている
消印だけがひとつの人称だった
ひとり写している詩人ではない記録士の影を、
<収録>と、レントゲンの家とを彷徨し
抒情は生き延びていきそうだ
RADIOが史を記録してくれている
右耳の皮フが錆びている。
4
君の固有名はZeamiの血をひき
聾の水道塔を遠景に雪をさわっていた
BBB展の夕方に遭遇し、
雪の犬の足跡を写そうとしていた
私たちは<絶筆>の絵画を見つめていた
最後の枝は左手でかすれきって描かれていた
なつかしい銅版画のプレス機械の記憶、
君はBOOKをOFFにしていた
私は発禁っぽいカリスマの書物を手に入れた
君が写したゼブラ老人や改札口や赤光の写真、
19、20、 21 世紀を生きようとしていたひと
WWW展の夜だけを約束し
世紀末に私たちは指南されているだけだ
君の黄金の毛、君の垂直ではない足
犬の痕跡も雪の余白を消していた
土手をおりてS川のうねりを確かめようとしたのだが
私と同姓同名の少女が何処かにいるらしい
君は南方から水道塔の骨のみを写してきたのだ
2000年「ウルトラ5号」
*連番号1‐4は原文ではローマ数字です。
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