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vol.3

折り句の楽しみ1・2
折り句の楽しみ3
present for you 暗号の詩


ジオラマの劇場 ・・・Miss V に
関富士子


五分前を知らせるベルに

少し遅れて席に着くと

古ぼけてたるんだ暗幕に

やがて銀ねず色の父の影

そばにたたずむほっそりした母

おさない兄弟たちのだれかれ

夕焼けの森を背景にして

サンドレスの小さな少女の

ひどくうすい影も映っている

いまはひとりだけの観客席に

囁きかける声がやまない

きせかえの紙人形たち
折り句の楽しみ4





LUNAR CALENDAR ・・・Mr.Z に

関富士子


新月を吊るす二つのてのひらに

八朔の香りが不意とよみがえる

きみは野に出て暗夜をさまよい

水汲む川で熱い指を冷やすのか

朝露の滴を待てず渇きは果てず

唯甘い実を貪った報いのままに
折り句の楽しみ5





Xさんへの手紙  KIKIHOUSE 桐田真輔


たまには真夜中でも不意に

食べたくてキッチンに来て

ただもの凄い勢いで独りで

つくるのは特製のラーメン

でも足りないのはいつでも

シナチクと厚い焼豚などで

あと焼き海苔二枚あればね
折り句の楽しみ6



<詩>「月に名まえを」(関富士子)「天気」(関富士子・樋口俊実)へ
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 月に名まえを・・・Xさんに

関富士子

 昔あの天体が月という名をもたず

 空の一隅を巡っていた頃人類はまだ

 地の子午線上に現れず大空には

 アポロどころか一片のキント雲も見えなくて

 かぐや姫も月には来なかったの

 宇宙人の誰もが未だ月を知らず

 嵐の大洋にはいん石が降りつづいて

 静かの海でさえ真っ赤な塵が吹き荒れたの

 ただ休みなく地球の潮を引いては

 ふくらみ冷えてゆくあの四十億年

 月はすこしもさびしくなかったの

 たやすく月と名づけた私たちのさびしさを

 降りては昇る夜に月はいつも慰めるの

折り句の楽しみ6







ふたりはひとつ(折り句詩共同制作の試み)

樋口俊実 & 関富士子


 天 気  (1998.1.16)


 は郵便男の通過ののち白眉をくもらせ

 菜園に短篇ほどのわずかな文字を降らせた
  (1.21)

 似たような絵を赤道のあちら側で見た記憶がある

 あれは死者の日それとも節分
  (1.26)

 らしゃ敷きの処刑台のひとに群集が投擲する果実

 史書にはないがわたしたちもその欠片を食べた
  (2.4)

 のどの汗を拭きながら束の間 郵便男は足を休める

 田畑と荒れ野と渓谷とあの夕暮れとこの真昼の途中で
  (2.14)

 とんがり杉の先から小さな渦巻が

 へびいちごの森へ落ちるのを見るあいだだけ
(3.1)

 もしもはあり得ないのだが もしも今ここに

 有る灰と散逸の午後が夏至の日の短い夢であれば
(3.18)

 ルーペを握ったファーブルが今 昏睡した

 ゾウムシをハチから奪うところだ
(3.27)

 差しかえと落丁だらけの昆虫図鑑をたよりに

 夜の来ない岸辺を探すわたしたちの掠れた声がする
(5.9)

 名前をどこに失くしたのかしら

 ラベルは水に白いまま貼りましょう
(5.23)

 打ち据えられた草たちの影を川面が正確に映し

 けしの群落を炎が包むとやがて良い煙が高く遠くひろがる
(6.3)

 がらんどうの天井を郵便男はゆく

 人々がことづてるのは連綿たる雲の呼び名
(6.10)

 生きものの匂いのするほうへ風をたどり

 だれかがまだ文字に空の慰藉を読んでいる場所へと
(6.16)

折り句の楽しみ7

折り句の答え
4「ききはうすをたずねて」
(KIKIHOUSE)は、北村太郎の詩に隠された暗号を発見した桐田真輔さんのHP。北村太郎の折り句が解読されています。
5「甘露汲み朔月の野で待っていて不二」
6「あなたのすきなたべものなあに」「おやすみなさい未来の大人も昔の子どももいまのあなたも」
以上の4つはそれぞれ宛先のVZXさんの文字がヒントになっています。
7「はなにあらしのたとへもあるぞさよならだけが人生だ」
天気のあとで(樋口俊実)"rain tree" vol.6 へ
「ジオラマの劇場」「LUNAR CALENDAR」(関富士子)「Xさんへの手紙」(桐田真輔) へ
<詩>「箴言集」(樋口俊実)へ
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