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関富士子未刊詩篇より
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蟹を売る男





ガラスをひっ掻いて

合図をする

かすかなうめき声



この敷石から

あの岸壁まで

九十三歩

顔がすりへる



鉄塔の下で店を開くと

電線を渡る風

なまぐさい

頭が痛くなる



胸のはれもの

耳のかさぶた

腋の下のじくじく

太腿の青痣



おまえらが買わないなら

こうしてやる

これを見ろ

おれはこんなものは食わない



路上で蟹を踏みつぶす

汚水に散乱する赤い肉



その長い爪にはさまっている肉のかけらを

しゃぶっていろ



おまえらが

くそまみれで

はい上がってきたら

もう一度

海に蹴り落としてやる



帰りの船を待つあいだ

崖から海に

ざらざら

小石が落ちるのを

見ている


(詩誌gui no.44.1995.4掲載を改稿)



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関富士子未刊詩篇より

もしあたしがまんびきしたらママに言う



ママに言う

その時ひどく壊れた

ロボットが

あたしにむかって

ほうった

さも嫌そうに

肩からぶらさげてた物を

それは

ねじれた腕

冷たいのに震えもしない

こうちょくするだけ

けちのついた

お守り

学校のプールのトイレに

あたしの絵がかいてある

きれいな花の中で

笑っているあたし

逃げていくからっぽのアタマ

やってないやってない

やったのは

あのきたないそばかすだらけの

あの虫歯だらけの

あのすけべな

あのこ

その時ひどく壊れた腕が

あたしの首のあたりに

くっついて

あたしをぐいぐい引っぱった

伸びきったバネがすごい勢いで

あたしをほうり投げた

ママの足もとへ

壊れた腕がばらばらになる

かきあつめる

けちのついた

お守り

あたしはママに言う

あのこがした

あのばか笑いの

うそつきの

恥知らずの

おしっこちびりの

あのこ




水橋晋個人詩誌「巡」no.11(1995年6月)
 



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関富士子未刊詩篇より

くすぐる者





くすぐる者に足首をつかまれる

転ばされ指がわきばらに触れてくる

すぐに笑いが始まる

う ふふふ くくく

手足を縮める

はじめは甘やかな気配がある

声をしのばせるがすぐに

耐えきれずに大きく息をつぐ

ひひひ あー ひひひ

たまらず身もだえる

くすぐる者の指は

細いあばらのあいだにくる

必死で防ぐと喉をねらう

しだいにかん高い叫び声になる

やめて もういや

くすぐる者の手首をつかみ

あらんかぎりの力でねじる

脚をばたつかせて

その顔を蹴りあげる

くすぐる者はやめない

もがき くねり ひどくひくつく

息もできずに笑いつづける

顔はふくれあがり手足はしびれる

ゆるしておじさん

激しい憎しみがこみあげる

尿意が腹を熱くする

おしっこ もれそう

もらせよ

くるめく殺意と絶望が

わたしをぷっつりと切る

熱い尿が腰にまわる

たえまなくけいれんし

さらにながながと笑い泣く

全身がしびれて疲労におおわれ

骨と筋肉がぐったりとつぶれたとき

くすぐる者は急に指を引き

わたしから立ち去る





水橋晋個人詩誌「巡」no.3(1992年10月)
 



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