ことばの遊園地〜詩、MIDI、言葉遊び
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詩集『あさっては雨』 辻基夫


ぼくは涙
たましいの批評
可笑しくってたまらないとき
母の目尻にかがやき宿る
ぼくは涙
たましいの輪唱
酒飲み、からみ、悪罵の限り
父のまなこでしずかに歌う
ぼくは涙
たましいの由来
ビスケット一枚でかえってゆける
太古の海と太陽の記憶



 負けて道を曲がるのだ
 両側に軒をつらねた狭い路地がある
 水遣りも遠く忘れた朝顔の
 鉢が倒れていたり
 埃をかぶった板戸が開けられたこともないか
 それでもまた負けて
 道を曲がるのだ
 ちゃぼちゃぼと
 洗面器の水が放ってある
 貼紙のない電信柱
 何度も負けて
 そのたびに道を曲がる
 曲がった処に
 三十年前なら踏み板の外れたどぶ
 超高層を望む現代でも
 軒端の風鈴
 洗って干してそのままの運動靴
 敗北はつねに清潔であった
 曲がりたいから負けたのかな
 曲がるたびに見た
 かずかずの小さな空
 掌のひらで隠れるほどに小さな
 そら豆みたいな
 祈りみたいな




物語の始まり始まり

物語は積雪五センチ

物語は手を離れ

豪華装丁の
背表紙ばかり



 地を覆い低徊していた風から
 或る時
 若者の翳りをもつ
 みどりの風が生まれた
 ――アジアの小さなその村が
    日本と同じほどに豊かになることを
    きみはほんとうに
    願っているか
 山々を越えたみどりの風から
 或る時
 怒りのかたちをした
 葉脈が育った
 ――アフリカの小さなその国で
    電気水道ガス
    冷房暖房
    自動車電車
    高層建築
    きみは本気か
 デカン高原に遊ぶ光の風に
 或る時
 薄い幸いは包まれて
 天の埃となって舞い上がり舞い降りた
 ――きみが享受するいっさいのものを
    すべての貧しい村や国が
    いずれは等しく手にするようにと
    きみが願っているなら「愚か」と言おう
 地の果て東京に押し寄せる
 みどりの風と怒りの葉脈
 静かに肩を並べて
 静かに傘を差しかける
 坂の上の静かな交差点
 ――地上と地下とを問わず
    あらゆる資源は食い尽くされ
    たちどころに地球はひからびる
 海風の回廊を駈け抜けていく
 アンデス山麓からパタゴニアを駈け抜けていく
 右側の馬と左側の馬
 紫の蹄鉄を鳴らして
 小さな村 小さな夜 小さな約束を踏み潰す
 ――その土地の実情に即した豊かさがあると
    きみが言うのなら
    きみの享受する生活は
    きみの土地に即してかちえたものか
    むしろ逆ではなかったか
 二頭の馬の両側を
 並行してもう二頭の馬が逆走する
 ザバイカルの徒刑地
 アルマアタの市場の棚
 風、
 みどり、
 若者の翳りを置いて
 今はいないその人に尋ねたい
 大地の限りに
 怒りを含む村や国
 きょうの日没と
 食卓を去るその風貌と


五歳
 ぼくの未来は
  あそこの夕焼け
   七歳
    ぼくの未来は
     小鳥でいっぱい
      十歳
       きみを知った
        未来は透明
         十四歳
          未来の霙が
            ぼくを撃つ
              十七歳
               真綿の過去も
                焼き尽くし
                  二十歳
                    三十二歳
                     四十三歳
                       誰にも内緒で
                         水の未来を聞いている



でもほの暗い病室で
いや
かび臭い地下通路で
わずかばかりの衣類や骨灰とともに
あなたのあしたを手に入れたわ、と
泣いて差し出す夥しい人影
たしかにあした来るはずの朝のよう
たからものはあした
とっておきの一日に
物語りは小さく始まり
都市の山なみを経巡っていく
どんな約束を
誰と交わしたか
やがてこくっとうなづき
小さく終わろう
約束の在り処
西へ向かって歩いていこう
ほんたうに
切れ切れの青い空に似て



 駅の階段を昇る
 そのときかくじつに
 日本は滅びる
 傘を日本刀のように持って
 駅の階段を昇る
 そのときかくじつに
 日本は滅びる
 肩掛け鞄を肩掛けにして
 駅の階段を昇る
 そのときかくじつに
 日本は滅びる
 わかっちゃいるけどわからない
 駅の階段
 未必の故意ですらない
 うしろの人生
 無神経ともいう傘の先と
 鞄の角が
 I am Japan
 ゆえに我れあり我れ思う



陳腐な言葉と馬鹿にするもんでねえ
おめえの受け取り方が陳腐なんだ馬鹿野郎
モーツァルトの交響曲第一番を知ってるか
八歳の小生意気が書いたこの曲を
大の大人が白髪混じる頭振り乱して
大真面目に総がかりで
馬鹿野郎六千五百円も取りやがって
それでもこれはおもしろい
だから音楽はおもしろい
それに引きかえ馬鹿野郎
かびが生えた言葉だの時代錯誤の主題だのと
言う奴に限って感受のアンテナ
かびも生えぬ大砂漠
馬鹿野郎誰だって一生のすべて
陳腐に過ごせるもんでねえ
言うたれ言うたれっ



 かつて風景は
 愛撫と潤沢な言葉と
 自身思いもよらない
 色とかたちとに包まれ
 真底喜びを湛えていたと聞く
 そして時には
 子どもの拙い線画の中に
 ほっと横たわることもあったのだ
 そこに落ちたひときわ明るい声
 今 風景は
 乏しい限りの午睡の翳で
 死んだ鳥を気圏に翔ばすことを
 かんがえている


「子どものうちキスをすると
くちびるが荒れるのよ」
年長の少女はそう諭し
素足のまま庭のまわりに誘った
その夜いつまでも風は鳴りやまず
明け方を告げる幾種類かの擬音のあと
再びしんとした折
眠りはたんに習わしに過ぎないものとなった
次の日であったか
レンズというものに興味をもち
危うくまばゆい陽光を失おうとしたのは
だが私は
それが物を拡大して見せることにではなく
世界をいっそう明るく
逆しまに収めることに秘蹟を感じたひとりの
やや心弱い少年に過ぎなかった
おそらくは物言わぬ堆積
人知れぬ光合成
石造の欄干にもたれた女の人から
より多くの母を掠めとり
夜の庭土に栽培した
のちのこと私は
いつか真っ青な流空にうたれて
ひとりの少女を味わいつくそうと欲し
乳白色の息づかいをさとられないように祈るのだった



 貧乏苦なんにもないはすがすがしい
 独身疲
なんでもかるくみなされる
 家事労働給与出
いのちのせんたくままなら
 病気
さんじゅうくどでも用心めしつくる
 火気おやのいいつけ緊張まもります
 ALONEこのそらをALONEとべたらALONEなあ
 無銭ひろがるよくぼう外出なだめつつ
 服飾売場はなやぐきもちを小散歩ときはなつ
 職業住所ながれよわがなみだと警官は問う


まんまるの女が転がり出して
俺の中から吹き転がって
それは長い坂道を
まんまるになって朝日を浴びて
ころころごろん
ころころごろん
まんまるのまんま膨らみ始め
もう止まらない
あっちへぶつかりこっちへ飛ばされ
まんまるの女は泣いていた
転がりながら手を伸ばし
でも転がっていくまんまるは
わんわと泣いて膨れ上がって
転がっていく坂道に
おまえ転がれなぜ転がらぬ
あれあそこを行くはイイ男
思うそばから転がって
膨れて明るいまんまるの昼
果てない昔に転がって
それからずっとまんまるは
止めてくれない誰をも潰し
下敷きにして膨々と
夕焼けめがけて
いやめがけずとも
おのが自然に躍り込み
小焼けになるともまんまるは
広く平らな海転がして
女の一生
  もう婆さん



 かつて過去と呼んでいた
 古い未来の泡立つなぎさ
 群れ飛ぶ怒り
 碑文は燃え
 そうして
 美しく老いていく村がある
 むしろ
 アルトの気品と質量
 樹影青く爆心に
 その滋福の人と向き合わん
 記憶に戻らない類いの一日、
 また一日


今日のカバンの中は
――これをこそ支離滅裂と云うべきか
保険証、診察券、傘はいいとして
石垣りん氏の詩集一冊
病院で貰った薬やレシート
思い立っての線香、
着火用に買った日本経済新聞と
ライター
駅頭で渡されたティッシュ・ペーパー
途中下車してまで買った宝くじ――
うちへ帰って泣いたって
不思議ではない雑然雑駁
昔好きだった女の人によく似た人と
電車の通路をはさみ
真向かいにすわった日のこと
その人は
太りかえってしまって
こちらを見て
にこにこしているので
そしてそれが懐かしい感じなので
妙な気がしてはいた
数秒後
ア、あの人なのかな、
と思ったときはもう遅かった
僕は一、二度探るようにそっと見た
たとえその人であっても
まったく心騒がず波立たず
能面のように
批評家のように
風景として見ていた
しかたのないことだ
一九七二年夏、広島
御幸橋からひとつの小箱とともに
正しい恋と正しい無念、正しい故郷を
投げ捨てたのだ
そして今日のカバンの中は
保険証、診察券、傘、
詩集、薬、レシート、
線香、新聞、ライター、
ティッシュ・ペーパー、宝くじ



 二歳の女の子が死んだ
 歳の離れた十四、十五の兄姉から
 殴り倒され(二歳だ)
 蹴り倒され(二歳!)
 死んだふりして耐えるを覚え
 そうして
 「もうダメかしら」と
 昆虫の最後でも見るような母親の目の前で
 敢然と息絶えてみせた
 ねぇきみ
 死んでからクーラーボックスに入れられて
 夏の賑わい秋のかがやき
 真冬の静けさをベランダで過ごした
 二歳のきみ
 僕んとこへおいで
 僕にお憑きよ、一緒に遊ぼ
 二歳の死霊なんて素敵じゃないか
 きみだけじゃぁない
 悔しい思いで死なされた十歳の子
 わけもわからず息止められた五歳の子
 言葉ひとつも覚えないうちに殺された0歳の子
 ほかのたくさんな
 きみに似た死霊
 きみたちが来てくれると
 僕はとっても嬉しいなあ
 みんなで一緒に大行進だ


僕は語ることができるだろうか
過去のまばゆい土地で
樹木の影と
暗い未来の悩みと炉熱
誰をも記憶に残さず
誰の記憶にも残らなかった日
青黝い声は
わずかになだらかな山々をわたり
人里の境で
あるかなきかのつむじ風
小さな伝承と歌謡を生んだ
僕は語ることができるだろうか
鳴りやまぬ管弦の降りそそぐ土地へ
さざめく樹木の枝々へ
未来を受け継ぐ悩みと炉熱
地層はるかの位置にあって
虫と魚群と太古の気圏を願うばかり
誰の記憶にもとどまらぬ日の水たまり
青黝い声と途上の人と
僕を語る樹木の影と



 都に遠い畠田の奥に
 もう使われぬ軌道は駈ける
 儲からぬ麦を刈り
 乱れ飛ぶ真白き唄う鳥のある
 都に遠い畠田の空は
 もう止めやらぬ泪をはらう
 見よ韜晦の黄金風景
 軌道は鈍く交差して
 うざうざ草の揺れ綴る
 いちばん星、いつもいちばん星なの?
 都に遠い畠田を駈けて
 黙って鉄路の封じ込む
 森の棲家
 岩の記憶
 そはかすかなる柳あおめる
 北か南か 泪はらいて
 魚を喰う
 一千九百九十五年
 都に遠い畠田の手前
 小さな駅に麦は積まれぬ
 畠田の果ての遠い都
 虫落つ秋風古城の原野に
 ゆめ思うことなかれ
 枯野を駈ける赤き鉄鎖の
 しばしも日当たるときなきことを



煤けた柱の
ごちごちした木目の
その内に
経典の類いが埋まっていようとは!
それも
ただ

の底の
言葉少なな
配慮から



 こうして往古
 周縁・辺域を
 周縁・辺域とみなす習わし
 人の混じりこむ処に
 あらゆる位相を放ったという
 二十世紀語で、帝国
 ―― 欠けていく未来 ――
 ―― 乏しく明るいパプアの木立ち ――
 投げたレーキを再びとって
 山なみの奥に
 新しい鈴、
 巡礼の人の過ぐるを聞く



                      T

ユリイスが十八のときの手紙は  すでに失われてしまった  それについての
記憶はもはやだれのもとにもないだろう  その秋  最後の恋となったうずく
まる時間をかかえて  ユリイスは街道に立っていた  山稜の向こう側に動く
黒と赤の形をした雲とともに  いまでも思い出すことができる  そのころま
でにユリイスは  おそらくはずいぶん長い間抱き続けてきたせいであろうが
困悴して  人びとを遠ざけるようになっていた  それはいけないことだった
が  ユリイスにはよくわからなかったにちがいない  手紙はユリイスによっ
て書かれ  ユリイスによってはこばれた  便箋の明るい影のため  ユリイス
の本心を確かに読み得たとは  だれも言えなかった  手紙はみじかいものだ
った  ほんとうに風のようなはやさで  人びとはそれを読んでしまった  街
道では新しく葉を落とした銀杏が  いく本も遠くへ立ちならんでいた  そん
な定かならぬ光景がひと月もつづいたあと ユリイスはいなくなった  うわ
さがたち  どこかかなたの内側で  たおれているユリイスを見た  という者
もあらわれた  人びとは視線をあつめ  その人の言う草原の方角へつぶやい
てみた  《ユリイスはだれを好きだったのか》  家々の窓という窓が過去の
記憶のように  人びとの上でひかっていた  その一角にユリイスが好きだっ
た少女が  長い冬を待ち焦がれて静かにすわっているのだった

                      U

世界が少しも変わらなくなり  歳月はユリイスの皮膚をはなれた  ユリイス
は次第に  この世でいちばんさみしいものの風貌に似てきた  明るい蛍光ラ
ンプが置かれた木造りの机にもたれ  何時間も外の音を聞いていた  机から
離れて  部屋を横切ってゆく影と親しんだ  それからユリイスは  時々見上
げたりもした  東から立ち昇るみごとに淡い星団を  いつまでも鳴りやまぬ
未来の轟音を  かつて幼いユリイスの耳もとに  すべての言葉が心地よい風
を運んできた  そして人びとがそれを忘れていくように  ユリイスもまた忘
れていった  わずかに明るい足取りはユリイスを他人のように歩かせた  三
方を山に囲まれた小さな地方都市で  ユリイスはいつしか大学へ通うように
なっていた  その頃ユリイスが読んだ書物でただ一冊だけが残っている  ど
この野原で読んだものだか  風の匂いと乾いた草の繊維がはさんである物理
学の入門書だった  狭い教室の中でユリイスはどの数列を思ったことだろう
そしてどれほど長い間  変わらなくなった世界を前に見上げていたことだろ
う  その頃はもう誰ひとり  ユリイスに近い者はいなかった  たとえ木々や
空が深い色で染まろうと  ユリイスは背中から陥ちていくほかはなかったの


                      V

賑やかな街灯りをくぐり抜けたときのことだ  ユリイスは幸福な気分に駆ら
れ小さな音楽をつくった  後ろには遠く市街電車の火花が光り  頭上では静
かに電線が走っていた  そのあとを追うように  幸福なユリイスの道が続い
ていたのだ  長い影になった石べいに沿って  寒さに震えながらユリイスは
歩いていた  急いで帰って今日の教程を復誦しなければならなかった  それ
は中世ドイツの歴史についての長大な教程だった  ユリイスが興味をもった
ただひとつの教程だったという  そのときのユリイスのノートは大切に残さ
れてある  教程の合い間にユリイスは働きもした  港にはいつも何隻かの外
国貨物船が停泊していた  木材や鉱石や鋼板が上下に揺れる中で  ユリイス
の目はそれらを追うのだった  そして数人の仲間と共に船底に降り立ったり
積み降ろされた鉱石の蔭でひとり離れて昼食をとったりした  冬の低い雲が
あった  ユリイスは想うことなく午後の港湾を歩いていた




 すりきれ果て
 貧しくいきものであろうとする
 ひかりか
 蟻か
 這う



おそるべき刻々が足もとから昇る気流の中で
消えたのかはまったのか
そっとすべり込んで世界の味わいになれるかと
ところがいつでもまちがいだらけで
旅仕度 はんぱ腰
その昔関所破りが闇を頼りに越えたという箱根の間道を
昭和五十八年三十一歳の私が亡骸とか過去とか
そういうものを頼りに越えていく
空は青々と暗く
やはり街路樹のしんとした大通りを歩くときもこんなふうだったし
いつかどこかではたして本当に
生存の波打ち際が決まっていたか
──地獄は一定棲家ぞかし──
一匹の蝶が御殿場方面へひらひら行くが
こいつにもついに出ることのできない皮膚のような決定があるし
それでこいつはまちがえないが
私ときたら思いも寄らぬ遠方にころがり出し
地の高さと雲の深さを測りながら
誰の記憶にものぼらぬ人間になってしまった



 水面すれすれに白く
 光る石垣 とび越え
 るなら低く伝わって
 くるあの峰の雲 血
 で織られた涌き水の
 ようなところだと
 わが鳥の揺すられた
 一日よ 鐘の鳴る美
 しさよ 地上に散逸
 した苦の種族が 再
 び帽子をとって立ち
 止まる



漂泊?! 買ったことがある
建物の裏角で
秘かに その押し花を
息を
天を
  あそこの
    いちばんひろいあたりを
縄文式の遺跡を掘って
あなたは
今も孤独なのですか



 わずか二十一の女だった
 自ら命を断ったのは
 綺羅たる電飾無尽の外都
 世に吐き出され
 世に捨てられた
 死んでからたった二分と云ふけれど
 生きているうちは貸すやつもなし
 宝玉の代わりに電飾看板をまとい歩き
 留守番電話には三年間で二件
 保険勧誘のその留守録は
 契約を取れない女が
 秘密に我が身を勧誘した
 手紙に書いて寄越したことがある
 その町の過剰な華美が好きだ
 過剰な華美はあくまでも
 電気によってもたらされる
 こころにもないことを言う女ではなかった
 あふれかえる電飾が
 二つの乳房の内側を轟轟と照らしていた
 綺羅たる話はひとつもなかった
 わずか二十一だった
 過去は一分で回想し尽くされ
 もういい…と眠った
 その歳になっても
 サンタクロースを信じていて
 十二月二十四日
 ほらね、いるでしょ?と言うのが常だった
 その日いっそう華やぐ大勢の人と電飾
 わずか二十一
 過剰の炎がその身を埋めたが
 荒々しく誰彼と呼び交わす
 ただそれだけのことをとても恐れた
 森林の暗い道のように



私の死骨は墓に入れるな
祖霊を穢しまた
生きてゐる者の暮らしを損なう故に。
死骨はいつさいの場所に納めるな
生きてゐる場所が見当たらなかつた故に。
そうして
私の死骨は中宥にとどまり
群がる時と言葉ひとつひとつに
静かに降り立つ
そのみちの
昏く遠い故に。


 おれの思いが
 ひとり暮らしの冬
 おれに辿り着いたためしはない
 同志よ
 同志よ
 どうしよう
 おれの思いは
 辿り着く前に死に絶える
 か
 またはおれが死ぬ
 辿り着かない数々の思いは
 冬の稲妻、
 その薄青い花茎を切る手つきを見よ
 乾いた光、聞こえない雷鳴
 なんにんの希望を
 切り苛んできたことか
 一束五百円
 冬の花束の明るい怒り
 遠く隔てたおれに
 はっきり届くのは
 意味の果てに打ちやられた残滓という名を持つ
 地球
 太郎を眠らせ 太郎の夢に雪降り初む
 次郎を眠らせ 次郎の胸に雪降りつむ
 ぎゅっと
 降りつむ



最新更新日 01年9月25日
詩集『あさっては雨』に目を通して頂き、ありがとうございます
ご意見ご感想等ありましたらぜひお寄せ下さい







お断り 詩の1・詩の2に掲載した作品の中で、私淑敬愛する幾人もの方々のスタイル模倣や作品の一部
引用をしています。いずれも、許容される範囲であろうと思っていますが、問題点がありましたらご連絡願
います。




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