ことばの遊園地〜詩、MIDI、言葉遊び
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詩集『あさっては雨』 辻基夫


こんな筈ではなかったよ
空飛ぶ石板 導くままに
ラララ 星のかなたで
宇宙の古層を掘り当てる
人類祖先がそこから来たと
暗号見事に解読するんじゃアなかったの?
明けてみれば ナンダナンダァ
二十一世紀は きのうの地続き
『美しく青きドナウ』
今年も炬燵で聴く羽目に
アア HALまだ遠く
み寺の甃のうへに歩ませる
わが身の影は
後ろめたき二十世紀の近似値か


  ほがらかに噛みつく地球の表皮
  路面電車ゴトッゴゴロ
  「さようなら、またあした」
  ……ゴロダゴ、ゴロダゴ
  「元気でね、手紙書くからね」
  秋、深く日は渇き
  今日で終わりかも知れない
  人類の一日、
  埃と塵の架線下に
  ゴグドゥゴグドゥ、ギリン…
  虹の糧、小さな約束を
  追いかけて



過去の話をしよう
土地と太陽と
破れた靴のことだ
肉眼では見ることのできない
細胞のかなたに棲む牛のことだ
まるまって動かない
季節のかわりめの一日
人の裏にちょこんと落ちた
測ることのできないその距離だ



  静かな声で其処へ辿り着くと
  ひとが
  ひとのかたちをして
  落ち葉の中にあった
  日を浴びて佇っていた異国では
  幸福は
  いちばん手近な石として
  明るい過去を語るばかり
  ――僕の前に未知はない
  僕のうしろに未知はできる
  おお始源よ 未知よ
  僕をひとり立ちにさせた
  広大な未知よ
  其処は
  静かな声で辿り着く処
  ひとのかたちをしたひとが
  日を浴びて
  明るい希望を語るばかり
  紀元一世紀の
  小石



いまはもう忘れかけている
輝く未来のなぎさと名付けた
三千五十八グラムの女の子
直かに僕は掻き抱き
熱を出させて東奔西走
にぎにぎさせて百花繚乱
輝く未来のなぎさのまんま
輝く未来に息絶えた
大きくなったなぎさを辿り
小舟の上でどろんと溶けた
きらきらゆらゆら
日の粉になった
輝く未来のなぎさ
また会おうなあ
魚になって青い波
ぐるぐるりゅって笑いながら
いっしょに遊ぼうなあ



  その頭上、太陽はかがやき巡り
  しかしもはや思うところなく
  貧しく満ちて静かに眠った
  嬰児にして瀕死の老人
  億光年の旅
  夢のかなた、願われた場所として生き
  偽制と汚辱、反抗と順直の
  それは問いであり また
  答えである
  風景と
  音
  かすかな大気の明るさに
  ひどくおののきつつ掌をかざす
  思索の辺地、人間の淵で
  わずかな未来を手繰る
  ひとであることを
  けんめいになぞっていた
  ラッパ吹きのジェルソミーナ



僕は男だが
女であることを越えて
はじめて男だ
僕は個人だが
全体であることを越えて
はじめて個人だ
きみは素敵に歌うが
爆心地の虹を掴め
はじめて素敵に歌えるぞ
真実はたった一つだが
無数であることを越えて
はじめてたった一つだ
きみは美しく老いていくが
頬を焼く傷痕
ある日の断念
二つながらきみを越えて
はるかに美しい村に届くぞ





春   小石の中を   さら   さら

まわりの世界が   流れていく



  竹生島百六十七段の石段を
  しまいにはよたばりながら駈けのぼり
  必要十分なるお参りを数分で済ませ
  (済ませたことになるかどうか…)
  ただただ『空海請来目録』に会いたくて
  雨中はるばるどきどきしながら
  やって来ました
  手のひらサイズの小さな巻物
  読めませんよ、漢文ですから
  でも、わしは防護ガラスにへばりつき
  しゃがみ込んで息を呑む
  宗教書でも思想書でもない
  このたんなる手みやげ品カタログが
  山河一千年、がつんとやった


山田線が僕は好きだ
(人形峠・ウラン)(柵原・硫化鉱)などと
繰り返し暗誦していた十三歳の一日
この先行くとも思われない遠い岩手の山中に
山田線はあった
濃い緑淡い緑のやまなみを
あるかなきかのか細い鉄道が
途中で怠けて止まっても
誰も見ていないから平気だよ
山田線は
地理の勉強でしかお目にかかれない
三十年も前の話
そうして僕は
二十七歳の一日
山田線を思い出した
古い工業都市の赴任教室
四十人の生徒をまえに
弁当を開けたとき
――こんど岩手へ行かふ
という錆びた声を聞いたのだ
山田線はきっとある
いきいきと青い
昔の姿で
鳥や狸を蹴散らし蹴散らしねっ


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