vol.３箴言集
樋口 俊実
他人の褌で弁当を包むのは
相撲をとるよりもたちが悪い
虎の威を借りる狐が来るとき
どこかで虎は丸刈りの
猫になっているのか
正直の頭に紙やすり
をあてる者に
愉快な犬の尻尾の
本当の白さはわからない けれど
捨てる神あれば踏む神あり
予言に梅干し
床に杉
西に火中に栗を入れる人がいれば
行って弁慶ずくずく
夜川を渡る
この世のことはこの世のこと
備えあれど憂いあり
サモアの夏はふらふら歩き
褒められもせず苦にはされ
小人閑居して不善をなす
いわんや悪人をや
つまり
人生楽ばかり
来る者は拒まず
去る者は追いかけて
猫も杓子定規も
十を聞いて一を知るなら
親しき仲に礼儀なし
泥棒をみたらほかに三十人いる
事実はいつだって
小説のような木だ
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vol.３
温泉の効能
樋口 俊実
この温泉が発見されたのはいまから四百年前
西欧近代合理主義と同じぐらい長い歴史があります
単純アルカリ泉に天塩を加えて
複雑な味わいを出しました
思想的な偏向は治りませんが
胃弱や修善寺大吐血
たいていの皮膚病にはよく効きます
長期の滞在を希望する方には
山上の宿舎をお勧めします
朝ごとに訓示を垂れる野暮はありません
信仰の自由を完全に保証し
入湯料は一日二百五十円 ほかに
こんな山奥でも税金はかかります
勝手ながら
温泉玉子の販売は夏の間お休み
とさせていただきます
なお源泉は
飲み湯としても利用しますので湯舟に
読みかけの官能小説や
おわあ おわああ
と啼くうるさい猫を
漬けたままにしておくのは御遠慮ください
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